Said : シガトモユキ














「志賀〜〜!!」

教室で雑誌を見ながら暇な昼休みを過ごしていると、
クラスメートに大声で呼ばれる。
目を雑誌から外して呼んだクラスメートの方に向ける。

「オメーに客だよっ1年で!」
「は?」

客?
俺に客って何だ?
しかも1年?

そう思いながら雑誌を机に置いて立ち上がる。
横で仁科がニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

「ひょ〜志賀ちゃん、呼び告?ニクイね〜」
「は?有り得ねー話ししてんなよ、馬鹿。」
「だって、客で呼び出しつったら告りよね〜円?」
「もしくは校舎裏呼び出しリンチ。」

仁科の言葉にさして興味もなく問題集片手にそう零す早瀬。
これこそ、は?
だ。
俺を呼び出すなんちゃ〜ドコの馬鹿だ?
と笑って一蹴してやる。

「俺を呼び出してリンチね〜・・・へ〜」
「怖いもの知らず命知らずって言うより、寧ろただの馬鹿だな。」
「お目にかかりたいよね、そんな人いたら。」

ケラケラ笑う仁科と、ふふふっと笑いを零す早瀬。
人をダシにして遊んでいるのは解かりきっている。
こいつらも相当な暇人だ。
暇ならお仕事(生徒会)でもしてりゃーいいのに。

「誰っ!?」

行くのもメンドーで立ったは良いけど、
そのまま机に寄りかかって閉じた雑誌をもう一度開く。
用があるなら入って来い。
そんな意味を込めて返すと、
入り口にいた奴は来た客人に名を聞いていた。
何度か言ってるうちにフイに客人とやらが顔を出した。

「っ!!」

見覚えのある顔。
・・・・見覚えありすぎる顔。
驚きのあまり手にしていた雑誌を落としてしまった。

「・・・・志賀、どーした?」

仁科の問いかけに答えられなかった。



どうして・・・・・
どうしてアイツがここに!?




驚愕で声にならない。
何でだ!?と、
聞き出したいのに声が出ない。

「あっれ〜・・・客人って久保田君じゃん。」
「うっそ・・・・!あーーーー和泉く〜〜ん!」

仁科の口にした名前で、間違いではなかったことを確認する。
早瀬が喜んだ声を出して手を振っている。
客人・・・・久保田和泉は、
軽く頭を下げてからゆっくりと俺に視線を向けた。
そして、遠慮もなくツカツカと教室に入って来て見上げてくる。

「・・・・・・・・お久し振りです、志賀さん。」
「ど、して・・・・・お前・・・・っ??」
「ココでは、何ですから・・・・・・顔、貸してくれますか?」

有無を言わさぬ声。
怯むことなく睨むように俺を見上げてくる。
異変と感じ取ったのか、
仁科も早瀬もその場に割り込むことなく傍観している。

「スイマセン、志賀先輩お借りしてもいいですか?」
「え?・・・・あ〜別に俺のモンじゃないし良いんじゃないの?」
「暇そうだったしね。」
「・・・・・・・」
「では・・・・・志賀先輩。」
「あ、あぁ・・・・・・」

久保田はくるりと踵を返して、すたすたと先を歩く。
後をついて行こうと足を踏み出すと仁科に手を引かれた。

「取り敢えず、話しは後で聞くよ。」
「分かった・・・・・」

揉め事ならと、付け加えて手を振って送られる。
一瞬だけ浮かべた生徒会長の顔をかき消して
、次の瞬間にはニヤリと笑った仁科に溜息をついて背を向けながら手を振った。













連れて来られたのは人気のない屋上に上がるまでの階段。
普段使われないそこはしんと静まり返っていた。
階段中腹で立ち止まり、今まで背を向けていた久保田が振り返る。
見下ろす視線に対峙した。


昔と変わることなく強い眼差し。

俺を前にして媚びることも怯むことも、まして脅えることもないその強い表情。


「・・・・・この学校に来てたのか?」
「えぇ、本命試験の前日に熱出して救急車で運ばれたものですから。」

退院するまでに期限が切れていなかった高校はココしかなかったんです。
そう付け加えて、笑う。

「・・・・・・相変わらずだな?」
「2年ぶりですか・・・・?まぁ、それくらいじゃ俺は変わりません。」
「・・・・・・・・」

そう言うとおり久保田は何も変わっていない。
前に比べたら髪と背は伸びたかもしれないが、
それ以外に久保田の持つ雰囲気は変わっていなかった。

「もうお前と会えることはないと思ってたんだけどな。」
「そうですね、俺もです。」
「続けていないのか?」
「・・・・・・・・」

続ける気はないのか?
そう目線で問うと、曖昧に笑った。

「貴方に1つ、忠告したいことがあります。」

けれど問いかけには答えてもらえず、

「俺は、俺のテリトリーにいる人を大事にしています。どんな立場であれ、受け入れたらそれは俺の大事な人になります。」

そうはっきりとした声が、静かな空間に響く。

「・・・・・・」

強さを増す視線。

「貴方が何を考えているのかは分かりませんが、もし俺の友人に何かあったら・・・・・」

言葉を切って、
何かを思い出すかのように目線を外す。

「その時は許しませんから。」

その言葉で、
俺の秘密が知られていることを悟った。
強さを増す眼差しと冷たさを含められた声。
普段味わうことのない【恐怖】と言う感情が、俺の裡に生まれる。

「く・・・・・ぼた・・・・」
「覚悟・・・・・していてください。」

ゆっくりと階段を下りてきて、
2段離れたその場からそう付け加え、
横を通り過ぎる。
下へと続く、階段を降りながら

「謝るくらいなら、しないことです。」

あんな顔で。




姿が見えなくなってから、その場に蹲って頭を抱える。
知られてはいけない人に知られてしまった自分の秘密。
彼は言ったことは実行する。
実行できるだけの力がある。
敵に回してしまったかもしれない彼の言葉が、
胸に突き刺さって見ないふりをしていた罪悪感と向き合うことになってしまった。










後悔に苛まれた夜、





達成感に占められたあの時、





罪悪感が生まれた君の涙、





幸福感に満たされた絶頂後、





絶望感に落とされた・・・・・・









【殺してやる】












そんな、



君の・・・・



君の・・・・・・泣き声







ただ・・・・・・



ほしかったんだ、



とても



とても



とても