■ 年末年始だぞ、双頭会全員集合!
からりと開けられた戸の中は、
先ほどの部屋よりは半分ほどの広さだがでもやはり普通の家で考えれば広い場所だった
そして中の人間の年齢層は先ほどよりは10歳以上は若くなっている
それでも充分にいや若いからこそ騒々しさは半端がない
中の様子に呆れて眺めていると、
「あら、さっきの」
「え?」
聞き覚えのある声に振り返ると
一人の男がこいこいと手招きしていた
自分を連れてきたたはずの人物はさっさと中に入ったらしく見当たらなくなっていて
仕方なくそちらに足を向ける
どうせ知り合いと言う知り合いはいないのだから
「こっちに座りなさいな、一緒に飲みましょう」
「あ、はぁ」
男にしては中世的と言うよりも女性よりの造りをしている顔がニッコリと笑みを浮かべ
即されるがままに座ると、
「何を飲みます?」
「あ、じゃーウーロン割で」
「はい・・・・・・どーぞ、」
手馴れた手つきで俺の飲み物を作る
それを礼を述べながら受け取り口を付ける
そして思ったことを正直に問いかけた
「え・・・・・と、どこかでお会いした・・・・はずですよね?」
「えぇ」
「・・・・・っと、」
「格好が変わっちゃったから分からないかしら?」
男は長め髪をさらりと流して首を傾げて笑った
その笑みに
はっと思い至る
「もしかして・・・・さっきの?」
「はい、道を教えたのがアタシよ」
「・・・・・・」
ふふふふっと笑う
言われてみれば先ほどの顔にこの笑みが重なる
そして女性らしい言葉
もしかしなくてもそちら方面のご職業で・・・・?
「ご想像通りにオカマよ、バーでホステスもやってるの」
「す、すいません」
「いいえー気になさらないで?」
思ったことを感じ取ったのだろう、
俺の心の声に答えられて慌てて頭を下げるとその人は笑った
「馨よ、ヨロシクね?」
「桂木です」
「で、こっちの子は大谷君」
「・・・・・」
横にずれて見えたもう、一人の青年が
俺と目が合って無表情に頭を下げられる
無表情で人に絡まれることを避けているかのように馨の背に隠れる
それに苦笑を浮かべて俺に向き直った
「ところで、桂木さんはどこの方なの?」
「え、どこって?」
「どこの組の方なの?」
「・・・・・・あぁ」
組ね、組・・・・・
どこにも入った覚えは一度たりともないのだけれど、
背にあんなのを入れられればそう言っても信じてはもらえないのだろう
仕方なしに答えた
「西園です」
「あー西園さんの所ね、良い方よね?」
ちょっと変わった方だけど、
そう笑う馨に隠しもせずに嫌な表情を浮かべ返した
「そうですかね?」
「あら・・・・・そうよ、まー変わってるけどウチノよりは紳士ね、」
「紳士・・・・」
あれのどこが!?そう思うも
馨の言う相手はあれよりも凄いのだろうかと思ったら
気の毒になった
凄く
「アタシは燦条(さんじょう)よ、」
「・・・・そうですか、」
まだこの世界に首を突っ込んで短い俺にはその名を聞いてもピンとは来ず
曖昧に頷く
その組がどんなで誰が組長でと言うのも
今聞いてるというか覚えさせられている状況だ
「今度、長岡って言う男に会ったらぶん殴っていいから、ヨロシクね?」
「・・・・・え?」
心底、楽しそうに歪んだ顔で言われて間抜けに聞き返すと
黙ったままの青年が、
「そんな事したら、桂木さん大変になっちゃいますよ」
「そうねー」
「それに自分でしないと、」
「そうよねー自分で殴らないと気がすまないわよねー」
その通りだわ!と意気込んで拳を作る姿に
目を白黒させる
「大谷君も今度ぶん殴ってやんなさい!一瞬でも気が済むから!」
「はぁ・・・・でも、その後に何が来るかと思うと無理です」
「・・・・・そうね、それも有るわね」
2人は息ぴったりにため息をついた
何なんだ?
一体何の話しをしてるんだろうか?
持ったウーロン割りをちびちびやりながらその姿を見届ける
「あら、ゴメンなさいねー」
「いえ・・・・」
「貴方にこんな話しをしても意味分からないわよねー」
「まぁ」
それはそうだ、
苦笑して頷くと
馨さんはおくびもなくバラしてくれる
「アタシねーその長岡って男に好き勝手に囲われてんのよー」
「!?」
「僕もです・・・と言っても、馨さんとは違う人ですけど」
「っ!??!?」
びっくりして2人の顔を見れば、
気にした風もなく二人で『いやよねーいやですね』なんて言っている
い・・・・・いいのかそんな事言って!?
「ち、違う人って・・・・」
「あっちで見ませんでしたか、場違いに若い男」
「・・・・・・・あ、えっと・・・・伍瀬組、だっけ?」
「はい、あの男に囲われてます」
淡々と言ってくれる
いや、そんな何でもない風に言われても俺・・・・どんな反応すれば!?
ぐるぐる考えていたら勝手に話しは進んでいて、
「ホント嫌いよーやくざ、」
「僕もです」
「アタシはのんびりとオカマ業やってられれば良かったのよー」
「僕は・・・・まぁあのまま行ったらいずれは殺されてるかもしれませんけどね」
「へー・・・・・っえ!?」
ヤクの売人だったんです、
だなんて・・・・・
そんなことを暴露されても困るだけだ!!
大谷は無表情に言ってくれるが、
俺は何故だか酒を飲まないと聞いてられない状況だった
ウーロン割を一気にあおる
「あら、空けました?次は何を飲みます?」
「び、ビールで」
はい、どーぞと傾けられたそれを並々と注がれて一度二度とあおる
イイ飲みっぷりに馨が感嘆の声をもらして、
次々と注がれていった
気づかないけれどペースがいつもより早い
→ そのまま飲み続ける、
→ 冷たい風にあたりに席を立つ