く ら げ



























どこかへ置いてきてしまった

常識

忘れ去られたいつもの

日常

奪われて失った

平穏



隣に肩を並べてあるのは

非常識

目の前に突き出された

非日常

振り返れば取り戻せない

懐かしき日々






手の中に落ちるのは

何なのか、

まだ掴めない
























今度こそ、
すっきりと・・・・とはかけ離れた目覚め
日が高くなりすぎた午後に差し掛かる時間
目を開けて
最初に見たのは当たり前のように白がきれいなシーツ
あの時あの場所の
そのままの状態

「・・・・・・」

ゆっくりと瞬きを一つして、
今の状況を把握する
取り敢えず、
目覚めた
朝だ、いや・・・・むしろ昼過ぎだろう
布団
寝ている
けれど起きた
起き上がれるか?

「・・・・・っ」

起き上がれる
背中が引き攣るような感覚があるが
この背中を引き裂かれるような
抉られるような感覚よりは全然マシだ
けれど、
ゆっくりと手を付いて腕に力を入れる

「っ」

びりっとした痛みが走る
眉を顰めて
完全に状態を起き上がらせる
布団の上でゆっくりといつもの倍以上の時間をかけて胡坐をかいて
その膝の上に肘を付き、
腕に寝すぎて重い頭を乗せる
バラバラと落ちる髪に指を通してかき上げる

「・・・・・はぁ」

かき上げた髪と指の隙間から目線で辺りを見渡すと
誰もいない
意外に思ったけれど、
いたらいたで・・・・・それはイヤだった
痛みと頭の重さでだんだんと皺がよる・・・・完全に不機嫌な顔になった所で、
小さな音を立てて戸が開く
日の光が差し込んできて
そこに立っていたのは

「おはよう、カツラギ」
「・・・・・・」

朝から無駄に黒一色
せっかくの陽気を重くしている
斉藤が立っていた

「起きれるか?」
「・・・・できます」

そう、小さく返して
ゆっくりと立ち上がる
顔を洗えと言われ・・・・言われるまでもなくそのつもりだったから、
指差された方へと足を向けた
歩くたびに小さな痛みが入るがもう我慢できないほどじゃなくなってきた
と言うよりも痛みになれてきたのかもしれない
ばしゃりと水を何度か顔にかけて渇ききった口の中にも水を含ませて吐き出す
備え付けられた歯磨きでのっそりと歯を磨いてから、
漸く鏡を見る余裕と言うか意識を持った

「・・・・・ひどいかお」

胡乱な目線の無精髭の浮いた男が睨むようにそこにいた
体毛が薄いほうだがさすがに少しは髭は浮く
シェーバーを探していると、
いつの間にか鏡の中には斉藤もいた

「やってやる」
「・・・・けっこうです」
「いい、顔に傷が付くと困る」

別に俺は困らない、
誰が困るんだと内心で罵りながら動くのも段々と面倒になってきたので、
されるがままになった
洗面所に腰を下ろされて
少し上だった斉藤の顔が見上げる位置になった

「動くなよ」
「・・・・・・どうでしょうね」
「痛い思いはしたくないだろ」
「充分にしましたからね」

その言葉に嫌味を返すと、
斉藤は苦笑を浮かべて何も返しては来なかった
その手で泡をつけられ、
シェーバーではなく剃刀が握られていた

「・・・・間違わないで、くださいね」
「器用だからな、俺は」
「そうですか、」

すっと剃刀が引かれて
顎を押さえる甲に付いた泡を乗せていく
ソレを何度か行って
耳後ろに沿わせるために横を向かされた

「・・・・・痛みは?」

何のことか?そう嫌味をもう一つ言おうと思ったのだが、
どうせ無駄に終わるのだと思い

「ないと思いますか?」
「経験者だからな」
「だったら聞かないで下さい」

横目で薄っすらと眇めた視線を向ける
俺の顔に視線を落とす斉藤の表情は読めなくて
言葉の割には何も思っていないように思われる
そのまま、
また無言で皮膚の上を刃が滑っていく

「何と言えばいい?」

数十秒の沈黙の後にそんな言葉が呟かれる
沈黙の際に落とした視線を上げると
今度は顔ではなく俺を見ている斉藤の視線とぶつかった

「・・・・何がですか、」
「こうなった状況をだ」

この状況、
髭をそるこんなバカみたいな絵ではないだろうから
ふっと自嘲気味に笑った

「何を言うつもりですか?」
「お前が望む言葉でも言おうか?」
「そんなモンいりません」

俺が望む言葉?
それを貴方が叶えられるかと言ったらそれは有り得ないだろう
そう良く使う言葉の、
天地がひっくり返ろうとも、ね

「止められなくてすまなかったな、」
「・・・・・止められたとでも言うんですか?」
「いや」
「でしょうね、」

すっとまた顎を刃が滑って
反対側に横を向かされて同じように刃が滑っていく

「でも、お前の意思はあの人に伝える時間が作れた」
「俺の意思・・・・ですか、」
「あぁ・・・・少しでもお前の同意をいる言葉だ」
「同意の言葉なんて言うつもりはありませんけどね」
「なくても言わすつもりだからな」
「それは俺の意思じゃない」

