それでも日常は


穏やかに過ぎていく


不安を溜め込んだ










俺を残して




















「ねーねー黒チ〜ン、久保ちゃん知らない?」
「・・・・・」
「どっこ探してもいないんだよね〜?」
「・・・・・」
「てか、この頃どっかに消えてんだよね〜?」
「・・・・・」
「え、ってもしかして浮気!?浮気なのかしら!?」
「・・・・・」
「いやーーーーー!!久保ちゃん帰ってきてーーー!!」
「・・・・・」
「俺、捨てられちゃうのかしら・・・・ぐすん・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「って、さすがにココまで無言でとおされっと俺でも傷つくわけですよ黒チン。」
「・・・・・」
「聞いてます??」
「・・・・・」
「聞いてないようですね?」
「・・・・・」
「すぅ・・・・・・・・・・
巳咲ちゅわん!!
「うわっ!」
「お気づきになられまして?」
「〜〜〜っ!耳元で大声出すな久坂!」
「えーーーだって何度よんだって気付いてくれないんですモンっ壱、泣いちゃうから!」

ぐすんぐすんと可愛くもないのにカワイ子ぶる久坂に一瞥をくれてやる。
俺にやっと気付いてもらえた事に気が済んだのか、
立ち上がる。

「ま、取り敢えず移動教室だし行きませんこと?」
「??」

移動教室??
てか、今何時間目だ??
慌てて黒板の横にある掛け時計に目を向けると、
いつの間に3時間目も終わり4時間目が始まる5分前である。

「ウソ・・・・」
「ウソじゃないよ〜次は化学だよ〜?」
「・・・・・」
「黒チンどうしちゃったの?もう痴呆症?」
「んなわけないだろうが・・・・少しボーっとしてただけ。」
「ふ〜ん」

さして気にも留めないで、
教室を出る久坂の後に続いた。
廊下に出ると慌しく生徒が駆け回っている。

「で、さっき何か俺に言ってた?」
「んもう!やっぱ聞いてなかったのね!?」
「聞いてなかった。」
「壱泣いちゃうよ!?」
「俺のいない所でだったらいくらでも泣いてイイから、何か言った?」
「黒チン・・・・」

ぐしっとまた泣き出しそうな久坂を無視して話しを即す。
こうやってイジケだしたら気が済むまでイジケル久坂の面倒なことったらないので、
敢えて聞かなかったことにする。
付き合いだして学んだ処世術だ。

「で、何?」
「イイもん!!」
「はいはい、で?」
「はい、でですね。」

久坂も切替しが早い。

「久保ちゃんが近頃消えるんですよ!」
「は?仲原じゃあるまいし、校舎裏には行かないだろう?」
「そう、今日も凄かった地獄絵図・・・・・じゃなくて!」

一人ボケ突っ込み。
さすがだ、久坂!

「何?」
「え〜黒チンも気付いてないの?久保ちゃんココんとこさ〜どっか行っちゃうんだよね〜慌しく。」

そうだろうか?
そう言えば近頃自分の事で精一杯で周りに目が行っていなかった。
曖昧な一週間の記憶を辿ってみると・・・
そう言えば・・・・

「いないかも・・・・」
「ね!?いないよね!?」
「うん。」
「えーー久保ちゃんもしかして浮気してんのかな〜そんこと事実だったらどうしよ!?」
「あーないない。」
「言い切れる!?」
「言い切れる言い切れる。」

あの久保田に限って浮気なんてありえないし。
久坂はあんまり気付いてないみたいだけど、
たぶんお前より久保田の方が好き率高いね、
確実に。
全然、そんな素振り見せないけどね。

「うあ〜〜〜ん!」
「何だよっ煩いな!!ってか、くっつくな!!」
「だってーーー!」
「だってもクソもあるか!離れろ!!」
「イヤーーー寂しいのーーー!!」
「知るか〜〜〜!!」

