■ 年末年始だぞ、双頭会全員集合!!








年の暮れ

どうしてだか、
こんな所に来る羽目になってしまった


桂木 明治


数年後には三十路に飛び込む男ではありますが、
意識飛びそうです







「桂木ーー寒いのは分かるけど、寝るなよー」
「・・・・寝るわけないだろうが」

珍しくスーツをきっちり着込んだ菅が、俺に手を振りながら近づいてきた
それを胡乱な目で迎える俺もスーツをしっかり着込んでいる
着込んでいると言うか、
無理矢理かのお人の趣味丸出しのを着せられた
着なくてはいけない場面らしいから、
だそうである

「ま、寝て現実逃避したい気は分かりますよ〜充分と」
「分かるなら俺を帰してくれ」
「無理、返したら俺殺される」
「俺のために死んでくれて構わない」
「・・・・酷くない、それ?」

ふりゃりと歪んだ菅の顔を、
同情心のかけらもナイ視線で見やる

「言いたくもなるだろう・・・・こんな場所じゃ」
「ま〜・・・そーかもね〜」

そーかもね〜・・・・・じゃなくって、
実際そうだから俺は言ってるのである
俺が今立っているのは、
とある人のお屋敷である

「こんな所・・・・一生、関係ないと思ってたし」
「ですねー」

見上げるのは、
古い家の一体何人の人を迎える気でいるのかと思うほど
広い広い
横にも奥行きも広い玄関である
純和風の

「住んでる人を誰かは聞かなかったら、政界とか財界のお金持ちの家とか思いそうだよな」
「俺思ってたー」

この近くだったんだよねー
何て変な情報を仕入れて
って言うと菅ってばもしかして見た目と職業に反して実はお坊ちゃまだったりするの?
だってこの辺りに住んでるのはだいたいがお金持ちばかりだから、
と声に出しては言わなかったけれど考えただけで終わりにしておいた
聞いちゃマズイような気がしたから

「けど、そのどちらでもないヤクザの大親分の家だって言うんだからな・・・・」
「な〜?俺らの会社で例えるなら会長宅ってヤツダね」
「・・・・・ソウデスネ、」

正しくな例えに、
思わず力が抜けて応えてしまった
そう、
ここはあの男の上の人間
東日本のヤクザを束ねる双頭会会長であり

蓮水組組長 蓮水 京介

氏のご自宅なのである
何故俺がそんな場所にいるかって?
好きでいると思いますか?
思いませんよね、
だって好きでいるわけじゃないですから

「無理矢理つれて来られなかったら、足なんて向けないし」
「足なんて向けて寝てもダメだぜー」
「・・・・・・・あっそ」

はっはっはー
と笑う菅を軽く流して小さくため息
今日は年の暮れのご挨拶なのである
そんじゃそこらには、
強面のオッサンお兄さんなどがうじゃうじゃと集まってきているのである
顔見知りには会っては立ち止まって、

久しぶりーー
元気だったー?
俺、ちょー元気―
お前、何してた〜ん?

みたいな?感じでご挨拶しているのである
って言ってもこんな愛らしい(?)ご挨拶なら微笑ましいものを
・・・・いや、
アノ顔でそんなノリのご挨拶していても眼を反らしそうだけれど、
まーそんな感じである

「・・・・・・・帰りてぇ」
「まー取り敢えずは、三が日はいる覚悟でいた方がいいぜ〜」
「マジで?」
「大真面目で」

ココで帰ろうモンなら
酔っ払いのジジどもに絡まれて飲まされて潰されて終わりですから
そんな笑い事じゃないことを笑って言う菅、

気が重い
気が重いにも程がアル・・・・・!

