独りよがりの恋心










見ていたのは俺だけで





追いかけていたのも俺だけで





想っているのも俺だけ





想いだけが先走って





言葉にする前に





身体が動いていた





優しくしたいのに





酷くして





笑ってもらいたいのに





泣かせて





好きになってもらいたいのに





嫌われて





憎まれて





怯えられて





想いを告げる前からの玉砕





君に恨まれて





殺されてしまうことはあっても





好きになんてなる事はない





ありえない事







好きになんてならなくてもいい・・・・



ただ



ただ・・・・・・・









俺を









赦してくれれば・・・・・














それだけで





























「お前って・・・・・結構な先走りくんね?空手やってる割には頭で行動する派だと思ってたんだけど、俺。」

仁科の何とも言えない声に苦笑が零れる。

「まぁ・・・・俺自身もそれには驚いた。目の前にして気付いたら・・・・・」

彼が下にいて、
泣いて、
睨んで、
叫んでいたのだから

「頭真っ白になってたんだ。」

俺だけに向けられた笑顔に、理性が焼きついてしまった。
背を見せられたその瞬間に突き飛ばして押し倒していた。
驚いた顔で俺を見上げている目を手で覆って、
床に押し付ける・・・・そこまでは意識があったが、それからの意識は曖昧。
所々で泣き声と悲鳴と拒否の言葉は覚えているが、
それ以外の自分の行動と言葉を覚えていない。
ただ・・・・・とても酷い事をしたというのは、意識を取り戻してから分かった。
ボタンが数個外れたシャツや、
押さえつけられてできたであろう痣、
自分がつけた所有の印である紅い鬱血の痕、
そして・・・・
泣き腫らして赤くなった瞼と涙で濡れた睫毛と頬・・・・

「そんな姿見て・・・・かけられる言葉なんてなかった。」
「・・・・・・」
「ヤった本人から慰められたって白々しいだけだ・・・・それに・・・・」

その場にいたくなかった、
君から聞くであろう罵声の言葉は気休めにしかならなくても後の方が良かったから。

「弱虫。」
「ホントだよ・・・・・」

嘲りも責める言葉でもなく、
ただそう一言だけ仁科は言う。
頭を抱え込んだ俺の髪をくしゃりと混ぜられる。



いくら力が強くたって、
いくら喧嘩が強くたって、
空手が強くたって、
全国で優勝したって、
君から発せられた言葉を聞くだけで、
身体が震え、
絶望し、
どうして良いか分からなくなってしまう。



「ただ・・・・欲しかっただけなんだ。」

あの身体を

「俺だけのモノになったら、」

あの笑顔を

「どんなにいいか・・・・」

君の心が

「欲しかった・・・・」


もう、
一生、


「・・・・・・手には入らないけれど。」



手になんてする事のない幸せ、
自分から壊してしまった幸せ、



「俺って馬鹿だよな〜」
「そうだな・・・・」
「何で、手・・・・出しちまったんだろうな〜」
「あぁ」
「ホント、馬鹿だ・・・・・・俺・・・・・・」
「・・・・・・泣くなよ、志賀。」
「泣いてねーよ・・・・バ〜〜〜カ・・・・・・」
「泣けよバ〜〜カ。」

ゴンっと軽くゲンコツされる。
泣け泣けと言う。
けど俺が泣いてはいけない
泣いていいのは君だけ、

「泣け・・・・・志賀。」
「・・・・・・」
「知ってるか?人って色んな事ため込むとな〜それが爆発するんだぜ?」

遠い目をして、何かを思い出すような素振りをする。

「心ん中で爆発すっと手が付けられなくなる。」
「仁科・・・・・」
「それにな〜お前が泣いちゃいけねーって事、ねーんだからな?」
「俺が泣いたって面白くとも何ともねーだろうが・・・・・」
「まぁそれはそうだ。泣き顔って言ったら、なっちゃん以外に敵う可愛さはねー・・・・って、それは置いといて。」

箱を置くジェスチャーをする。
そんな仁科に俺が苦笑を零した。
いつでもどこでも何にでも弟が関する激しいほどの兄バカっぷりだ。

「ってかさ〜俺も人のこと言えないのよ、うん。」
「は?」
「俺もお前と同じって事さ、若気の至りよね?ってかまだ、俺ってピチピチだけど。」
「・・・・・今時ピチピチはねーだろう?」
「お前の突っ込み所の変化球は好きだ。」

にっかりと笑う。

「ま、俺は逃げなかったけどな。」

その代わり、
そう憎しみを込めて小さく呟き、

「親は敵に回しちまったけど。」

それを後悔などしている様子のない、仁科。
むしろ、それが当たり前のように憎悪を込めて言う。

「ま、人を好きになって手に入れるにはさ・・・・何かを失くして、何か犠牲するモンなんだよ。」
「そう・・・・か。」
「そう、それが例えば手に入れてはいけないモノだったならば、犠牲にするモノ失くすモノのリスクは高くなる。」

仁科の、たった一人の弟を手に入れるために失くしたものは大きい。
もう取り戻すことのない幸せがある。
けれど、ソレを上回るほどの幸せを手に入れた。

「だったら・・・・俺の今までのモノを上回るほどって何なのかね〜」
「それは今はわかんねーよ、取り合えず足掻く!」
「足掻く?」
「足掻いて足掻いて足掻いて、泣け。」
「・・・・・・・」

健闘を祈る!!
びしっと敬礼をした後に笑う。
経験者が語る笑い。









俺に待っている上回る程の何か、

今はまだ分からないその先、

何があるのだろうか?