気付けば、もう日が暮れている。

いつの間にか気を失っていて、
そのまま昏々と眠ってしまったようだ。
だるく感じる体を起こして辺りを窺う。
先程まで抱かれていた場所とは違っている。
見慣れる教室。
いったいドコだろうか?

「・・・・起きたか?」

背後から声をかけられる。
振り向かなくても分かる相手。
相手の顔なんて見たくもないから、黙ったまま頷いた。

「目、覚まさないから焦ったよ。」
「そうですか。」
「立てるか?」
「立てません。」

意地を張っても仕方ないし張ったところで立てるわけもないので即答すると、
気を使ってる様子の相手・・・・・1つ学年が上の志賀朋之。
顔を見せなかった俺の目の前にぬっと現れる。
そっと小さく溜息をついて、睨むように見上げた。
何もかも自分と正反対の先輩だ。
見上げる位置にある顔はそれだけ高い身長を誇示している。
精悍な男らしい顔つき。
鋭い一重の瞳。
低い声。
大きな手。
長い手足。
総合して【良い男】の部類に属する男。
しかし、俺にとってはソレが何だ?
と言いたい相手だ。

「そろそろ教室を出る、掴まれ。」
「・・・・嫌です。」
「一人で歩けないんだろう?」
「貴方に言われるまでもなくそうですが、触りたくありません。」
「・・・・・・・」

一体誰のせいで立てなくなったと思ってるのだ。
一々聞かなくても分かるだろうに。
そんな状況にした相手に触れられることを拒むことも聞かなくても分かるはずだ。
だからほっといてくれ。
立てる状況になったら立つし、歩くし教室を出て行く。
誰かに咎められたなら、
盛大に言い訳をつらつらと語ってやる。
アンタに助けられるくらいならな。

けれど・・・・・そう思っていても、結局は無駄になる。

「黒田。」
「・・・・・・」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「っ・・・・・・!」

そっと身体を組んで、耳元で低く囁く。
ゾクリと肌が恐怖を感じたように粟立ち、頭が痺れたようになる。
先程行われていた行為が頭ではなく身体が思い出したのか、
ゾクゾクとした感覚も芽生える。

「掴まれ。」
「・・・・は・・・い・・・・」

低い命令口調。
逆らえない声。
差し出された腕を取って、ノロノロと立ち上げる・・・・・が、かくんと膝が落ちる。

「っ・・・!」
「おっと・・・・やっぱ無理か。」

そんな納得した呟きと共に軽くひょいっと抱え上げられた。
女の子なら憧れる(のか?)姫抱きではないが、
片腕に腰が乗り腕を肩にかけさせられる。
コレでも一応、平均的身長体重の男子高校生だ!
それをいとも簡単にひょいっと担ぎ上げられるなんて・・・・・!!
もう・・・・友人に見られたら一生顔合わせできないような己の格好。
恥ずかしいっ恥ずかしいっ恥ずかしい!!!

「おっ降ろしてくれませんか!」
「一人で歩けるならな。」
「少し経てば歩けます!だから降ろしてくださいっ」
「俺は帰りたいんだ、今すぐな。少しも何も待ってられない。」

アンタに誰も待っててくれなんて一言も頼んでないし!!
むしろ先に帰ってくれたほうがありがたいのに!

「だから、大人しくそこに納まっていろ。」
「・・・・・・・・」

急に・・・・・ほんの少しだけ、語調が柔らかくなる。
時々こうやって忘れた頃に優しいような感じがするから
・・・・口ではとても言えなくなる、
情けない俺。
言えないというより、
言わせてくれないといったほうが正しいような気がする。
どんなに頑張っても頭は身体を押さえきれなくて、
ズルズルと流されていく関係。
いつの間にかこの状況が当たり前になりつつある。







呼び出されて、

抱かれて、

気を失って、

目が覚めて、

抱き上げられて、

家まで送られる。





最初ほど反感を持つことはなくなって、

最初ほど拒むことはなくなって、

最初ほど痛くはなくなった行為、

今では自分から行為を強請るようになって・・・・・

携帯が鳴るのを待つようになって・・・・・







どうしてなのか?
どうして数十分毎に画面を開くのだろう。


何故?
身体に触れてくれるのを待っているのだろ。


どうして・・・
どうして、
何時も考えるのは貴方に関する事なんだろう。


どうしてこんなことをするのか?

どうして俺なのか?

この行為に何の意味があるのか?

貴方が何を求めているのか?

俺に何があると言うのだろうか?






何がしたいの?

何をしたいの?

何が良いの?






考えても、
考えても、
考えても・・・
考えても・・・・・

答えは出ない。



理性が答えを出すのを拒んでる。



【聞きたくない】と、

【知りたくない】と、

【気付きたくない】と・・・・・


首を振って、
耳を塞いで、
目を閉じて、
何をも受け付けない。








目を閉じれば見えてきそうな・・・・・・