く ら げ








ゆらりゆらりと




掴みどころの無い



漂う

くらげのように
























目が覚めたら隣に女が寝ていた


と言う話しがあると思う
布団の中
2人は裸
あきらかに情事の後の残る身体
しかし記憶は無い
しかも知らない女
こんな事があったら
普通は叫びたいだろう
誰!?
何で!?

けれど・・・・・・・
俺の場合は
はっきり言って
何て言って良いのか分からない

目を覚ましたら
むさくるしく
明らかに堅気ではない男に囲まれて寝ていた

『き、き、記憶が無い!!』

いや、
記憶がなくなるのはいつものことだ
いや、
それはそれでいつもマズイと思うのだが飲み始めたら最後、
俺は潰れるまで飲まないと気がすまない
いやいやいや、
今そんな事は少しだけ関係ない!
今のこの状況を打破しなければ!!
辺りを見渡してみる、
よくヤクザ映画やらドラマで見るような事務所だ
まるっきり事務所だ

『何だ・・・・アレは想像の産物じゃなかったんだ・・・・』

とココで関係ないコトに納得
その事務所の大きなガラステーブルの上には、
ビール瓶やら缶、
そしてウィイスキーもあればウォッカにワインに日本酒、焼酎の瓶が所狭しと並べられ倒れている
ソファーの下もあしからず・・・・・

『俺・・・・・いったいドンだけ飲んだんだ!?』

疑問を抱かずにはいられない
俺だけではないだろうが、
しかし見える範囲で転がっている男は4人
俺を入れて5人だとしても明らかに許容範囲を過ぎに過ぎまくっている量だ

『あ、頭が痛くなってきた・・・・・』

二日酔いとは違う痛みに頭を抱えて取り敢えず記憶があるところまで遡ってみようと考え始めた、
そんな俺を見ている男がいるとは知らずに・・・・・・












+++++++++++




「かんぱ〜〜い!」
「「「「かんぱ〜〜〜い!!」」」」

五つのジョッキがガチンと音を立てて合さると、
一気にその中身を半分ほど煽る

「っく〜〜〜〜〜!!」
「生きてるって感じだよなーー!!」
「っかーー最高!!」
「コレがあるから明日も頑張れるって感じ?」
「言えてる」

今日は会社の同期との飲み会
気の知れた仲間と交わすのは酒と上司のグチ
俺はどちらかと言うと開発の方の人間だから上からモノを言われることは少ないが、
目の前の男達は違った
営業たちはそのストレスは計り知れないだろう
つまみを摘んでジョッキを空けては注文しを繰り返していく
大きな声で話し笑い何故だか歌って
二次会へと移動した

「あ〜〜スマン!俺も最後まで付き合いたいんだけどよー明日、出勤日なんだ!」
「は?明日は嬉し楽しい土曜だぜ!?」
「ばっか金曜の夜はこれからだぜ!?」
「すまん!!この埋め合わせは次にするから!!」
「あーあー良いよ、月曜な!」
「すまん桂木!こいつらお前一人に任すの大変だと思うけどヨロシクな?」

手を合わせて千鳥足の友人2人の背中を見る男に、
俺は笑って手を振る

「いいさ、気にすんな・・・・・明日もあるんだから早く帰れよ」
「ホントすまんな!」
「おうじゃ〜な!」

何度も謝りながら駅へと駆けていく男の背中を見送っていると

「か〜〜つらぎ〜〜!次はこの店にすんぞーーー!!」
「先に入ってるからなーーーー!」

そこは小さなクラブだった
落ち着いた雰囲気のその店に入ると中には数人のホステスとカウンターの中に立つ店のママがいた

「いらっしゃませ」

ふんわりと笑う店のママにすいませんと頭を下げた

「煩い客でスイマセン」
「良いんですよ、どうぞ」

ホステス2人に酌をされて笑いあう同僚を見ながら薦められたカウンターの席に座る

「何になさいます?」
「じゃーバーボンのロックで」

そう言うと手際のよさでグラスに琥珀の液体が注がれる
それを口に含んで
飽きさせない話術に酒の量も進み
後ろの2人が帰ったこと気づかずに酒を飲み続けた
酩酊に近い状態なのだが、
なにぶん顔に出ないもので誰にも気づかれないまま飲み続けた
それは俺の限界をいつの間にか超える

