ごめんなさい。








黙ってたんだけど、
いや・・・てかね?
言えなかったんだけど・・・・・



ホントは・・・・・





ホンとはさ、




ホントは見てました。











ゴメンな、黒田??


















Said : クボタイズミ






















あの時・・・・・・たまたま通りかかった、
部室棟の近くで誰かの悲鳴を聞いて立ち止まった。
最初、聞き間違いかと思ってそのまま通り過ぎようとしたけど

『やっ・・・・・やめ・・・って!』

嬌声交じりの、
小さな悲鳴に転びそうになりながら辺りを見回したのを覚えている。
どこから聞こえてくるのか分からなくて、視線と気配を巡らした。
ズラリと並ぶ部室のドア。
サッカー部、バレー部、バスケ部、野球部・・・・
それぞれのドアの前で一度立ち止まりながら中の様子を窺う。
剣道部、柔道部、薙刀部・・・・・・
そして空手部の前で、

『はなし・・・・って!』

そんな声。
明らかに男なのは確かめなくたって分かる。
確かめる必要なんてないのも分かる。
だってココは男子校なのだから。
うあ〜マジかよ!!って、動揺もした。
正直聞かなかったことにようとして、その場を去ろうともした。
けど・・・けど、泣き声が混じったからそれもできなくなってしまったのだ。

『いっ・・・・あぁぁっ・・・・!!』

どうしようかどうしようかと、
思い悩んでる時にふと聞き覚えのある声だったのでアレと首を傾げたのも覚えている。
こんな状況で余裕な自分にも首を傾げたようでもあるけど、
思い出す前に聞こえた名に・・・・・

『黒田・・・・・・』

驚きの声を出さなかった自分に拍手を贈りたい。
今になって思う。
絶対に、大声を出していたのは間違いないけれど咄嗟に口を叩くように押さえたのだ。
周りの空気を一緒に取り込むかのように。
だって・・・・・
だって、黒田って言ったら、クラスメートの黒田巳咲しかいなくて・・・・
声にも聞き覚えがあったから。
でも、飛び込む気にはなれなかった。
てか、飛び込んじゃいけないって思ったから立ち尽くすしか出来なかった。
もし今飛び込んで行って強姦してるであろう相手を殴りつけて黒田を助けたからと言って、
黒田が【ありがとう】と言う礼を言うかといったらそれはありえないからだ。
黒田は、絶対に見られた事を後悔する。
そして絶対にいなくなるって思ったから。
飛び込むことが出来なかった。
ヒドイ奴って罵られても、
黒田と友達になれなくなるのは嫌だったしいなくなっちゃうのもヤダったから。

『いっやぁ・・・・・あぁ・・・・・・っ!!』

高い悲鳴が響く。


心底打ちのめされてる悲鳴。


否定しても否定しきれない悲鳴。


聞いてらんなくて耳を塞ぐけど、
でもその場から離れることは出来なくて目の前にあった大きな木の陰に隠れて出てくるのを待った。
ずっとずっと響く悲鳴に神経を侵されてるような気になって、
泣けてくる自分もあった。


助けられない。


助けに行ってあげられない。


終わって慰めることも出来ない。


そんな罪悪感にずっと犯されて・・・・・
気付いたら辺りは暗くなっていて、
ふいに声が止んでいたことに気付いたらドアが開いた。
零れてた涙を拭いて気配を殺しながら出て来た人の顔見た。
暗くてよく分からなかった。
けど、外灯の下にきた時に見えた顔に愕然とした。

「・・・・う、そっ・・・・!!」

知っている人だった。
そして、こんな事する人じゃないと思っていた人でもあった。


何で?


って言う言葉が頭の中でグルグル回転してる。


何で?

何で?

何でっ!!


ぐっと握った零しを木の幹に押し付けて相手の顔を睨みつける。
気絶しているであろう黒田を背中に担いでいるその相手・・・・
それは、志賀朋之だった。


許せない!!


そう思って、陰から飛び出そうと片足を一歩踏み出す・・・
けれど、その一歩で立ち止まることになった。
横顔だけだった志賀の顔が肩にある黒田の顔を覗き込む時見えたその表情で、
出て行く気を削がれた。


何で・・・・そんな顔するんだろう?
何で、ヤられた筈の黒田より痛みを堪えるような顔してるんだろう?


後悔と、
達成感と、
罪悪感と、
幸福感と、
絶望感、

そんな良いものも悪いものの感情も全部一緒くたになった表情があった。
そして、小さく音にすることのない言葉が動いたのが分かった。
それを見て、出て行くのを諦めた。
殴ろうと思った勢いも萎えた。
怒りも・・・・殆んど消えた。
ただ、自分の中に残るのは疑問だけ。





『ごめんな・・・・・・・』




なぜ謝ったのですか?