そんなののどこをとって俺の意思だと言うのだ、
この世界の人間と言うのは人の話と言う言葉を聞く耳は持ち合わせていないのだろうか?
うんざりした気分になっていると、

「それでも同意は同意、お前に少しは考える余裕も出来たはずだ」
「・・・・・・・」
「心の準備とかな」

準備
いきなり押し倒されて
意味の分からない混乱のままに
いきなり刃を突きつけられた

「その方が今よりは少しはマシだろう?」
「・・・・結果論ですよ、そんな事してもこの状況はどうせ変わらないのだし」

どっちにしろ、
背中が無傷にならない逃げ道はできない
考える余裕?
心の準備?
今となっては鼻で笑い飛ばせる

「それに急になんですか?」
「・・・・・・」
「貴方にも罪の意識でも持ち合わせていたんですか?」

罪の意識とか持ち合わせる前に、
人の話しを聞く耳を持ち合わせて欲しいモノですがね

「もう・・・・どっちにしたって、俺が昨日の俺に戻れる道はないんですよ」

昨日の俺はもういないんです
今の俺は、
造り上げられた言わば生まれたばかりの人間なんですよ
右も左も何も分からない
何にも知らない
これからどうしたら良いか分からない人間に成り下がったんです

「こうなったら腹を括るしかないんでしょう、」
「・・・・・・・」
「そんな目で見ないで下さい」

らしくない顔しないで下さい
そんな哀れみを浮かべた顔で見られても俺は反対に腹が立ちますからね
そんな目で見るくらいなら、
最初から俺に関わってこなければ良かったんだ

「最初から俺なんて目に入れなければ良かったんだ」
「・・・・・それすらも、結果論だ」
「その通りです」

もう、
どうやったって過去には戻れないんだ
どう足掻いたって
どう文句を吐いたって
キレたって

「どうしようもないんですよ、」

こうなってしまったからには、
目の前に出来た道を歩くしかないんですよ

「あの時こうするば、あの時こうしなかったら・・・・そんな事いま言ったって無駄ですから」
「それで良いのか、お前は」
「それで良い?何をバカを抜かしてるんですか」

ハッと今度ははっきりと嘲笑を浮かべる
漸く終わった髭剃りに、
横に置いてあった水分を含んだタオルで顔を拭う
全体的に顔を覆いながら拭いて
下を向いたままに

「そんなのよくないに決まってるでしょうが」
「・・・・・」
「良い訳あるか、」

腹括ったって
理解したって
諦めたって

「所詮は仕方ないで納得したことが、自分の本心だと思いますか?」

そんな仕方ないからで片付けたことで本心がそれを納得したと思うのか?
それが自分の本当の気持ちになるのか?
答えは一つ

「ふざけるな、バカやろう・・・・・なんですよ、」

その一言が相応しい
そして一番に大声で叫びたい

「そう・・・・だな、」
「そうですよ、くだらないこと言わないで下さい」
「あぁ」

ふっと顔を上げて斉藤を見上げる
そこには無表情の顔があった
今までのらしくない顔、よりは
とても彼らしい顔だ
それで良いんですよ

「それで、今いないあの人はどこですか?」

そう問いかけた
いると思われた傍若無人のカタマリは一体どこへ?
喜んで俺がしようとすることをしてしまうあの人は、

「・・・・・事務所で待ってる」

そう言って手渡された真新しいシャツ
それを黙って受け取ってまだ袋に入ったままのを破いて取り出した





























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とっても、
とっても、
とーーーーっても、
お久しぶりの『くらげ』です
忘れ去られていたら・・・・・あっはっはっは(何)

またもやお決まりのようにグダグダすいません
話しに動きがなくてスイマセン・・・・
日記を書き終わってから
こちらの真っ白ページと向き合って
そうか、前回のを覚えてないからだ!!と思って2.3話読み返してみました
・・・・・・変わりなく十数分は真っ白でした(ぇー)
しかし、
そこはアレですね頭空っぽの方がいいと思いました、うん
勢いで書けました
出来は言うまでもないですけど・・・・・・あっはっはっは(オイ)

髭を剃らせる行為が書きたかったと言うか、
洗面台に軽く座った明治と対峙する斉藤の構図が書きたかったと言うか、
顎を掴んで横向きにさせた状態の明治の流し目が書きたかったと言うか、
欲望は尽きません
スイマセン

楽しかったです!