「あら、菅さんお久しぶりね?」
「ど〜〜も・・・・良い?」
「えぇどうぞ」

誰か客が来たようだったがそちらには目を向けずにグラスを煽る
中身がなくなったそれを置いて帰るかと立ち上がる・・・・・・・と、

「よ〜〜兄ちゃん!俺らと一緒に飲み明かそうぜ〜〜!!」
「飲むぜー兄ちゃん!!」

グイッと思いっきり引っ張られ、
先ほど来たらしい客の何人かのボックス席に引きずり込まれた

「うっわ!」
「俺らのおごりでいいからよ〜〜付き合えや〜!」
「飲め、な、飲めって!」

俺も相当酔っているが、
この俺を引きずり込んだ男達も負けないくらいに酔っているらしかった
赤い顔に陽気な笑みを浮かべてビールの入ったコップを押し付けられる
強引な進め方だが酔っていた所為で不快に感じずにコップの中身を煽る
すると、
それに気をよくしてまたビールを注がれる

何度も何度も飲んでいるうちにその中に混じってなぜか飲み始めてしまった
飲んで飲んで騒いで
そして・・・・・何故だか彼らの後について・・・・・・・








「ここに来たんだ・・・・てか、酔っていたからとは言え気づけよ俺・・・・・これってこれって・・・・明らかに」
「ヤクザの事務所だな」
「!!」

背後から声がかかって
大げさに身体をビクつかせて振り返るときちんとスーツを着込んだ男が立っていた

「目が覚めたみたいだな、」
「・・・・・・・・」

驚いて声も出ない俺に笑みを向けながら近づいてくる
黒いスーツ
もう見るからにってヤツだ
いやそれ以上にこの男の周りを漂う空気が明らかに違っている

「水かコーヒーかどっちにする?」
「・・・・え?」
「目覚めの一杯だよ・・・・・それとも酒か?」
「いや!水で結構です」

にやっと意地の悪い笑みを向けられて慌てて首を振る
手渡されたのはペットボトル
その赤いふたを開けてぐっと半分まで空けた
身体の隅々まで行き渡るようなそんな感覚に頭が冷えていく

「で、アンタどっかのもんなのか?」
「・・・・・・・・は?」
「どこの組かって聞いてるんだ」
「組って・・・・・組?・・・・って組!?」
「何度も言わせるな、何年何組って年でもないだろう?」
「あ、当たり前です!」
「ま、堅気だろうけど?」

組って・・・・・同職に思われてるのか俺は?
そんなワケあるはずが無い、
生まれて27年経つが一度だって足を踏み外すようなことをした覚えが無いからだ

「ま、そんな事はどうでも良い・・・・・アンタ名前は?」
「・・・・・・・」
「何だ別にとって食いやしないさ、名前を聞いてるんだ。ちなみに俺は斉藤 -さいとう- だ」
「桂木・・・・・・桂木明治 -かつらぎ めいじ- です」
「明治?・・・・・って某菓子会社と同じだったりするか?」
「はぁ・・・・まぁ」

面白い名前だな、
そう言いながら男は低くクツクツと笑った

「しかし、アンタ昨日と全然違うな?」
「あっと・・・・・俺、何かしましたか?」
「いや、これと言ってはしてなかったと思うが・・・・・だが、ウチのモンに負けず劣らずの騒がしさだったモンでね」
「はぁ」

やっぱり、
どちらかと言うと普段の俺は無口で無表情と言っても過言ではない
一日中パソコンの画面に向かっている仕事をしているのもあるだが、
酒が入ると日頃の鬱憤だか反動だかでそうとう饒舌になるのだ

「それに・・・・あの人を見ても無反応だったしな」
「・・・・・え?」
「昨日のこと・・・・いや、むしろ明け方と言った方が近いな、覚えていないか?」
「全然・・・・・覚えていません、けど」

