着実に
変わりつつある事
土曜、半日で終わる今日という日。
部活を行く者や速攻で帰る者と様々で、自分と言えばどうしようかと悩みながら帰りの支度をする。
机の中から必要な物を出していると、読み終わった数冊の単行本。
決定。
今日は図書館に直行だ。
バックを肩にかけて、さぁ出発と言うところで・・・・・
廊下の先の方から数人の足音と笑い声と悲鳴。
駆け込んできたのは、青褪めた表情の久坂、目に涙まで浮かべて笑う仲原、笑いながら走って息が切れて死にそうな三嶋だった。
「助けて黒ちゃん!!殺されるっ俺殺されちゃう!!」
「・・・・・・・・・・・」
「あははっ!!」
「瞬ちゃん笑い事じゃないんだよ!?」
「ちょーーー笑い事、笑い事のナニモノでもないねっな、三嶋?!」
「げっふ・・・・ごふっがふ!!」
それどころじゃないらしい。
息を吸うので精一杯のようだ。でも、笑うことも怠っていない。
話しが見えないで眉間に皺を寄せると・・・・・
ガシャーーーーーンっ!!
「ひっ!!」
「きたーーーー!!」
「ごふっ!!」
何かが投げつけられて、跳ね返って転がる音がする。
確実のソレは壊れたであろう音。
そんな物体を蹴りつけて、教室に入ってきたのは・・・・・・珍しく晴れやかな笑みを浮かべた久保田だった。
にこにこにこと、怖いくらいの笑みを浮かべている。
「くくくくくくくっくくくっく・・・・・久保ちゃっ!」
「壱ドモりすぎーーーー!」
「はぁ・・・・あぁやっと息ついた〜〜!三嶋たん復活!!」
ゲラゲラ笑っている仲原の横でウルト●マン・ポーズの三嶋を見る。
説明役には適していないが、今のところ話が通じそうなのは三嶋だけなので問いかけてみる。
「何事・・・・・??」
「ちょーーー大事で、笑い事で、楽しく他人事。」
「何だソレ?」
「けどある意味、巻き込まれ気味でちょっと大変。」
笑いのツボも復活したのか、ヒクヒクと顔を引きつらせて笑い始める。
「久坂・・・・・」
「ははっはっははい!」
「とりあえず・・・・・」
「ななんななんでしょうか・・・・??」
走って乱れた長めの前髪をかき上げて、にっこりと笑みを深める。
「死ね。」
ひょいっと隣にあった誰かクラスメートの机を片手で軽々と投げつけてきた。
誰彼かまわずに。
ガッガッゴン!!
「うおっ!」
「ぎょあ!」
「あぶなっ!」
「久保ちゃっ机は投げるもんじゃないでしょう!!」
焦って避けると、久坂がもっともなことを言う。
珍しい光景。
てか、ホントに巻き込まれ気味になってしまった・・・・図書室は無理かな?
何て、余裕こいて考えていたら第二段が飛んできた。
今度は椅子。
「久保田ーーー!俺は関係ないだろうが!ヤるなら久坂だけにして!!」
「ちょっ黒ちゃんアタイを見捨てる気!?」
「初めから助ける気なんかおきてないですから!」
「ひどっ!!」
教室の端に転がっている椅子が、無実のクラスメートにおもいっきしあたって止まった。
彼の足には確実に黄色に変色した青たんが出来てるだろう・・・・・ご愁傷様・・・・
「てか明日は我が身!!?」
「逃げないと確実に我が身!!」
「ちなみに、メグたんとタケちゃんはオアシスに運ばれちゃいました!!」
きゃはっ!とか言って笑ってる場合と違うと思うから三嶋!!
仲原はフットワークに物を言わせて、ひょいひょいと避けている。
「お前一体何したの!?」
「俺だけのせいじゃないんだよ!元はと言えば瞬ちゃんが!!」
「うわーーーーー人のせいにしてるよこの人〜〜最低!!」
「最低〜〜〜!!」
「こっちのセリフで――――のあーーーーー!!」
指を指して大声を上げる久坂の指の先には教卓を高く抱え上げて笑う久保田。
「はっ早まるな久保田!!」
「話せば分かる!!」
「人間腹を割って話しても理解できないこともある!!」
「人生そんなモン!!」
「「ってややこしくするなーーーーー!!」」
仲原と三嶋のちゃちゃに久坂と声をハモらせた。
ちょっと不本意。
「・・・・・取り敢えず、一発でもいいから当たれ。」
「あっ当たったら死んじゃうと思うな〜〜久保ちゃ・・・?」
そんな久坂の言葉に、首を傾げてよりいっそう笑みを深める。
今だ頭上には教卓か掲げられたままである・・・・
「だ〜か〜ら〜〜・・・・死ね・・・てば?」
語尾を疑問系で終わらせて・・・・ついに教卓は投げられた・・・・・・
ドゴシャッ!!
「ひいっ!!」
「取り敢えず逃げろ!!」
「逃げるが勝ち!!」
「青タンだけじゃすまされなくなるぜい!!」
ダッと駆け出す4人。
その後を笑みを浮かべたまま追いかけてくる久坂。
さながら3流ホラー映画だ。
男なので、甲高い悲鳴は上げられませんが。
鬼気迫った叫び声は負けないとは思いますが!!
「久坂っ取り合えず犠牲になって星の王子さまになれ!!」
「犠牲になってもお伽の国には逝けないとは思います!」
「大丈夫っツバメが迎えに来てくれるから!」
「やったね壱っ親指姫も羨む逃避行だ!」
「全然さっぱり意味が分からないから!」
もっともな意見だ。
投げつけられる物が高速で目の端を通り過ぎる。
何をそんなにご立腹なのか!?
と、逆に感心するほど久保田の怒り心頭具合は最骨頂だ。
関係ない者が犠牲となって廊下に倒れ伏していたとしても笑みを浮かべながら踏み越えていっている。
何とも頼もしい割り切り方だ。
変な事に感心していたら、ポケットに入った携帯が振動する。
それは短い振動で、着信ではなく受信だと知らせる。
後ろのポケットに手を突っ込んで携帯を出したところで・・・・・
バキっ!!
信じられない事に、コンクリートの壁に深々と数本のペンが刺さっていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・まぁ・・・・何だ・・・・命の危険てやつなのかな?」
無言で刺さったペンを見つめ、仲原がちょっと真面目くさった声でそう言った。
「危険って言うか・・・・?」
「確実に危機に瀕しているのは確かかな。」
「う〜〜〜ん・・・・・あの場でメグたん達とバスケットボール五発くらい当たった振りしとけば良かったかも・・・・」
そんな事が・・・・・真館、大江・・・・星の王子さまになれるのはお前たちが先のようか・・・・・・
ちょっと本気で走り始める4人だった。
俺は、そんな危機からかメールの事を一切頭から吹っ飛ばして約2時間にわたり学校中を駆け回っていた。
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