軽い足取りで渡り歩くのは蓮水泰斗。




先ほどの拗ねたような捨て台詞はどこへやら?
彼には珍しく、はっきりとした笑みが浮かべいた。

『だから飽きさせないから和泉が好きなんだよね〜』

そう心うちで呟きながら東校舎の扉をくぐろうと、階段に片足を乗せたところでバタバタと数人の足音を聞いて立ち止まった。
振り返ると、正面玄関の昇降口から見た事がある男たちが何かを抱えるようにして走っていた。

『ん?』

目を凝らしてその走り去る後姿を凝視する。
抱えられているのは・・・・人?
向こう側は・・・・・裏校舎。

『今時・・・・・集団リンチでもするのかな?』

そんな考えが浮かぶ。
さして興味も正義感も浮かばない。

『でも・・・・一応、生徒会役員だしな〜』

めんどくさそうに呟いてから、急ぐこともなく歩いて走る男たちを追う。

『アレは確か・・・・・空手部の面々かな?』

予算会の時に顔を出した者があの中にいた。
そう思いながら歩いていると、数メートル先でキラリと光る。
その何かに気付いて、駆け寄った。

「コレって・・・・・・」

それは銀フレームの眼鏡。
見た事がある代物。
持ち主は、先ほど会った後輩の黒田。

「・・・・・・・・」

少しだけ眉間にしわを寄せて考える。

「蓮水?」

そこへ自分のを呼ぶ声。
振り返って呼んだ相手を見る。

「志賀・・・・・」
「そんな所で突っ立って何してんだよ?」
「志賀こそ何してんの?今日は部活ない日だろ?」
「野暮用。」
「ふ〜ん」

話しながら蓮水に近寄ってくる・・・・・そして、何か口を開く前に目線が手元に移った。
歪む志賀の表情。

「それ・・・どうした?」
「ココで、今、拾った。」
「・・・・・・・」

眉間のしわが増える。

「ついでに言うなら担がれてた。」
「・・・・あ゛?」
「志賀も知ってるでしょう?大田・・・・先輩・・・だっけ?」
「・・・・・・3年の大田か?」
「そう、副部長だよね?あと他2,3人に。」

歪む。
怒気をはらんだ空気が志賀を包んだ。

「・・・・・どっち行った?」
「あっち、裏校舎。」
「分かった。」

そう言うとだっと駆け出す。
それを見送って。
足りない、今ここにいない人物を探すために校舎へと入る。











声が聞こえる

揺り起こされる

耳元で、

大きな声で






「・・・・み・・・・耳元で怒鳴るな!!」

叫んで起き上がれば、目の前には久坂と一条。
久坂に到っては涙目。

「ぐぼぢゃーーーーーーん!!」
「・・・・うざっ!!」

ベシっと一発頭をはたいて、抱き付かれるのを阻止。
上目遣いに見られたって何とも思いませんよ?

「大丈夫か、久保田?」
「あーー・・・・・たぶん、後頭部痛いけど。」

言われて気づいて、鈍くズキズキと疼く場所に手を触れてみる。
酷くはないが軽くタンコブが出来ていた。

「あーーイテー・・・」

廊下に座り込んでいたのを、そう呟きながら立ち上がりズボンに付いた汚れを払う。
痛む頭だけれど、意識は冴え冴えと冷えて覚めていく。

「油断した・・・・」
「?」
「久保ちゃん?」

首を傾げる久坂と一条。
ソレを横目に、ウォーミングアップのように肩と首を回して解す。

「・・・・黒田は?」
「久保ちゃん一緒にいたの?」
「俺たちが来た時点ではいない。」
「・・・・・・・」





今ここにいない人物



思い当たる嫌な予感



たぶん的中



助言は聞き入れられなかった様子





「・・・・助言してやったのにな・・・・・」

聞かせるつもりのない小さな呟き。

「教えてあげようか?」

その言葉と共にあらわれた捜し人。
目線を向けると、不敵に笑いかけられる。

「どこ?」
「裏校舎、先に志賀も行ってるよ。」
「分かった。」

そう言うと、一気に駆け出す久保田。
普段見れない真剣な表情。
呆気に取られて、その姿を見送るだけで立ち尽くす2人に、蓮水は笑いかける。

「ねぇ久坂は知ってるんでしょう?」
「・・・・・何をですか?」
「久保田の事、色々と聞いてるんでしょう?」
「・・・・・・」

にっこりと笑いかけられて、訝しげに蓮水の顔を見る。

「皆が知らない、久保田の色々・・・・知ってるんだよね?」
「・・・・一応は・・・・・」
「だったら、止められるの君だけだよ?」
「・・・・・・」
「追いかけて、止めて?またあの時みたいに停学処分でいないの、俺も寂しいから。」




久坂はその言葉に、大きく目を見開いたかと思うと同じく駆け出した。





あの時みたいに