く ら げ
その時その日から
人生が180度回転する
価値観も
世界も
見るもの
触れるもの
耳にするもの
その全てが
色と同じように
白から黒へ
信じるものは
俺に伸ばすその手だけ
週初め
魔の月曜日
前々日と前日の酒を体内と脳に残しながら出社
痛む頭痛を堪えながら・・・・
あぁ・・・・日本語までオカシイ
何だ痛む頭痛って?
二日酔いで痛む頭を堪えながら(が、正しいだろう)パソコンの画面に向かう
画面の光が針のように目と脳内を攻撃中だ
痛い
痛すぎる
まさしくあの時の俺のように
関わりを持ってしまった現実のように
「はぁ・・・・・」
一つ大きなため息を零して髪に両手を突っ込んで頭を抱える
そして昨日と一昨日の出来事を思い出した
その要因として
自分の着るこの服にもある
見るからに仕立ての良く高そうなスーツとシャツにネクタイ
ちなみにインナーまでも高そうな
いやいやいや、
見るからにでもなく高そうなでもなく
実際に高い
襟首にあるタグには、
見慣れて聞き慣れても着慣れてはいない憧れのブランドの名前がくっついている
きっと俺なんて一生に買わないであろう服だ
けれど今現在着ているも事実
手触りも良く着心地も良い服に視線を向けながら
もう一度息を吐く
何度もうがいと歯磨きをしてもまだ酒臭かった
「最悪だ」
それと同時にこの服を贈った男の名前と顔、声までも思い出す
こちらも一生絶対に関わらないであろうと思ってた職業の男だ
目の前で艶やかに笑い
俺に強制をする言葉
優しさと甘さの滴る声に毒を含み
俺の名を呼んでいた
西園 裄
と、言う男
きっとこの男の名前と顔は知らなくとも
肩書きを聞けば分かるであろう男
双頭会西園組組長
東日本の頂点に立つ双頭会、
西園組と言えばその会系の中でも1,2位を争う、らしい・・・・・
らしいと言うのは俺にはそんなに関係がないからであり
興味もないからだ
けれどかじった程度に知っているのは、
知り合いにその手のことに詳しいしい奴がいるからである
取り敢えず知っておいて損はない!その言葉で聞かされた詳しいこと
まぁ知っておけば、
何かがあった時、知った時に回避できるように・・・・だったはずなのに
もう・・・・逃げも隠れも出来ないところまで来てしまっては、
一体どうすれば良いのだろうか?
回避するどころか
ずっぽりと片足がハマって抜け出せない
あと少しで両足まで行きそうだ
マズイ
非常にマズイ!
昨日の朝は流れと勢いと威圧感と有無を言わせられない空気とで思わず頷いてしまったけれど、
あんな所に首を突っ込むわけには行かない
いやいやいやいや、
首どころかこのままでは身体ごと持っていかれそうだ
非常にマズイ事この上ない!!
「あぁ・・・・・!!」
思わず声を出して震え上がれば、
前の席の後輩の女の子がひょっこりと顔を出した
「桂木さん、どうかしました?顔色悪いですよ?」
「あ・・・・あぁっと・・・・ゴメン、何でもない」
「そうですか?・・・・・お茶、淹れてきますか?」
「いや、いいよ、自分でするから」
その申し出に慌てて首を振る
途端、頭が鈍い痛みの刺激を脳の奥に送り出した
「ぅう・・・・!」
「いいえ、自分のついでですから」
「ごめん」
笑って席を立った後輩に抱えた頭の隙間から手を振ると
彼女は笑いながらその場を後にする
見っとも無いところを見られて落ち込みながら
画面の下の小さな時計に目をやる
午後3時を軽く過ぎた頃
彼女の言う通りについでだったのだろう
他の社員も数人立ち上がっていた
「って言うか・・・・・いつの間にこんな時間・・・・・」
最悪の出会いと自分の未来に嘆いて悩まされていたら
時間は着々と過ぎていたようだ
しかし仕事は進んではいない
このままで残業も考えられる
それは勘弁だ!
そう考えて痛む頭とだるい身体に鞭打ってキーを叩き出した
考えても無駄だ
いや、
考えるのもオカシイ
きっと昨日の出来事は夢に近かったのだろう
夢でなくともあの男達にとってはからかいの一種だったのだろう
そう思えば俺の危惧なんて悩むだけ無駄だ
そうだ
そうに違いない
俺は自意識過剰かもしれない
あんな住む世界の違う男が
平凡なサラリーマンを【欲しい】と言うのが本来馬鹿げているのだから
きっと何の変化もない人生に疲れた俺が生み出した妄想
そうじゃなかったら
いるか分からないけれど神様がくれた非日常だったのだろう
そうだったなら気がすめば終わり
神様なら気まぐれだ
あっはっはっは〜〜
俺ってバカだな〜
って言うか俺の脳みそ良い具合で壊れたか?