帰りたい気がどんどん強くなる一方で、
帰れない気がよりいっそうに深く大きくなる
ここまで来てしまったら
きっと帰れないことは決まりきっているのだろう

「・・・・・・はぁぁぁっ」
「あ」
「・・・・・あ?」

回りを気にせずに大きく息を吐くと
横の菅が声を上げた
視線の先を追うと
10人ほどの集団が門をくぐって入ってきた
それと同時に周りが深く頭を垂れ始める

「誰、あれ?」
「あれねー」

真ん中の男は成人を迎えたばかりと言う感じの若さだ
むしろ学生と言っても間違いではなさそうである
その横に並ぶ男の威圧感は凄いけれど

「真ん中の人は、この双頭会のもう一人のTOPと言っても次期なんだけど」
「次期?・・・・って言うか、あんな若いのに!?」
「若いけれど、立派な双頭会の次期会長で氷企組の跡取り日岐夜人さんだよ」
「・・・・・・・・うそ、」

子供の頃は愛らしいと言われていたであろう幼さの残る顔は、
けれどやはりこの世界に生きる人間を思わせるような雰囲気を漂わせている
細身のスーツは華奢な身体を強調しているけれど
だからと言って弱さは一切感じられない
内から放つ強さが滲み出ている
そんな人間のキレイな顔には薄っすらと笑みが乗っている

「で、その隣に立つちょー威圧感放ちまくりの人が夜人さんの後継人であり、威道組の組長でもある威道 浮津さん」
「見るからに言われなくてもそうだって分かるし」
「だすねー」

時おり見せる柔らかい表情はあるけれど
それは一人にしか見せていなく
真っ直ぐに向けている視線はそれだけで人を殺せそうな勢いだ
遠くから見ている俺も、
背筋が震える

「その後に続いて片山さん坂上さんに南さん・・・・・で、片山さんには気をつけろ」
「・・・・・え?」
「あの人、新人弄りを生きがいとしていてだな」
「そんでお前は俺に弄られまくったモンなー入った頃」

菅がそう言い出したとたんに、
一人の男が菅の首に腕を回して締め上げて顔を覗かせた

「っひ・・・・か、片山さっ!」
「ダメだぞ菅ー人の悪口はその人間がいなくなってから、もしくは絶対にいないと確信してから言わないとー」
「し、し、絞まっtt」
「絞めてるんだから、余り文句は言わない・・・で、特に俺の悪口は気をつけないと痛い目見るぜい」

現在痛い目に合っている菅は、
痛い目と言うよりも苦しい目に合っている・・・・・白目剥いてるし、
その絞めながら笑っている男が俺に標準を合わしてきた
笑みを模った顔が近くで見ると整っているのが分かる

「新人君?」
「え・・・・・・いや、違うようなそうのような、認めたくないような」
「だろうね、噂は聞いてるよ」
「良い噂じゃなさそうですね・・・・」
「俺たちには充分楽しませてもらった噂だけどねー」

あっはっはっはー
と絞める力を強めながら声を上げる片山と言う男は
すっと笑いを止めて、

「俺よりも充分気をつけた方がいい人間がそろそろ来るから、死ぬ間際の菅に聞いておきな」
「え?」
「おっとー行くねー呼んでるから」

遠くで呆れたような顔で名を呼んでいる人物に急ぐわけでもなく戻る片山の背を見送った
待っていた男と一瞬だけ目が合うと、
軽く頭を下げられたので下げ返す

「し・・・・死ぬかと思った・・・・・!」
「残念だったな」
「・・・・・・え、どう言う意味の残念?え?え?」
「何でしょうねー」

俺の独り言に食いつく菅をまたもや軽く無視をして、
さっき言われたことを考える
新人弄りが好きな片山と言う人物よりも気をつけなければ行けない男?
それってどう言う意味でなんだ?
軽く首をかしげながら、

「菅」
「・・・・・・・何さ」

微妙な膨れっ面すらも流して、
その顔を見て

「さっきのどう言う意味だ?」
「さっきの・・・・って?」
「いや、新人弄りが好きな片山さんが言ってたんだけど」
「うん」
「その片山さん本人が自分よりも気をつけろといった人間がいるのか?」
「・・・・・・・・・」

