少しの間

泣いた


子供の頃以来かも




涙が治まって


隣に座る


久保田に目を向ける



俺の視線に気付いて


ちょっと笑う


つられて、



照れた笑みで返しながら







「ありが、とう・・・・」
「い〜〜え〜〜」

礼を述べれば、さも当たり前だと言うような声色。





ありがとう





ソレしか言えないけど
その一言で、
もう逃げないって決めた






色々と
凄い
すっきりした感じ






そんな俺の顔を見て久保田が笑う

「いつもの黒田の顔〜」
「・・・・そんなに可笑しかった?」
「暗かった。」
「・・・・・そうかな?」
「そうだったのですよ」
「そっか・・・・」
「へ〜い」

顔に出てたんだ?

でも、気付いてるのは久保田だけだよ
きっとね



「久保田も近頃、機嫌悪い」
「・・・・・えぇ・・・・厄介ごとに巻き込まれてますから!」
「ふ〜ん」
「所でお尋ねしたいのですがね、」
「何でしょう?」

力一杯、嫌な顔したかと思うと急に真面目な顔して

「蓮水先輩を見なかった?」
「・・・・・蓮水、先輩?」
「そう、俺の今現在目下の探し人!」

蓮水先輩と言うのは・・・
確か、
生徒会書記の2年で、
おっとりしたような
あまり喋らない先輩、
だった気がする

「捜してんの?」
「逃げられたの!」
「何で・・・?」
「厄介ごとおし付けてくれた張本人!」



心底嫌そうな久保田の声の後に、





「やだ、和泉ったら俺の事そんな風に思ってたの?」





あらぬ所から第三者の声

「思ってました!」
「酷いな〜・・・・って言うか、厄介ごとおしつけてるの俺じゃないと思うよ?」
「アンタも同然!」
「え〜?」

久保田・・・・・?
お前、誰と喋ってるか分かってる?

目の前の窓の外に、
ニコニコ笑って男の人がいる
窓枠にひじを突いて、
その上に顎を乗っけて・・・・・

「文句なら京介さんに言ってほしいなぁ」
「言って聞くようなら、力づくで言い聞かせますよ?」

久保田・・・・・何か全然、意味不明だよ?

「え〜傷つくのは嫌だな〜〜アノ顔に。」

蓮水先輩のちょっと困ったように笑う
てか!
顔だけですか!?

「大丈夫、殴っても死なない」
「そうかもしれないけどさ〜顔には傷つくよ!」

だから、
顔だけでいいのですか!?

2人のやりとりに口を挟めずに、心の中で突っ込みを入れる。
その前に、
このよく喋る目の前の人は、
あの蓮水先輩?

印象が180度違う気がする

「程ほどにね?あの人も人の上に立つ立場だから。」
「蹴っても殴っても、ただで転がり落ちるような人じゃないでしょうが。」
「根こそぎ引っつかんで落ちてくね、きっと」
「そうですよ・・・・あ〜〜ぁ・・・・何であの時、先輩の事助けちゃったんだろう・・・・・」
「ヒド!」
「はぁ・・・・・」
「傷付いた!だから、もう一回逃げてやる!!」

心底疲れたような久保田の溜息に、
目の前の人
久保田曰く目下の捜し人
蓮水先輩は窓枠から体を起こして

「じゃ、黒田くんまったね〜〜!」
「あ・・・・・はい・・・・・」

ひらり、
そう手を振って駆けて行く。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・って・・・・今、俺誰と話してた?」

ふっと、何かに気付いたように下げていた頭を俺に向けてくる。
え?
今頃??
今頃ソレを聞くの??

「・・・・・・・・・・・・目下の探し人、蓮水先輩。」

答えてあげると、
ワンテンポ遅れて、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぬあっ!!」

変な声で叫んだかと思うと、
立ち上がって今まで蓮水先輩がいた窓枠に駆け寄る。

久保田君、
今頃、そこに駆けていってもかなり遅いと思いますよ??

「逃げられた!」
「逃げられるね・・・・・・」

そんなんじゃ、確実に逃げられるね。
うん。

「・・・・一緒に探してあげる?」
「よろしくお願いします。」

提案してあげると、
速攻で頭を下げられる。

その久保田の様子に笑って、
立ち上がった。

「じゃ取り敢えず、3年校舎の方に行ったみたいだからそっちから探してみようか。」
「・・・・・・お手数おかけします。」



2人で歩き出す



他愛ない話しをして、
オレンジ色に染まる校舎を歩く


生徒がいない廊下、
静まり返ったその場に、
俺と久保田の足音と
会話する声と
笑いあう声だけが響く


時々、
開いた教室を覗き込んだりしながら
捜し人の姿をいないか見渡す


「いないな〜」
「逃げるのも隠れるのも神業的にうまいんだよ・・・・あの人・・・・」
「・・・・・・見つかるさ!」
「見つけたい!」

その時、
握りこぶしを作って、
焦ったような久保田の声に重なるように、



背後でふっと笑う気配がした



振り返ろうとした瞬間、
目の端を何かが通り過ぎ、




鈍い音がしたかと思うと・・・・・


その場に、
久保田が倒れる




「久保田っ!!」




倒れるその場にしゃがみ込むその寸前に、



肩を掴まれ





ドッと腹部に衝撃が走る




そこで、




記憶が途絶えた