く ら げ



















斉藤 克己 - さいとう かつみ-

32歳
双頭会西園組若頭の肩書きを持つ

現、組長 西園裄の下について早8年
長かったような
短かったような
激動の8年だ

常に西園の側に立っていた
誰よりも
この男のことを理解していると自負する

そんな俺による見解


















黒光りする高級車のリヤシートから一人の男が降り立つ
チャコールグレーのタイトなスーツが彼に似合い
このヤクザの看板を背負うようには見えない

その男の後ろから俺も降りる
外の明るさに一瞬だけ目を眇めて
ドアを後ろ手に閉めた

「良い天気ですねぇ」
「んー俺には曇り空が絶好日和」
「はは」

外に出て背伸びをする姿をズボンのポケットに手を入れながら眺めた
そのまま横に何度も倒してから
入り口へと足を向けた

「あぁ・・・・・・そう言えば、今日は姐さんの誕生日ですが如何しますか?」
「は?誰の?」

エレベーターに乗り込んで階数のボタンを押し扉が閉まってから後ろに問いかけると
間の抜けたような答えが返ってくる

「え、何?誰って言った?」
「いや、ミチカさんの誕生日なので、何ご用意しますかってだけなんですけどね」
「ふ〜〜ん・・・・・誰でも良いけど、花キューピッドでもしておけば?」
「分かりました」
「ってか、誰だっけ?それ」

考え込むような顔をして首を傾げる西園に軽く苦笑を零して
誰でも良いですよ、と返す

「良いなら言うなよ・・・・あ、そう言えばアレちゃんとできてるか?」

怒ったような声を出したかと思うと
次には子供のように弾んだ声がする
勝気な美しい女性を思い浮かべては意識の外へと追いやった

「勿論です、事務所に届いているはずです」
「ふっふ〜〜ん・・・・喜ぶと良いなぁ」
「どうでしょうね?」

喜ぶよな、
喜ばないはずないよな
などとブツブツと呟く姿は笑いを誘う

そうこうしない内にエレベータは動きを止め、
扉が開く
目の前の重厚な木製の扉を上げると
むっとするような酒の匂いに顔を顰めた

「またアイツら・・・・・」
「よく飲むな〜」

けらけらと笑い
入り口で立ち止まった俺を追い抜いて西園が先に中へと入っていく
後に続くと、
いつにも増して空いた酒瓶や缶が所狭しとテーブルに並び
それだけでは飽き足らず床にも散乱している

「かと思ったら・・・・・袋にまで・・・・・」

どんだけ飲めば気が済むんだ?
と呆れずにはいられない量だ
だからと言って屍と化した人数は少ない
床に3人
ソファーに1人
向かい側にもう1人がうつ伏せに爆睡している
全部で5人が空ける量ではない

「オイ、何時だと思っている起きろっ」

転がる男に蹴りを入れるも呻くだけで起きる気配がない
大きくため息をついて隅にある簡易キッチンへと足を向けた
でかい薬缶にたっぷりと水を入れ
それを持ってもう一度戻ると
西園がソファーに眠る男の背に馬乗りになっていた

「何・・・・・してるんですか・・・・」
「うん、俺独自のやり方でコイツだけ起こそうかと」
「そうですか、」

呆れ過ぎて何も言えないままに足元に転がる菅の顔に容赦なく水を垂らしていった
大きく開いた口にわざわざ水が入るように

じょぼじょぼじょぼぼっ

「ぶごふっ!?ふがっがっがふっぶひゃっひ!?」

カッと大きく目を見開いて起きたと思ったその目にも的確に水をたらす
ははは、
このまま行ったら溺死間違いナシだな
むしろ死ね

「ぶはっ!ま、マジっごふっ勘弁してくださいよっ!!」
「良いから起きろ」
「起きてますって!ってか死ぬ!!」
「死ね」

冷たく笑みを浮かべて言い切ってやると菅がうつ伏せになって水から逃れようとした
その茶色い頭にもかけてやっていると・・・・

「どぅわーーーーーーっっ!!?!?」

雄叫びが響いた
目を向けるといつの間にか半裸になっているソファーの男
背もたれにはシャツやらネクタイが引っかかっている
どんな早業だ?
呆れと称賛を込めて笑う西園を見つめた
楽しそうな笑みを浮かべてうつ伏せの男の耳に噛り付いている

