この気持ちは何なのだろうか?












胸の裡、



奥の、



奥の、



奥の、



ずっとずっと奥の、



そのまた奥に隠された気持ち、




鍵のかかった箱の中にあるような気持ち、




見てみたい、




知りたい、




でも見たくない、




・・・・・・・さて、


自覚するべきか、


しないべきか?


























アレから2時間後、
ようやく逃げる追いかけるという事に飽きた面々はそれぞれ散っていった
久坂の命が散ってしまったかもしれない事実は眼を瞑ることにして・・・・
今現在の状況に目を瞑れない自分がいる
すっかり忘れていたメール受信
いつもの呼び出し
2時間以上前の【空手部部室へ】の内容
逃げることに頭が一杯になってたという言い訳なんか聞き入れるはずのない相手
溜息どころか携帯を手にする手が震える




行ったら何が起きるのだろう?


何をされるのだろう?




そんな考えが頭の中を占めてどうにもならない
怖いと思う気持ちは理性が感じ、
待ち望むように求めているのは本能、
この身体に触れるあの人の手に焦がれるかのように、恐怖で震える足は呼び出された場所へと向いて歩いている

帰ってしまったという事を都合よく願いながら、ゆっくり静かにドアを開ける
そっと中を伺ってみると、窓を背に配置された空手部室に不似合いな大きくスタイリッシュなソファー
そこに深く身を沈めて眠る志賀の姿があった
着替え途中で眠気に襲われたかのように締められないまま肩に垂れたネクタイと、
下から数個しか止められていないシャツのボタン
何時も見慣れたはずの肌になぜか目の置き場に困りながらそっと近づく
疲れているのか、自分の気配を感じても起きる様子がない
このチャンスを逃さず帰ってしまおうか?と言う考えが脳裏に上がるが、
身体はその考えとは裏腹に眠る志賀の隣に落ち着く
ギッとした軋みに一瞬みじろいだが、そのままスゥっと眠りに落ちるのを見つめる


初めてこんなにジッと見る志賀の顔
いつもは見ている余裕も何もあったものではない
与えられる強烈な感覚に揺らされているだけで、目は硬く瞑られているのだから
寝ていても整った端正な顔立ち
周りが騒ぐだけあって顔の良さはさすがと言うべきだろうか、
もう大人になりつつあるその身体に、自分のコンプレックスが刺激されるが、
でも・・・・僻むものではなかった
次元が違うと言うべきか、
比べるのもおこがましいような感じ、
この人と比べる方がおかしいのだ
何だか考えていることがバカバカしくなって、志賀から目を離す
外は6時を過ぎるのに今だ夕暮れに染まっている
日がのびるこの季節
志賀の半袖のシャツから伸ばされている腕は浅黒い肌
自分のシャツからは日焼けを知らない男にしては白いだろう肌
もとより日差しを浴びること、運動が好きではないインドアな自分
寝ているのを良い事に、その腕に指を這わす
縋りついて爪を立てることはあっても、こんな風に触れたことはない
指に感じる志賀の体温に、自分の中にも火がともる
心臓の鼓動が早くなり、早く触れて欲しいという欲求が生まれる


はやく目を覚まして、
はやくその腕で抱いて、


何でも良いからこの火を収めて欲しかった


いつしか志賀を拒むことをしなくなった
抱かれることに嫌悪感もなくなり、
苦痛も戸惑いもなくなる
そのかわり、何だか解からない感情に振り回されることにはなった


考えれば考えるほど、
その感情はよりいっそう奥深くへと沈んでいってしまう
己の姿が見えないように、
気付かれないように、
気付かれてしまわぬように、
見ないで、
気付かないでと泣く
自分の心なのに、
なぜ自分の心に拒まれるのだろうか?
何故だかよく分からない感情


触れたいと思ったら触れている指先、
欲しいと思ったら強請る唇、


確実に自分は変わりつつある、
前の自分には戻れなくなる、
変えられてしまった身体、
変えられてしまった感情、
欲張りになった自分、
抑えることをしなくなった本能、
拒むことを諦めた理性、


目を覚まさない志賀の膝の上に乗って、
その肩に手をかけて、
指先で顔の輪郭を辿る、




「・・・・・・・気付いてるんでしょう?」



ホントは隣に座る前から、



「起きてたのでしょう?」



寝たふりをしていた



「いい趣味ですね?」



薬指と中指で触れた唇が笑みの形に歪む
薄っすらと開かれた唇からのぞく舌に指先を舐められて、
ぞくぞくとした感覚が背筋を這い上がる
開いた目線は己を捕らえて離さない鋭い眼光、



いつもと違うのは・・・・



そこに、



少しだけ含まれた後悔の色






それに気付く前に閉じらてしまった瞼
ひどく優しく触れてくる唇の感触に、
己の中に泣きたい気持ちが湧く



いつもと違う


優しい感覚










確実に変わりつつある何かは


自分だけではなくて


泣きたい気持ちは


奥底の何かに触発される