く ら げ















カチっ

小さな音を立てて、
火が灯る
近づけられた煙草にうつれば、
一瞬の間の後に煙が立ち上った

「・・・・何か言いたそうだね、サイトウ」

深く吸い込んだそれを、
味わった後に吐き出されると
目の前の男は目を細めて俺に笑いかけた

「少しばかり、」
「言ってみな」

もう一度吸い込んで吐き出されたのを見てから、
ライターを胸ポケットに仕舞う

「どうして、何も言わずこんな事を?」
「んー・・・・」
「すると聞いても、止めはしませんでしたよ?」
「・・・・・そう?」
「まぁ・・・・考え直せくらいは言ったかと思いますが」

曖昧に
言葉を濁すわけでもなくはぐらかすわけでもなく、
目の前の男、
西園は話しを聞いてるのか聞いていないのか、
微妙な形で頷いている

「言われても、考えは直せなかったな」
「・・・・・」
「きっと、言葉にした時点で決まってしまってるだろうし」
「言葉にしなくても決まっていたのでは?」
「うん、いたね」

ふふふっと、
子供のように笑い
大人の仕草でもう一度煙を吸い込む
この相反する仕草がどうしても、
西園と言う人間の掴み所を見せなくしている

「じゃ〜何でサイトウは止めるの?」
「何、と言いますと?」
「ん〜・・・・何でって言うか、」

そうだな〜
そう言いながら、
煙草を持った手の付け根に顎を乗せて立ち上る煙の行く末をぼんやり見詰めている

「何だかね、あのままにしていたくなかったんだ」

ポツリと漏らし、
長くなった灰を重力の法則にテーブルの上に落として
慌てるでもなく、
また一度吸い込んで吐き出す

「メイジが、煙みたいだから」
「煙・・・・ですか?」
「そう、ゆらゆらって揺れて何処に行くわけでもないけれど、何処かへ消えてくみたいだなって」

ゆらゆら揺れてる手元の煙
上に行くほど薄くなり
空気に溶ける

「そうしたら、分かるように色を染めてしまえばいいと思った」
「・・・・・・」
「俺の色に染めてしまえば、それが何か誰か、分かるだろう?」

煙を見詰めた瞳が眇まり
白く長い指先が
煙を指に絡めて乱れさせた

「それが誰のモノかも分かるだろう?」
「モノに、したかったのですか?」
「名前を書き込んでおきたかった、に近いね」
「・・・・・名前、ですか?」
「そう、西園裄のモノだって、書きたかったんだよ」

ほら子供が良く書くでしょ?と言いながら緩く笑う
何かを思い出すように、
クツクツと笑いを零して、

「アノ子も良く、本に玩具にゲームにぬいぐるみに、名前を書いているよ」
「・・・・・そうでしたね、」
「俺の車にまで名前を書いていたね、そう言えば」

黒い傷一つナイボディに書き込まれた
とある名前
目の前の人物は怒るわけでもなく
小さな子供に書かれたその字を見て、
『字が美味いね』と褒めていた光景を思い出した

「アレをちょっとだけ思い出したんだ」
「・・・・それと、これが一緒ですか・・・・」
「一緒だね〜」

他人の背中に墨を入れるのと、
子供が自分のものだと主張することが一緒
そう言う

「【赤い蝶】は俺の蝶、俺の色」

深く笑い
深く煙を吸い込む

「【双頭】の人間はね、みんな自分のモノだと主張したい時には、そうするんだ」
「それが・・・・それが普通なのですか、」
「馬鹿だね〜サイトウ」

何処かを彷徨っていた視線が自分に向けられ、
冷たい視線がひたりと俺に合わさる
小さな悪寒が背を走り、
気づかれない程小さく身体が揺れた

「まだ、この世界に普通を求めているのか?」

何を今更、
そんなニュアンスが言葉に含まれていて

「それとも、お前の言う普通って何?」
「俺の・・・・普通とは、」

聞かれて言葉を詰まらせれば、

「常識?」

笑みが深まるその視線で、
そう問いかけられる
『常識』
その言葉を頭の中で繰り返して、
この世界で『常識』など存在しないことを
確認するまでもなく分かることだった

「それとも、世間が決めた理論?」

それもまた違う
こんな世間と離れた世界では有り得ない

「分からない?」
「・・・・・」
「ホントは分かってるでしょ?」
「・・・・・たぶん、」

たぶん?
そうだろうか、
本当は分かっていないのかもしれない、
俺の疑問を感じ取った西園が笑う

「分かってると言うか、お前の身体にイヤと言うほど教え込んでやっただろう?」
「っ」

忘れたのか?
言葉ではなく視線で問われた
強い視線が、
俺の心臓を打ち抜く

「それとも、一から教え込んでやろうか?」

それもまた、楽しいね〜
なんて、
冷たい声が静かな部屋に響く
短くなった煙草が、
指で弾かれて灰皿に乗り
消されない火が小さく煙を生み続けている

「火」
「・・・・・・はい、」

新しく咥えられた煙草に
言葉が吐き出される一瞬早くにライターを近づけた
吐き出された煙を見詰め、

「ま、そう言うことなんだよ」
「・・・・」
「常識なんてないし、世間なんてもっての外だし、普通なんてない」

そんな言葉知らないし
いらない
そう続けて

「メイジを欲しいと思ったらから、手に入れて、それを誰のモノか示すために墨を彫った」

ただそれだけ、
たったそれだけのこと

「明快でしょ?」
「・・・・・そう、ですね」

それしか、
今の自分は答えを返せない
この世界に長く身を沈めていたと持っていた
汚れきっていると思っていた
でも、
まだ何か残る部分はあった
まだ、
目の前の人物を理解し切れていない部分があった

「そうですか、」
「うん、そう」

もう一度
同じ言葉を続けてなった櫛切れていないけどしたように思う、
こよにしよう

「それで、モノにできましたか?」
「カタチだけね、」
「そうですね、カツラギはそう簡単には思うようにいかないでしょうね」

あの男じゃ
この西園でも思い通りにならないことがあるようだし、

「いかないね〜」

どうしたら上手くいくかね〜
さほど困ってる風でもなく笑って煙を揺らす

「早く・・・・・早く目を覚まさないかな〜」



遠くを見詰めるように

目を薄めて

小さく

子供のように

無邪気に笑う









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こんばんわ、
またもやお久しぶりに書いています第13弾のくらげです
今回は・・・・西園×斉藤
な、雰囲気をめり込ませてみました
不発ですけど・・・・!
微妙ですけど・・・・!
『誰がご主人様か、もう一度分からせてやろうか?』的なね、
そんな感じなのが書きたかった・・・・・不発弾ですけどね(涙)!!!