「うっわ、やっ止めてください!!」
「ヤダね、起きないメイジが悪いよ」
「起きたっ起きましたか、らーーーー!!」

ジタバタと大の男がするような動きではない
這いつくばって西園から逃れようとしている
それを楽しそうに・・・・・ホント心底楽しそうに眺めて
背骨に沿って指を沿わせた

「っひ!」
「良い背中してるね・・・・・・メイジ、ちょっとこの背中に絵、描いてみない?」
「はっ!?」
「「・・・・・・・」」

思わずそのやり取りを凝視
指の動きから話し方にいたる全ての動きが朝とは正反対の雰囲気を醸し出している
西園は目を細めて桂木の腕を押さえ込む

「サイトウ」
「はい」
「近いうちに宮の親父に連絡入れといて」
「分かりました」

うわ、カワイソーと小さく下からの呟きに心の中で同意した
きっと下敷きに押さえ込まれている男は西園の言っている意味を理解していないのだろう
肩越しに乗っているのを怪訝な顔で見上げていた

「さてと、先の楽しみはとって置いて」
「てか、ホント退いてください」
「まーまーそんな事よりも、アレは?」
「コレです」

桂木を見下ろしながら西園が手を差し出してくる
その手に白い大きな紙袋を手渡した
そこに嫌味にならない感じで有名ブランドのロゴがプリントされている
それを逆さまにして箱を落とし
片手で乱雑に空けていく
中からはシックな色合いのスーツが出てきた

「はい、メイジにプレゼント」
「え?」
「これ着てね・・・・で今着てるのは捨ててね?」
「は?」

意味が理解できないのだろう
眉間によるしわが深くなる
それを眺めながら
背もたれにかかっていたシャツやらを先ほどの紙袋に詰め込んいる

「良い?アンタが身に着けるものすべて俺が用意したもの以外は着るな」
「・・・・・・・」
「全部だよ、何から何まで全部・・・・・・分かった?」

いっそうイヤらしく
空気を染め上げて西園が笑う
慣れたはずの俺や菅でさえも息を飲んだ
ゾクゾクと悪寒にも似たものが背筋を駆け上がる

「・・・・・は、い」
「ヨロシイ・・・・・んじゃ〜さっそく下も脱いじゃえ!」

あは、
と今度はコロリと一変して陽気に笑ったかと思うとズボンに手をかけた
それに我を取り戻した桂木が慌ててベルトを押さえつける

「いやいやいやいやっ自分でっ自分でやります!」
「この際だから全部、俺がやってあげるって」
「無理です!自分でしますっむしろさせてください!」

えーーーーっと、
不満げに声を漏らしながらもソファーから降りる
離れた瞬間に起き上がった桂木はソファーの端に逃げ込んで大きくため息を吐き出していた


「サイトウさん、」
「あぁ?」
「・・・・・・・何だか玩具、以上じゃないですか?」
「かもな」


菅のため息にも似た言葉に返しながら
髪をかき上げる









西園という男は
自分が興味がないものは一切その脳に止めておくことはない
そして気に入ったものはその手の内に閉じ込めてしまう
我侭で
自分勝手で
何を考えてるか分からなくて
子供のようで
娼婦の女のような空気を纏っている

西園が気に入った男
きっと
この先に起こりうる未来に
ため息を吐かずに入られない





「この先・・・・・・思いやられるな」














+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

2話目・・・・・です
取り敢えずですね西園に、

『良い?アンタが身に着けるものすべて俺が用意したもの以外は着るな』

を言わせたいが為に出来ました

えーーーーー・・・・・・っと、
微妙でスイマセン



でもやっぱり
ちぃっと楽しい
ちょっとさっぱり(笑)





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