「黒田君、先生ちょっと職員室行って来るから用事が済んだらそのままにして帰って良いから。」

司書の先生が図書室の入り口で半分身体を出して慌てたように言う。
それに頷いて見送った。
カウンター当番だった自分以外はいないシンと静まり返る図書室。
あらかた片付いた雑用をそのままに、自分が借りていた本を戻すべく奥へと進む。
奥の奥の光取りの窓しかない、文庫本がズラリと並ぶ一角。
長編シリーズ物の中間まで読み終わった2冊を手を伸ばして戻そうとするが、
何故にそんな高い所にしまうのか・・・・170超えているはずの自分でも手が届かない。
高校の図書室という場所にしては蔵書量が半端ではない事と図書室の広さが普通の教室5つ分という規格外のせいだろう。
しかも校舎の最上階にあるのもあって、
天井の高さも規格外で・・・・天井ギリギリまである棚、手が届くはずがない。
辺りを見回して台を探すがいつもの物が見当たらない。
1つ息を吐いて、
もう少しで届きそうな場所へと背伸びをする。

あ・・・・っと・・・少し・・・・!

腕の筋肉が攣りそうになるのを堪えて手を伸ばす。
っと、フイに人の気配がしたかと思うと指の先にあった本が誰かに奪われて届かなかったもとの位置に戻される。
驚いて振り返ると目の前にはボタンが数個外されたて開いたシャツが目に飛び込んでくる。
それだけでは誰だか分からなかったけれど・・・・・
でも見たことあるその体格にゆっくりと目線を上げた。

「志賀・・・・先輩・・・・」
「続きは取るか?」
「・・・・・・」
「読まねーの?取ってやるぞ。」
「・・・じゃ、次の巻から・・・・・3冊を」

手を伸ばしたまま目線だけを下に向けて聞かれる。
目を合わせるのが妙に落ちつかなくゆっくりと視線を泳がせながら答えると、
その様子に志賀は少し笑みを浮かべる。
気配でそれが分かって余計に落ち着きをなくす。
余裕ある態度をこの人物相手になると保てない自分がいた。
背中越しの少し間でも感じる体温と体臭、真後ろに立たれて逃げ出したいような気分になる。
けれど、手を伸ばした腕とは反対側が自分の横に置かれて囲われるようにされていて動けなかった。
本を取るときに前に身体がずれ、少しだけ自分の髪に触れる体温。
それだけで一瞬、鼓動が跳ねる。

「本、好きなのか?」
「えぇ・・・・まぁ・・・・・」
「俺も一時期読んだな・・・・・取り敢えず、この作家のは読破した記憶はある。」
「・・・・・・って、ここ一列を全部ですか?」

驚いてゆうに2メートルを越す棚に並べられている本を、目線で辿る。

「おぅ読んだ。何でだか良くその時の自分が理解できねーけど、寝る間を惜しんで読んでたよ。」
「そう・・・ですか・・・・」
「結構ハマるだろう、このシリーズ?」
「まぁ・・・・」
「お前も寝ないで読んでそうだよな?」
「・・・・・・・」
「図星か?程ほどにしねーと俺みたいに寝不足で階段から落ちるとかになんねーように気をつけろ?」
「・・・・落ちたんですか?」
「仁科巻き込んで落ちた・・・・あん時のアイツのぶち切れようったらなかったぞ。」

その時を思い出すように笑う。
くっく、と苦笑を零すたびに揺れるシャツ。
髪に落ちる息。
ただ・・・・会話を交わしているだけなのに、ドクドクと鼓動は速さを増す。
赤くなりそうな顔を誤魔化すように、俯いた。
下に置かれている本の表題を目で追って落ちつかせようとしていると、
ふいにその視界に続きの巻数の本と志賀の手が現れる。
折角落ちついた鼓動がまた増した。

「ほら」
「ありが・・・・とう、ございます。」
「俺も久し振りに本でも読もうかな・・・・・」

まだ腕で囲われたままの状態で、志賀は視線を上に向ける。
どいて欲しくて少し身体を捩るが、
それを自然に遮るように本を取るようにして身体を前に倒す。
今度は本棚と挟まれようように、背中を胸で押される。

「っ・・・・・」
「何かお奨めってあるのか・・・・図書委員?」
「ぁ・・・・!」

そんな言葉とは正反対の熱を含んだような視線が自分を見下ろす。
本に手を伸ばしていたはずの手が、腰の辺りに有る棚の上に置かれている。
逃げ出すことも身動きも取れない状況に焦る気持ちと逸る気持ちが絡まって混乱したように何も考えられなくなってきた。

「何を怯えてんだよ?」
「っべ・・・・つに・・・!」
「なら・・・・下を向いていないで、俺の眼を見て言え。」
「・・・・・・」

怯えているわけではない。
そんな感情はいつの間にか、この人の前では感じなくなったのだから。
緊張と、
焦り、
逸る気持ちと、
早まる鼓動、
そんなもの全てに体を支配されて、目を合わすどころか顔さえ見れない。
首を振って下を向いたまま出来ないと主張すると、指で顎を掬われて真上に近いように向かされる。
見上げた先には、強い眼差しがあって・・・・目の前にいる自分だけに向けられている欲情を表す瞳があった。

「・・・・・っ!」

今まで見た事のないようなその表情に、鼓動が悲鳴を上げるように高鳴った。

何でそんな眼をするのか?