それを言った瞬間、
目の前の菅の顔が寒さではない事で
一瞬にして青褪めた

「・・・・・・菅?」
「い・・・・いる、な」
「え・・・・・いるんだ?」
「いるよ・・・・色んな意味で怖い人がっ」
「色んな意味で、怖い?」

何じゃそりゃ?
そんな思いで菅を訝しげに見やると
面白いぐらいに・・・・って言うかわざっぽいような勢いでガタガタ震えだす
え、何それ

「ウチの組長なんて可愛く感じるような人がいる一人」
「・・・・・西園さんが可愛く?」
「そー!」
「いや、絶対に可愛くなんて天地が避けても世界が終わっても目が潰れてもありえないんですけど」
「いやいやいやいや!本人見れば絶対に思えるって!」
「・・・・はぁ?」

そんな有り得ないこと言われても、
真実味が薄いと言うか信憑性がないと言うか
有り得なさ過ぎて逆に笑えないと言うか?
そんな感じだ

「百聞は一見にしかず」
「・・・・・・」
「見りゃ分かる!」

そう言った菅の視線が何かを捕らえたらしい
その視線の先を追うと、
またもやある一団が門を潜って来た
先ほどと違うのは、
周りにいる人間が一斉に視線を逸らして絶対に合わないようにするかのように頭を下げ始めた
係わりに合いたくない!と全身全霊で訴えているかのように

「うわっ・・・・・・・来たっ」
「何か・・・・ホントに同じ世界の人間、か?」
「同じだけど、違う次元の人間」
「次元が違うのか?」

見るからにヤクザとは思えない集団だ
何故ならばその集団の色と格好が派手だからである
人数にするなら10人弱
先頭を歩く2人組みはそこら辺にいるような若い兄ちゃんみたいな
暗い青と濃いグリーンのダウンを着ており
その次は、
長い黒のロングコートにポケットに手を突っ込んで大きく欠伸を零している
その後ろの男2人が印象的だ
目の覚めるような真っ赤まロングコート
色素の薄い長めの髪に浮かび上がるような白い顔
その隣に歩く黒いコートの男も人形のように遠目でも整いすぎているのが分かる
そのまた続く男たちも前を歩く男のように白やら赤のダウンを着ていた

「来ないわけない・・・・・よな、」
「誰なんだ?」
「・・・・・双頭会の立場上のTOPが蓮水京介さんと日岐夜人さんとするなら、実力上のTOPがあの赤いコートの人」
「実力上のTOP?」

一見はどこにでもいる一般人
でもそこら辺にいる人間とするならば見た目はきれいな顔立ちをしている
けれど、こんな世界とは裏腹な明るい世界の人間にしか見えない

「アノ人に悪い意味で目を付けられたら、この世に存在していられないよ」
「あ・・・・・組長」

スっと煙草を咥えながらのんびり口調の西園が隣に立った
軽く煙を吐いた口元が、
今まで感じたことの無い雰囲気で笑みを作っていた

「メイジも名前だけ知っておきな、でもあんまり係わらない方が良いかもね」
「・・・・・・・」
「あの人は双頭会蓮水組若頭で久保田和泉さん、あんな顔だけど手をつけられないほど強いし怖いよ」
「アンタでも?」

そう、問いかけると
視線が一瞬だけ俺に向けられる

「俺だから怖い」

ふっと自嘲気味に笑う西園
その意味が理解できなかった

『俺だから怖い』

それは一体どう言う意味なのだろうか、
分からなかった
だから、その横顔を見詰めた

「あの人はとても優しい人だけれど、とても怖い人だ」

久保田和泉

その人間に視線を向けると
いつから見ていたのかこちらに顔が向けられている
笑って細まった視線が俺を捕らえている
ポケットに突っ込んでいた手を、
俺に向ってふる


流れるように赤が横切っていった


「行こっか」

歩き出していた西園と菅の声に我に返る
即されるままに広い玄関へと足を向けた












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思っていた感じで書けなくって微妙です
思いついた時点で書いておけば良かった・・・・・・・!!
久保ちゃんが横切るイメージがね、
もうちょっとキレイに表したかったんですけどねー
ダメだ・・・・・

取り敢えず、
今年最後のお話しです(笑)
続きは来年です!

皆さん、
今年はとってもお世話になりました
ありがとうございます
また来年もこんな砂子ではありますがヨロシクお願いいたします

それでは、
よいお年を!!




2006/12/31