「く・・・・・・ぼた・・・・・」

いるはずの無い、
その人物の存在に目の前が一瞬すうっと暗くなった。
突っかえるようにその人物の名を口にすると、
気の抜けた声が返事を返す。

「は〜〜い」




何で?何で?何で?何で?!



その疑問だけが頭をグルグルと回って、
久保田を凝視した。

「何で・・・・いるの?」
「ん〜〜〜ちょっと探し人を、ね?」
「・・・・・・・」

今は捜し疲れて休憩中、
と小さく続けられる言葉が耳から耳へ通り抜ける。


この状況では自分も久保田も弁解など通用しない。
分かりきっているからこそ、
久保田は何時も通りなのだろう。



落ちついて、俺を困らせないように。



知らなかった振りをしてくれるように。



俺が違うと通せば、
久保田は絶対に違うと言う言葉を信じるだろうから・・・・






でも、
何故だか・・・・










違うとは









言えなかった










「ねぇ・・・・・・久保田・・・・・」

廊下に座っているその隣に自分も座って、
夕日が沈む窓の外を眺めた。

「ん〜〜〜?」

気の抜けた返事がまた返ってきて、

「俺を・・・・軽蔑、する?」
「なぜ?」

でも、
その質問には強い声が返ってくる。

「聞いてみただけ。」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

その言葉を機にお互いに沈黙が続く。
けれど、気まずくなるその手前で久保田が溜息を吐いた。

「ねぇ・・・・黒田、俺を軽蔑する?」
「・・・・・・?」







俺が呟いたその言葉を久保田も口にして、








「歴然の差がある弱い者を、痛めつけて病院送りにした俺を」



「・・・・・・・・」



「理由を盾にして、泣いて許しを乞う相手を殴り続けた俺を」



「・・・・・・・・」



「この歳で危ない世界に片足突っ込んでる俺を・・・・・黒田は軽蔑する?」









ことさらゆっくりと俺に顔を向ける。


怖いくらいの無表情の顔。






何も感情の篭ってない瞳は、
いつもの久保田ではなくて・・・・

知らない誰かだった。



「久保田・・・・・」
「俺には出来ないよ・・・・だって、俺だって疚しい事はたくさんあるから。」
「・・・・・・」
「言えない事がた〜〜くさん、ある。」

ふっと・・・・・そこで微笑まれて、
いつもの久保田が戻ってきた。

「だからさ・・・・軽蔑とか言っちゃ駄目だよ。」
「・・・・・・」
「黒田のやってる事は軽蔑するとかされるとか、そんなこと関係ないから。」
「・・・・・・どう、して?」





優しく諭すように



よく、考えて?



そう言うように・・・・・







「黒田は、ちゃんと相手を想ってる・・・・・・・想っているその好意を誰が何と言おうと軽蔑する対象ではないよ。」







髪をかき上げられて、



零れる涙を



拭われて







「大丈夫」







その言葉をかけられる





大丈夫だよ、


正しいよ、


汚くないよ、


蔑まれることもない、





顔を隠すなんて必要ない


隠れる必要など無い、





間違ったことなどしていないのだから、






その言葉は

俺の身体の中に





水のように浸透していく