動かない身体



止まらない涙



治まることのない震え



嗚咽をかみ殺して



身体を清める相手から目を逸らした



不自然な沈黙の中



自分の中に吐き出された証を



拭っている



喘ぎをもらしそうな唇は



指を噛んで抑え



微かに感じる鉄の味に



噛んだ部分から



血が出ていることが分かる



それでも



痛みなんかより



今の事に



目を逸らしたかった























「も、う・・・・止めて下さい・・・・」
「・・・・・」

無言でそうしている相手に訴えると、漸く目線が合わさった
眉根を寄せて、怒りを抑えている苦しい表情と言うより・・・・・
自分のしてしまった過ちに酷く打ちのめされた顔。
何で、アンタまでそんな顔するのか分からない。
涙で歪んだ瞳を眇めて、
その真意を測ろうとも・・・・
恐怖を感じてしまった相手を見続けることは出来なくて、
ゆっくりと視線を落とした。

「ゴメン・・・・」
「・・・・・」

一言小さく漏らして髪に触れようと近づけられた手にびくりと身体が竦む。

「っ・・・・・・」
「・・・・ゴメンっ・・・・」
「あやま、らないで・・・ください・・・・」

それでも、何度もゴメンを繰り返しながら衣服を整えられた。

「送ってくから・・・・」
「いいです、一人で、帰れます・・・・」
「送っていく。」
「・・・・・・」

体を起こされて立たされようとするが、
触れられたそこからガタガタと震えが酷くなる。
意図してしているわけではないのに、
抑えが利かない。
噛みあわなくなってしまった歯も、
小さく鳴った。
今までにない俺の反応に先輩は腕を掴んだ手を離す。

「お願いです・・・・一人で、帰らせてください・・・・」
「・・・・・・」
「お願い、です・・・・・」





今は傍にいないで下さい



アンタが怖くて仕方ない



触れられたくない



顔も見られない



このままじゃ



ずっと



アンタに対して



こんな態度とりそうで





凄く





怖いんだ





嫌いになるなんてできないけど



でも、



もう触れて欲しくない



って身体が



拒否反応を起こしてるから



そんなこと思いたくないから





「一人にしてください・・・・・」



顔を覆って

零れる涙を見せたくなくて、



膝を抱えて

震える身体に気づかれたくなくて



全身で、
アンタを拒んだ





「分かった・・・・気をつけて帰れよ・・・・」
「・・・・はい・・・・」




苦りきった声で、
それでも離れることを惜しむように
ずっと
俺を見ていたけれど、
漸く小さく息をついて
先輩は教室を出て行った
廊下を歩く足音が消える頃に
流れる涙の量が増え
押さえ込んでいた
声が
溢れてくる



「っふ・・・・・うぅ・・・うぇ・・・・」

泣き続けて数十分たった頃、
ようやく声を上げるのが治まった

でも零れる涙は
まだ治まらなくて
手の甲で拭っても拭っても
ボロボロと零れた

「俺って・・・・弱いな・・・・・」
「そうでもないよ」
「っ」

自嘲気味に呟いた声に
返るはずもない声が
廊下から聞こえた

恐る恐る
ドアから顔を出してみるが
誰もいなくて、
でも
人の気配はあって
ゆっくり視線を
おとしていくと、






そこに、



久保田が膝を立てて壁に寄りかかりながら




ボーーーっと座っていた