混乱する思考の片隅で浮かび上がる・・・・
けれど、次の瞬間にはほんの少しだけ保たれていた理性も意識すらも霧散するような荒々しいキスによって蹴散らされる。
顎を掬っていた指はいつの間にか手のひら全体で逃げないように押さえつけている。

「んんっ・・・・・んぅ・・・!」

縦横無尽に動き回る舌の動き、
羞恥を煽るためだけに鳴らす厭らしい水音、
歯列をなぞられて、
上顎を撫でられて、
舌を吸われて、
歯を立てられて、
唇を食まれる
それだけで足から力が抜けて自分の身体なのに支えられなくなる。
横に置かれた腕に爪を立てるように縋り、もう片方の手でシャツを握り締める。
身体を支える意味だけではなく、
この行為が終わらないように、
いつまでも続くように、
ぎこちないながらも答えながら、
舌先を差し出して、
顎を強請るように突き出して、
身体を摺り寄せて、

ひちゃりと・・・・余韻を残すように音を立てて離れる。
数センチ離れただけの唇を繋ぐ糸を舌先で掬って舐め取る。
まだ足りないと主張するように薄く開かれた自分の唇から舌が小さくのぞく・・・・・
いかに自分が卑猥な顔をしているかなんて鏡でしか見れない。
けれど、目の前にしてみている志賀は足りないと言っている事を分かっていながらも唇はソコには触れず首筋に落ちていく。
軽く指先だけでボタンを外されて、
鎖骨辺りまで降りてきた舌が痕を残すように吸い付いて歯を立てる。

「んっ・・・・ぁ」
「後ろに手をついてろ」

胸に這わせたままそう言われ、
言葉と共に触れる息に身体を震わせながら言われたとおりに腕を背後へと回す。
志賀はそのまま膝を付いて目の前になったズボンのベルトとファスナーを外していく。
霞み始めた意識がそこでいっきに浮上した。
ここがいつもの鍵のかかった部屋でないことを思い出す。
誰でも来る場所、
出て行った司書の教師だって戻ってくるのだ。

「だっ・・・・やめてください!」
「何だいきなり・・・・・」
「ここじゃ・・・・人がっ!」
「来たって分からないだろうが、一番奥だぞ。」
「でもっ」
「見えないし・・・・・第一に、止められるのか?」

この状態で?
そう跪いている男がちらりと見上げながらそう眼で問いかけている。
その手には反応を兆し始めた己を手にしながら、

「止めるか・・・・?」
「ひっぁ!」

先端をちろりと舌先で擽られる。
それだけで、びくんと跳ね上がる身体と己自身。
じわりと滲み始めた先走りを掬うように下から舐められたかと思うとすっぽりと咥えられてしまった。

「あぁぁっ・・・・んぅ!」

指で作られた輪で扱かれながら、
軽く歯を立てられる。
抉じ開けられるように先端に下を強く突いては、ゆっくりと裏に舌を這わす。

「あぁ・・・・あっぁん・・・・っふぅ・・・・・ん!」

後ろで支えていた両腕から力が抜けて、
咥えられた状態のままズルズルと腰が落ちていく。
ガクガクと震える足はもう自分を支えられなくて、
ついには腰が冷たい床へと付けられると、
ソレを待っていたかのように両足を上へと持ち上げられる。
膝が棚に着きそうなほど上げられると、
腰はズルズルと床を這ってあられもない格好となった。
でも、それに羞恥心を感じる前に足から手を離された指が奥まった場所へと伸ばされて触れられる。
先走りで濡れたソコは、何の抵抗もなくするりと奥へと這入って行く。

「ひっぁぁ!」

痛みのためではない悲鳴を上げながら、
その一本を飲み込み中を探るように動いたかと思うと次には2本同時に指が這入ってきた。
慣らすかのように少し這入りこんでは指の先ギリギリまで抜いてはまた奥へと進んでいく。
少しだけきつかったソコは、その数回の動きだけで慣れてひくひくと震える。

「慣れてきたよな・・・・短時間で2本すぐに入るぞ?」

くちくちと音を立てながら出し入れを繰り返し、
指を少し広げるようにしては中に爪を立てたりする。

「あぁ・・・・いっ・・・ぁ!」
「痛くないだろうが・・・・倍以上のモノがいつもこの中に這入るんだぞ?」
「・・・・っんぅ!」

嘘をつくな、そう言うかのように、よりいっそう奥へと指が突きたてられる。
その指先が一瞬、
一番感じる場所へと触れた。
びくんと身体が震えて、
ソコが感じるポイントだと分かったのか次にはぐぐっと強く押される。

「ひあぁぁあぁっ!!」

その刺激だけでイってしまいそうなほどの快感に、目の前が白くなる。
目を見開いて、ココがどこだか忘れるほど高い声を上げてしまった。
その声が気に入ったのか、何度も強く突かれる。

「あっぁっ・・・あぁうっ・・・・・・あぁっ!」

強烈すぎる快感に、目を瞑ることを忘れた瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。
ソレを舐め取られながら、志賀がくすりと笑みを零した。

「声・・・・抑えなくていいのか・・・・・?」
「ひっぁ・・・・・・・・んぅ?」

涙で滲む先にある志賀の表情が薄っすらと歪む。
何で急にそんな事言うのだろうと、ジッと見つめると・・・・・
カウンターがある方から声が聞こえた。

「っ!!」

職員室に行っていた司書の先生が戻ってきたからだ。
自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
はっと我に返って唇を噛んだ。
声を聞かれるわけにはいかない。
そんな危険とも言える状況なのにも係わらず、
志賀の指先は動きを弱めるどころか先程よりも激しく動かしてきた。

「んっ・・・んんっぅ・・・・!!」

睨みつけても、
笑って止めようとはしないその動きに声が漏れる。

「黒田君・・・・いないの〜?」

そんな声が足音と共に、近づいて来た。







そこまで、

あと少し、

棚を2.3隔てた、

その先、

近寄る足音共に、

自分の限界も、

我慢できない、

声が、

気配がソコまで

その先まで、

来ている