パソコンの画面見すぎて
視力じゃなくって
脳みそいかれたんだな
面白い壊れ方するぜ俺の脳みそ
グラミー賞モノだな!
・・・・・バカ、違うだろ俺・・・・・グラミー賞は音楽だ!
アカデミー賞だ・・・・・
「はぁ・・・・・・」
本格的に疲れてきたな
今日は残業はナシで帰ろう
明日やる
今日出来なかったことは明日やろう
いつの間にか時計は3時を頭の昔に過ぎ去らせ
就業時間間際になっていた
悩むことがなければ嬉しい時間の過ぎ方だけれど
こんな状態じゃ疲れるだけである
ノンフレームの眼鏡を外し
重い目蓋を揉んでいたら
「桂木」
「・・・・・・・・」
「桂木!!」
「桂木さん、主任が呼んでますよ?」
「え?」
「桂木はいないのか!?」
「あ、はい!はい、います!!」
大きな声に驚いて立てば
窓際の年配の主任が受話器を持って俺を睨んでいた
ヤッベ!
「お前に電話だ」
「は?」
「回線は2番、早く出ろ」
「あ、え、はい」
即されて点滅している回線の二番を押して受話器を耳に当てた
「はい、桂木です」
『やっほ〜〜〜』
「!!」
聞こえてきた声に思わず受話器を落としそうになって慌てて握りなおす
目の前の後輩は怪訝な顔をして
窓際の主任は此方を睨んでいた
そして聞こえる声は能天気にも笑っていた
『お前の上司、態度悪いね〜俺の名前聞いて超え低くしてきやがんの』
「・・・・何か御用ですか?」
『あはは〜畏まってるー』
「御用がないのでしたら、切らせて貰っても宜しいですか?」
『あ〜ダメダメ〜〜用がちゃんとあるんだから』
受話器の向こう側の声
関わりを持ってしまった男の声
西園だ
『あのさ〜仕事もう終わるよな?』
「いえ、残業がありますから」
『そっか終わるか』
「だから、残業があります」
『その会社はたしか就業時間は5時45分だよね?片付けるのに多く見積もって10分だとして』
「だから、」
『6時には下に下りてくるよね?』
此方の話しを聞かずに進めていく
聞こえているはずなのに
聞こえていないふり
声は楽しそうに
笑いを含んでいる
頭痛が増したように脳内の痛みが鈍さから鋭さに変わった
「いいえ、残業がありますので早く見積もっても9時を過ぎます」
『過ぎないよ』
「いいえ、過ぎます」
今度こそは流されるわけにはいけない
回避する
逃げ切ってみせる
俺はまともに生きる
まともで平坦で平凡でも良いから
180度回転した世界には行かない
「仕事があるんです、終わりそうにもないので切らせていただきます」
『カツラギ』
「・・・・・・・・」
名が呼ばれる
声色が変わる
楽しげから
艶に変わって
甘さから
毒に変わる
『お前は6時には下に来るよ』
囁くように
耳の中に
脳の中に
『俺がそう言ってるんだから、必ず絶対に下に言われた時間通りに来る』
毒が
身には甘い毒が流されてきて
『下で待ってるから』
俺の思考も身体も蝕んでいく
『だから早く来てね?待ってるからね?』
ふっと耳にこぼれる囁かれる笑み
それは痺れを伴って
『会社の前で100本の薔薇を抱えて待ってるよ、そしてお前が来たらその薔薇ごと抱きついてあg』
「失礼します」
最後まで聞かずに回線を遮断する
最後の声は打って変わって子供の悪戯を伝える悪ガキの声
きっと切られた受話器を持って大笑いしてるだろう姿が目に浮かぶ
そしてその後ろでも横にでも控えた斉藤って名のあの男は呆れた顔をしているのだろう
俺も小さく笑った
きっと誰も俺が笑ったと分からないであろう小さな口元の歪み
大きな音を立てて置かれた受話器に視線が集まるが
知らないふりで席に座る
パソコンの画面の小さな時計
表示される時間はあの男が言った時間
そして消える画面
「帰るか」
一度は流されても良いのかもしれない
むしろ、もう逆らえない激流にのまれてしまっていたのかもしれない
あの男が待っている
冗談にも薔薇を抱えて待っているかもしれない
いや、冗談だろう
俺が女じゃあるまいし
もう抜け出せない
片足どころか身体半分が埋まっているのだから
→4
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
3話目です
・・・・・・・・・・・・何ですかね?
まぁ・・・・・アレです、明治君の葛藤と言うことで許してやってください
きっと吹っ切れたように見えて
ただの現実逃避です(笑)
少しばかり思ったように書けてる気がして
小さく拳
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