「階段から落ちたんだって?」
「え?」

会って早々に言われた言葉。
何やってんだとばかりに眉根を寄せられて聞かれる。

「怪我とかしてねーよな?」

責めるような言い方でも不器用な優しさが感じられて苦笑が浮かぶ。

「してませんよ、久保田に助けられたんで。」
「そっか・・・・」
「でも、俺より力なさそうに見える久保田に助けられたってのがちょっと不思議なんですけどね。」
「・・・・・」

身長は5cm位しか変わらないのに、体格だっていい勝負。
そんな久保田を潰すことなく受け止められたのである。

「気をつけろよ?」
「・・・・・はい」

気をつけろ?
何に?
いや・・・・
寧ろ誰に気をつければいいのか分からない。
アンタは足でも滑らせて落ちたとしか思ってないだろうけど、
ホントは落とされたが正しい。
嘲笑と侮蔑の篭る声で言われて腕を引かれた。
あの大勢いた三年の生徒の中の誰かに。
落ちる瞬間に見た顔の中に知っている人などいなかった。
忘れてしまったのだろうか?とか、
見えない所に立っていたのか?とか思ったけれど、
どう考えたって思い当たる節などない。
こんなに、
悪意を向けられるほど、
誰かを傷つけてしまったとか、
悪いことをしてしまった記憶がない。
でも、
確かに自分に向けられている。

「どうかしたか?」
「・・・・・え?」
「暗い顔して溜息なんかついてるから。」
「そう、ですか?」

ひょいっと俯いていた顔を覗き込まれる。
目の前に急に現われたのに驚いて身体を引いたら、
戻されるように腕を引かれてキスされる。

「んっ・・・・」

軽く触れるだけで離される。

「何か悩み事か?」
「アンタがその心配するんですか?」

思わず可笑しくなって笑ってしまった。
こんな事しておいて『悩み事』があるのかと聞く可笑しさに。

「悪いかよ?」

バツの悪そうにそっぽを向く。

「悪かないですけどね?」
「あーあーウルセーよ」
「自分で言っておいてキレないでください」
「キレてねーですから」

怒ったのか、背中を向けらた。
それすらも可笑しくて笑いが止まらない。
沈みつつあった自分の気持ちが、この人の言葉で浮上してくる。


悩むのも後でいいかな?

とか単純になってしまう。





好きだな・・・・





って再確認させられた。



「いつまで、笑ってんだよ・・・・」
「アンタが可笑しいからですよ」
「・・・・・・」

カラカラと笑っていたら、いきなり机の上に押し倒された。
ガタンと大きく揺れる。

「うわっ」
「あんま人の事笑ってっと、酷い目にあうぜ?」
「っちょ何しテンスか!?」

目の前にはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた志賀の顔。
シャツの裾から手を差し込まれて意図が含まれたように撫でられる。

「せっ先輩!?」

ココは教室で、

放課後とか言っても、

誰もいないわけじゃない。

そんな遅くもない時間、

帰る生徒は少ない。

そんな中で、

こんな事されて見られでもしたら言い訳なんて出来ない。

「っ!」

胸まで撫で上げられた指が、触れたものを押し潰した。
そのまま摘んだり、引っ張ったり、撫でたりと捏ね回される。
覚えさせられた快感に力が抜けてくる。

「ん・・・・・ぁ・・・」
「声、出すなよ?」

耳元で囁かれた言葉に薄らぎかけていた意識が何故か一気にクリアになる。



声を出すな?



それは誰かに見られてしまうと言う意味・・・・



また、
送られてくる自分の写真
目の前の男に抱かれた自分の姿



侮蔑と

嘲笑と

悪意の篭った言葉と共に



また、
送られてくる

そう思った瞬間、
自分でも信じられないくらいの強さで志賀の体を突き飛ばしていた。

「っ!?」
「っ・・・・・あ・・・・・・」
「黒田・・・・?」

まさか突き飛ばされるとは思ってもいなかったのか、
驚いたように俺を見る。
驚いたのは俺も同じ。

「スイマセン・・・・」
「・・・・・」

近頃は拒否しなかった。
誘われるがまま抱かれていた、
それなのに、
最初の頃のように、



いや・・・



それ以上の拒否、



一瞬にして志賀の目が据わる
その目を見られてびくりと身体が竦んだ。



そして、



今度は・・・・・
有無を言わせないほどの力で押し倒されて、
声だとか、
場所とか、
そんなこと一切考えないような乱暴さで襲ってくる。

「いやっ・・・・だ!」
「いやじゃねーよ」
「そんな・・・・そん・・・あぁっ!」

ズボンを引き下ろされて、
足を大きく開かされて目の前の自分のモノを予告なく銜えられた。
容赦なく責められて、
嬲られて
噛まれて、
痛すぎるような過ぎた快感に
生理的な涙とかではなく、
こんな事してくる志賀の行為に涙が零れた。

「ぃっあぁぁ・・・・あぅ・・・んぁぁぁっ!」

それでも止めてほしくて、
志賀の髪を掴んで離そうと引っ張る。
力の入らない手では思うようにいかなくて、
頭を押した。
それに気を悪くしたのか、
じろりと睨まれて、
先端を力を少し込められて噛まれる。

「イッ・・・・・う!」

目を瞑って、
その痛覚に絶える。
そんな俺を見てから口を離された。
ホッとしたのもつかの間、
今度は足を持ち上げられて身体が割り込んでくる。

「っ」
「拒んでんじゃねーよっ」

怒りの篭ったその声、
据わった瞳で覗き込まれて、
唇に触れるか触れないかの距離で、

「お前は俺のモンだろう?」
「イヤだ・・・・」
「逆らうことは許さねーって言ったろ?」
「っ・・・・・・イヤっ・・・・・いやだっ・・・・・」

それでも、
それでもっ
どうしても、
今だけは、
今だけは嫌だった

今回ばかりは理性が本能を上回る
強い意志で、
その声に、
命令に、
志賀の瞳に逆らった

「嫌は・・・・・・聞かねーよっ」
「っ・・・・・・あああああぁああぁぁぁぁっ!!」

慣らしもなしに押し込まれる異物。
体中に走る激痛に目を見開いて、
声を上げる。



一歩的なセックス



俺の言葉も

押し返す手も

訴える目の意味も



分かってくれない
目の前の
好きだと自覚した
相手は、
その後も、
俺が気を失うまで
揺さぶり続けた。



それでも、



最後まで、





拒否をした身体は、





その身体に縋ることは無かった