痛い









腹に鈍い痛みを思い出して目を開ければ、
見知らぬ数人の男たちに囲まれいるようだ。

曖昧なのは、
薄暗いこの場所のせいと、
目の悪さ、
かけていた筈の眼鏡がないからだろう。
目を細めて、
焦点を合わそうとしてもぼんやりとしかモノを把握できなかった。

そんな俺に気付いたのか、
一人が目の前に座った。



判別できる距離。



知らない顔。



「目、覚めたようだな?」
「・・・・・・・」
「どうしてココにとか思ってるよな?」
「・・・・・・・」

笑いもせず、無表情に言葉を並べる。

「お前に少しだけ餌になってもらおうと思ってな。」
「餌・・・・?」
「そ、お前に突っ込んでる男だよ。」
「っ」

悟る。
メールの相手だと。

俺の強張った顔を見て、初めて笑みが浮かんだ。

「あの男が執着するぐらいだから、どんな見目麗しいのかと思ったけど・・・・・・ま〜普通だったよな?」
「ってーか、俺じゃ〜無理だな〜」
「むしろ、勃ってのが信じらんねーよな?」
「具合とか良いんじゃねーの?」

下卑た笑い。
俺を見下ろしながら思い思いにそんな言葉を口にする。

「ま、メガネ取ったらイケてるか・・・・」
「何よ岡崎、ヤっちゃうわけ?」
「は?マジカンベンしろよ。金積まれたって無理だわ。」
「だよなー」

岡崎と呼ばれた男は、そう言って立ち上がった。
そして、俺の肩に片足を置いてグッと体重をかけてきた。

「っ・・・・」
「サンドッバク変わりにはヒョロすぎだし・・・・・使い道ねー奴。」
「つーかマジ釣れんのかよ?」
「釣れなかったら・・・・・・ま〜暇つぶしにはなってもらえば良いだろ。」
「オイ、志賀が来なかったら楽しい遊びしような?」

俺を足蹴にしている奴が身体を組めて、軽く頭を弾く。
屈辱的な扱い。
でも、反抗できる相手ではないことも確か・・・・
歴然の差があり過ぎる。

「・・・・・来た!」
「うっわ・・・・マジもんかよ!」
「だから言ったろ?」
「ひえ〜〜・・・・あの、志賀も落ちたもんだな!」

その声と同時にガッと何かが蹴られる音がして・・・・・
光が差した。
そこで、漸く部屋の全貌を明らかにした。
見える範囲で確かめると・・・・校舎裏の体育用具倉庫。
入り口には、志賀先輩が立っていた。

「・・・・・・テメーら・・・・」

俺の姿を確認して、低い声が響く。
ドア側にいた、志賀に一番近い男がその声にビビッタのか身体を一瞬だけ後ろに引いた。
けれど、俺の肩に未だに足を置いている男は怯むことなくニヤケた笑いを浮かべ続けている。

「オイ・・・・口の利き方がなってねーぞ、志賀?」
「・・・・・・」
「そーそー俺ら先輩よ?先輩に向かってテメーらってのはねーんじゃねー?」
「・・・・・そいつは関係ないはずだ、離せ。」
「できねーなー餌だし?」
「無理だね、大事な餌だし。」

肩に乗せられた足に力が入った。
痛みが方に走る。

「っい・・・!」
「やめろ!」

慌てたように近寄ろうとするのを、控えていた二人が抑えて止めた。
その手を撥ね付けて腕を振り上げたところで、
俺の目の前にいた男がすばやく前髪を掴んで顔を上げさせられた。
痛みに目の端に思わず涙を浮かべてしまった。

「動くな!」
「っ!」
「オイオイ志賀よ・・・・お前の置かれた状況忘れるなよ?」
「お前が何か思って動いたら、お前の大事なコイツに痛い目みてもらわないといけなくなるぜ?」
「キタねー事しやがって・・・・!」

上げたままの腕がゆっくり下ろされたかと思うと、
顎を打たれた男が腹に拳を打ち込んだ。
構える暇も無い一瞬で、少し前のめりになる。

「っぐ!」
「舐めやがって!!調子んのってんじゃねーぞ!?」
「大田〜まだ、手出すなよ。」
「・・・・っち!」
「げほっ」

小さく唾を吐いて、身体を起こす。
志賀の顔には痛みよりも、色濃く怒りが浮かんでいる。
横目に大田と呼ばれた男を睨んでから、俺の両隣に立つ2人を睨みつける。

「と、ま〜〜今ので、自分がどうなるか分かったよな?」
「こんなヒョロいのじゃ俺らのサンドバックには向かないわけよ、コレには。」
「で、お前には日頃の俺らの鬱憤を晴らす対象になってもらうと言うわけだ、分かるよな〜?」
「・・・・・・・・」

後ろから前髪を掴まれた状態で左右に揺らされる。
痛みに眉を顰めた俺の顔を見た志賀の表情が苦痛に歪んで・・・・・・握っていた拳が開かれた。

「そーそー志賀ちゃん、物事は素直に聞いとこうね!」

俺の髪から手を離し、ニヤニヤ笑いを浮かべながら志賀に近寄る・・・・・
そして、語尾に力を入れて男の膝が思いっきり溝に入った。

「っ・・・・が!」
「おっと〜・・・・力入れて防御してんなよ・・・・・ソレが分かったら・・・・岡崎!」
「おぅ」

一瞬、何が起こったのかわからない。
いつの間にか自分は横を向いていて、
何が起こったか理解したのは自分の頬に痛みと熱と口の中の鉄の味だった。
手の甲で殴られていた。

「なっ・・・・止めろ!」
「だったら、力抜いて殴られとけ、っよ!」
「ぐっぁ!」

もう一発、膝が入る。
今度は身構える余裕が途切れていて、そのまま膝をつく。

「ひょ〜爽快だね〜お前が膝つくっての!」
「俺にもやらせろよ。」
「俺も俺も!」
「顔にはやるなよ、メンドーだからよ。」
「わーてるっって!」

それから目を背けたくなるほど、手酷く志賀は殴られたり蹴られたりした。

手を押さえつけられた状態で、何度も腹を殴られ、
膝裏を蹴られてよろけた所で、背中を蹴られ、
踏み付けられ、
また殴られて、
また蹴られて、

助けたいのに、
自分の非力さに悔しさと、
情けなさと、
なにもかもごちゃごちゃになって、
涙が零れた。

「アレがこーなってんの、お前のせいでもあるんだぜ?」
「・・・・・・」
「お前が弱いから、お前が非力だから、重荷にしかなんねー存在だから。」
「・・・・っ!」
「情けねーよな〜泣くだけって、最悪だね。」

ガッと蹴られて、壁に背中と後頭部を打ち付ける。
気が遠のきそうになるが、
唇をかみ締めて戻して・・・・
でも、起き上がれるほど力もなくって、
傍に寄りたいけど、
できなくて・・・・
助けても言えないほど、
恐怖があって、

「やめ・・・・ろ・・・・!」

小さく叫んでも、
笑ってる男たちには聞こえなくて、
悔しくて、
悔しくて・・・・・・!

涙しか流れない目に強く握った手を押し当てて、





「ヤメローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



精一杯の声を上げた


「正義の味方、さんじょー」




その場に不似合いな声が聞こえた