自分の愚かさを悔やむ時





何に懺悔すればいいのだろう?





何に希えばいいのだろう?




























ダーーーンッ!!




「っぐぁ!」

朝7時半を過ぎた道場の一角で稽古する者たちの掛け声と倒される音が響き渡る

「コラーーーっ!岡崎っ何してる立たんか!!」
「・・・・っす!」
「次っ!一条っ志賀とやれ!」
「っす!」

顧問の掛け声と共に倒された人物はヨロヨロ起き上がり、呼び込まれた後輩が目の前に立つ
お互いに礼をして構える
間合いを取りながら相手の出方を読む
一瞬の隙を付かれてはいけない
一瞬の隙を見逃してはいけない
たった一瞬で決まる
突きを腕でガードして
開いた隙間に蹴りを繰り出す
ガードが早いか
俺が早いか
五分であったが勢いはある

「っ!」

ガードしても勢いは殺がれず
一条のガードが外れそのまま出した足を地に着けた軸に反対の足を回す
これにも即面でガードしようとするが、
今度は受けとめきれなかった
横に一条が飛んだ



ズダンッ!!



壁に激突する寸前に滑る身体が止まり、一条は頭を降りながら立つ
その位置のまま頭を下げ

「ありがっした!」

礼を言ってから正座する一団に混じって座る
それを機に顧問が時計を見た

「よし今日はココまで!!」

『ありがとーーーっした!!』

部員全員の礼と共に朝稽古が終わる
今日も疲れた
道場の真ん中で上を見上げて息を吐く
入り口付近で顧問の怒鳴り声を聞いてちらりと目線を向けると
先ほど俺に吹っ飛ばされた3年で部長の岡崎先輩が言われていた
その他にも数人の先輩も怒鳴られている
その面々は実力はそこそこなのだが、
それを鼻にかけて威張り散らし不評を買っている奴らだった
弛んでるだの、部長だろうだの、ま〜散々だ
嫌ってる奴らからすれば、
ザマーねぇだろう
ま、俺もそのうちの一人

「ほらっ志賀、着替えねーと遅刻すっぞ!」

タオルを投げつけられながら友人に声をかけられ漸く歩き出す
ゾロゾロと大人数で道場を後にし、
シャワー室へと向かう
そろそろ先に入っている上の者が終わる頃だろう
一人が溜息をはきながら

「あ〜朝からキツかったなぁ今日も」
「だよな〜」
「爺さん年なんだし張りきんなってのな?」
「言えてる!」
「つーか一条、お前もあと少しだったな?」

後ろについて来ていた後輩の肩に腕をかけながらそう言うと、本人は軽く頭を下げた

「っす」
「そうそう!な、志賀?」
「おぅ・・・・俺もうかうかしてらんねーよ」

先程のことを思い出しながら思ったことを口にすると、周りが嘘くせーとか囃し立てる
本心なのにな〜

「お前が言っても信用なんねーよ!」
「そう!!この稽古の鬼!」
「あ〜あ〜俺もそんな事一回でもいいから言ってみてー!」
「無理無理!」
「お前じゃーぜってぇ無理!」

ぎゃはは!と大声で笑う奴らに釣られて俺も笑う
こういう事も嫌いではない
むしろ色々とやましい事を忘れられて良い時だ
シャワー室の入り口で着替え終わった先輩らに頭を下げてから2年である自分らも入っていく
いくら実力があっても礼儀を重んじる世界
年功序列
先輩後輩
気に入らなくても頭を下げる

「お疲れっしたー!」

嫌な奴らでも
嫌いな奴らでも
ムカつく奴らでも
先輩
一応、先輩
声に感情の篭っていない
心にもないことを口にして
頭を下げて入って行く
相手も俺らが気に入らない様子で
無視を決め込んで出て行く
そんな事より早く汗を流したい思いでさっさと入って用を足す
次は一年もいる
ちんたらしていたら遅刻もする
バカ騒ぎしながらもする事はする奴らと共に笑いながら洗って拭いて着替える

「あ〜最悪、俺しょっぱなから体育だぜ!?」
「ご愁傷様だな!」
「俺は西野の英語なんで気持ちよく寝かせてもらいます!」
「マジ!?ずりーー!」
「志賀は?」
「あ、俺?・・・ふっふっふ・・・・自習だ!」
「マジで!?」
「うっあズリーー!!」
「はっは〜何とでも言いな!」

ズルイズルイと叫ぶ奴らに高らかに笑って外へと出る
廊下で待っていた一年に声をかける

「お前らは入って良いぞ〜」
「「っす!」」
「「「お疲れっした!」」」
「失礼します!」

次々と頭を入って行く後輩を見送って俺も教室へと向かうほど良く疲れた身体に眠気が襲ってきて
自分の机の自分の椅子に座った瞬間眠れそうだった
デカイ口を開けて欠伸をする
身体を伸ばして前を見ると、一条が目の前に立っていた

「お?一条、早く入んねーと遅刻すっぞ?」
「・・・・・っす・・・・・」

何か言いたそうな目で俺を見て動かない
その横をゾロゾロと通って行く

「先、行ってぞ!」
「おう!」

軽く手を上げて見送ってから一条に視線を戻す

「で、何だ?」

無口な一条
礼と掛け声ぐらいしか話したのを見たことがないくらいだ
それなのに、それ以外の事を口にする一条に興味が湧く

「差し出がましいかもしんねーっすけど・・・・」
「あ?」
「さっき・・・・部長が、言ってたんス」
「岡崎・・・・?」

空手部部長の3年岡崎、嫌われ者集団のリーダー
いつも吹っ飛ばされて悔しそうな顔で見てくる
そのバカ岡崎が何だって?

「『気に入らないからノシてやる』・・・とか・・・・『好い気になってんじゃねー』とかを」
「・・・・っふ〜ん」

あいつらの考えそうなことだな
下らなすぎる

「それだったら別に何とも緒も思わねーんスけど、」
「?」
「何か他にも言ってたんっスよ・・・・聞こえなかったけど、でも何だかあんま良い事じゃなかったんで・・・・一応」
「・・・・・・」
「言っておこうかと」
「・・・・分かった、覚えとく。それよりもう入れ、マジで遅刻だぞ?」
「はい・・・・お疲れっした」
「おぅ」

頭を下げてシャワー室に入るのを見送ってから歩き出す
俺の実力を知っていながらでも気になったのだろう
聞こえなかった言葉が
聞こえなかった言葉が異様に引っかかったのだろう
すごく大切だったのかもしれない
全然大切でもないのかもしれない
けれど何かが引っかかったから俺に言った
気にとめておいた方が良いのかもしれない





「ま・・・・・杞憂で済めば良いが・・・・・」






後悔は後にやってくるもの



悔やんでも仕方がない



悔やんだって仕方がない