「黒田、近頃元気ないけど何かあったのか?」
「・・・・・・・・え?」

いきなりそう問いかけられた。
目の前には箸の先を齧りながら見つめてくる久保田。
真っ直ぐに俺を見る。

「何で?」
「だって溜息つく回数、多いよ?」
「・・・・・・・・・」

自分でも気付かなかった事を指摘される。
今日は珍しく、久保田と2人だけの昼食。
いつものメンバーはそれぞれの用事で先に済ませてどこかへ行ってしまった。

「・・・そう・・・か?」
「無自覚?」
「か、な?」
「ふ〜〜ん」

さして追求もせずに卵焼きを口に頬張る。
ソレを見つめ続けていると、ふと笑みを零して、

「また交換する?」
「・・・・ん」

卵焼きを返答を待たずに弁当箱に置かれた。
自分のも久保田に渡して、貰ったソレを口にする。
自分のより甘さが控えめな味。
それを租借していると、
ふと何かを思い出したのかペットボトルのお茶で口の中を綺麗にしてから問いかけてきた。

「黒田さ〜」
「ん?」
「・・・空手部の志賀先輩と知り合いだったの?」
「!」

いきなりの名前に箸で掴んだものを落とす。
そんな動揺に気付かずに、久保田はなおも続ける。

「何か・・・・黒田とアノ人って接点なさそうだけど?」
「・・・な、んで?」

知ってるの?
そう目線で問えば、首を傾げて。

「だって・・・・昨日かな?空手部の部室から黒田のこと背負って志賀先輩出てきたから、さ。」

何でかな〜って思って。
そう続けてお茶を飲む。
ストン・・・と、
血が一気に足元に落ちた感覚がした。

「一緒にいるとこ、結構さ頻繁に見るから知り合いだったのかなって思って聞いた見ただけ。」

見られた・・・・??
見られた、
見られた見られた見られた・・・・・・・!!

焦って答えを返せず、
呆然と久保田の顔を見続ける。

「てか、見てんのって俺だけだろうけどさ〜意外だね〜黒田の好きじゃなさそうなタイプなのに。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・?黒田、何で固まってんの?」
「い・・・・や・・・・・」

気を取り直して、
味なんて感じなくなってしまった弁当を口に運ぶ。
そこで、ふとあることに気づいた。

「久保田は・・・・志賀先輩と面識あったけか?」
「・・・・・・ん?ん〜・・・・・・」

曖昧な返事。
人の顔を覚えるのが苦手なはずの久保田からの志賀の名前に疑問を持つ。
入学して半年たった今頃なって、
やっとクラスメートの顔と名前が一致し始めたくらいなのに。

「ちょっと、前にね〜」
「あっちも・・・知ってるとか??」
「知ってると言うか・・・・・・たぶん、あんまり良くは思われていないと思うよ?」

てか、絶対に思われていないね、
そう言いながら苦笑いを零す。
人に負の感情を与えるのに皆無な久保田からの意外な言葉。

「そう、なのか?」
「ま、俺が悪いと言っちゃ〜悪いけど、不可抗力と言っちゃ〜不可抗力。でも、やっぱ俺が悪いね、うん。」
「・・・・・・・・」
「あ、でもさ!」
「ん?」

自分の話しを打ち消すように、びしっと指を突きつけられる。

「一言言わせてくれ!」
「なに?」
「空手部の人らには気をつけな!」
「・・・・・・は?」

今日は驚くことばかりである。
何で、久保田の口からそんな言葉を聞くのだろう。
怪訝な顔で意味を問うと。

「あの志賀って先輩は言いとしてもね、他は気をつけた方が良い!!」
「何言ってんの、久保田。」
「忠告なんだから、素直に聞けよ!」
「意味も分からず、言われてもね〜」

先程の動揺も過ぎ去っていつもの自分を取り戻す。
意地悪に問えば、
久保田はちょっと怒ったようになおも続けた。

「俺だから言えんの!ってか・・・・あの面子見たことあるから言ってんの!!」
「は!?」
「性質が悪いんだって〜アイツら。何でこの学校に来てんのか不思議だしさ〜」
「・・・・・・・」

俺の顔忘れてるってのも不思議なんだよな〜
そう小さく呟いた声を聞き逃さなかった。
忘れる?久保田の顔を忘れる?
何で?
そう思っても久保田は教えてはくれないことを気配で感じた。
自分で言っておきながら【聞くな】と目が言っている。

「ま〜・・・・志賀先輩と顔見知りってんなら大丈夫だとは思うんだけどね〜」
「・・・・あの人有名なの?」
「ん?ん〜〜有名じゃない?高校空手界の事実上のTOPだし?」

そうなか?
って、そうなの!?
初めて知った事実に目を見開く。

「アレ、知らなかった?」
「知らない・・・・・・・って、何で久保田が知ってるのかも疑問だけど。」
「ソコは疑問のままにしておこう!でも、志賀先輩がそうなのは事実です。」

結構さ〜有名な話しでしょうが〜とまで言われた。
噂に疎くて少し世間知らずな久保田に言われてしまった。
ちょっと・・・・・ショック。
そんなこと言われても知らなかったのだからしょうがない。
知りたくなかったってのもあるけれど。
何で強姦された相手の色々を知る必要が有るのか?
関わりにあいたくないと思っている相手なのに。

「でもさ、ちゃんと俺の忠告を覚えてろよ?」
「あぁ・・・・・分かったよ。」
「何、そのおざなりな物の言い方!!」
「だって仕方ないじゃん、おざなりなんだから。」
「うわ!ヒドッ!!」

ヒドイヒドイと何度も繰り返す久保田に、
笑いながらて宥めてこの話しを終わらせた。








この時はまだ、久保田の言っていることを理解できなかった。