ぎゃーーぎゃーー騒いで久坂を引っぺがそうとすると、
急にぴたりと動かなくなる。

「何だよ・・・・・??」
「てかさ〜近頃の久保ちゃんってスッゲー機嫌悪くない?」
「またいきなり・・・・・」
「えーいきなりじゃないよ〜」

久保田の機嫌の悪さは今に始まったことじゃないだろうが・・・・
あの山の天気並みにコロコロ変わる奴なのに。
普段はぼけら〜ッとしてるかと思ったら急にキレるし。
あ、でもキレるのは久坂のせいか。

「お前のせいなんじゃないの?」
「えーーーー??」
「だってお前がいつも怒らすから久保田機嫌悪いんじゃん?てか、アイツの機嫌悪の大多数の原因はお前だし。」
「・・・・・・・・」

思い当たる節があるのか黙り込む。
てか、思い当たらない方がどうかしてるくらい、
久坂は久保田を怒らす。

「えーーでもさ〜怒り方がそんな感じじゃないんだよね〜」
「はぁ?」
「この前なんか一人でブツブツと文句言ってたし。」
「何て?」
「あ〜あんま聞き取れなかったけど・・・たしか、」

う〜〜んと腕を組んで考えたかと思うと、

「【俺は一般人だ】とか【厄介ごとは嫌いだ】とか何とか・・・・を?」
「何だソレ?」
「さぁ?」

階段を登りながら久坂の聞いた事を考える。
久坂が一般人なのは誰が見たって分かることだ、
そんな事当たり前である。
自分と変わらない一般的な高校生だ。
階段を登る自分の上履きを見ても、高校生を表すものしかない。

「変わったこと言うな〜?」
「だろ〜〜・・・っと・・・・」

階段の踊り場でゾロゾロとあらわれた上級生の集団にぶつかりそうになって、
久坂が手すりの方に身体をよける。
真後ろにいたせいでソレに気づかなく、
考えていたせいで下を向いていた俺は目を開けると誰かに腕を掴まれる。

・・・・・・え?

グイっと引かれる瞬間、耳元で囁かれたくぐもった数人の声。
嘲笑を含んだ笑い。



「「「写真は届いたか?」」



・・・・・・・っ!!



力強いその腕に逆らえず、
身体は重力に従って傾いでいく。
目の前には驚いて手を伸ばす久坂。



ここまでされるほど自分は汚いのだろうか?

ここまでされるほど憎まれることしているのだろうか?



志賀を好きになっては駄目なのだろうか?





衝撃を覚悟して目を瞑る。
また近くで嘲う声が聞こえた。


ドサっ


「黒田!!」
「っ・・・・・・・!!」

ダダダッと足音を立てて久坂が駆け下りてくる。
でも、何も痛みは感じない。
恐る恐る目を見開いてみると、
階段の中腹で驚いていた顔をしている上級生集団と青褪めた久坂の顔。
それと・・・・・話題に上がっていた久保田の顔があった。

「く・・・・・ぼた・・・・?」
「そう、危機一髪だな〜?」
「・・・・あり、・・・・と・・・・」
「いーーーーえーーーーー」

立たされて、
落ちていた眼鏡を拾って手渡される。
受け取る時に震えていた俺の手を見て、
一瞬だけ顔を強張らせたのを見逃さなかった。
いつもの久保田からは想像できないほどの険しい表情。

「痛いトコないよね?」
「ない・・・・と、思う。」
「取り敢えず、教室行こう?チャイム鳴りそう。」
「・・・・・・」
「黒チン大丈夫!?」
「あぁ・・・・」
「久坂、教科書持ってやって。」
「いえっさーー!」

カタカタと震えていた手には何も渡されず、
落ちていた教科書類は久坂が拾う。
それを見ていた俺の背を久保田が押して、
歩く事を即された。

「先輩がた、歩く時は広がらずに歩いてください。」
「あ・・・ぁ〜スマン!」

久保田がそう言うと、次々に謝罪の言葉を言われた。
でも、そちらに顔を向ける勇気は無くて、
軽く頭を下げて久坂に続く。







この中の誰かに落とされそうになったのだから。