やっぱり・・・・やっぱり何かしたんだな!!
最悪だ最悪すぎるっ
よりにもよってヤクザ相手に・・・・・・!!
俺の未来はもう終わったようなもんだ、

「何か勘違いしてるようだが、俺が言いたいことは違うぞ?」
「え・・・・とじゃー何ですか?」
「その分じゃ・・・・・ホントに覚えていないんだな、」
「だから、何なんですか?」

そんな言い方されるとものすっごく気になるんですが!!
余裕のような人の優位に立つような笑みを浮かべて俺を見ていたのだが、
俺の言葉にそれが崩れて呆れた顔になる
そして、
斉藤と名乗った男が口を開きかけたところで

「いや〜〜アンタ凄いよ!」
「!!」
「菅 -すが- ・・・・・・」
「ふっわぁぁぁ・・・・・っと、おはようございます斉藤さん」

ちょうど俺の足元に転がって寝ていた男が大きく伸びをして欠伸をしながら起き上がった
長めの茶色い髪をかきあげながらニッカリ笑みを浮かべる

「俺、アンタみたいな反応した奴って始めての気がする」
「え?」
「いや〜〜もう、ホント尊敬の域に達するね!」
「は?」

凄い凄いを連発するだけで主語が抜けたままだ
何が凄いのか全然まったくもって理解できない

「まぁ・・・・・菅の言う通りなんだがね」
「何、がですか?」
「双頭会って知ってるか?」
「・・・・・・・・」

知ってるも何も、
東日本の頂点に立つヤクザの総本山じゃないですか!!
って、
もしかして・・・・・もしかして!?

「その分じゃ知ってるな、そうココはその双頭会系西園 -さいえん- 組の事務所だ」
「!!」

うっわ・・・・・
最悪だ・・・・さっきの最悪に×5乗だ・・・・・
しかも西園組、
無関係の俺だって知ってるぞ・・・・・その名前ぐらい・・・・・

「覚えてるか聞いたのは、俺らの親分のことだ」
「・・・・・おぼえて、ない」
「やっぱり・・・・・スゲー」

だから何が凄いと言うのだろうか!
そう思いながら思わず眉間にしわを寄せると、
斉藤が苦笑を浮かべる

「ウチの親分な・・・・・泥酔に近く酔っていようがいまいが、一度見ると忘れられない人なんだ」
「しかも!アンタは組長見ても一瞥で終わったんだぜ!?」
「はぁ・・・・・・・・はぁ?」

一度見ると忘れられない?
何だそれは?
一瞥で終わったと言われましても、
何が何だか全然理解できない

「正直、俺も驚いたよ・・・・・事務所に戻ってきてみれば堅気の男が混じって宴会広げる、」

はぁ・・・・・それは驚きますね、
スイマセン

「しかもその堅気の男は親分を見ても話しかけられても表情も変えずに普通に会話をする、驚かずにはいられるか?」
「俺、絶対にいられませ〜〜ん」

俺は全然わかりません・・・・・・
分かりません?

【アンタ面白いね】

ん??

【欲しいな・・・・・・なぁ俺のモノにならないか?】

んんんんっ???

「あんな至近距離であんなコト言われてんのにさ〜アンタったら」
「そう、きっぱり『とお断りします』だしな・・・・・・久しぶりに度肝抜かれた」
「っすよね〜〜!」
「・・・・・・・・・・・」

記憶の遠い片隅に、
声だけは蘇る
確かに・・・・・・そんな声を聞いたような聞かなかったような・・・・・
しかし、
いくら努力しても顔だけは浮かんではこなかった

「あの人ではないが、俺もアンタが欲しくなったよ・・・・・・どうだ、この世界に来てみないか?」
「っい!?」
「酔ってたとは言えその度胸と意志の強さ、欲しいと思うよ」
「イイっすね〜〜!!この人いたら絶対に組長ってば大人しくしてそう!!」

って、オイ!!
俺は子供のおもちゃか!?

「なぁ・・・・・・どうだ?」
「無理、です・・・・無理に決まってるじゃないですか・・・・・っ」
「何故?」
「何故って・・・・・そんな当たり前のこと言われても、」

そんな急に目醒めて直ぐにヤクザになれって言われてなれるモンではないと思う!
いや、
そんな状況に無くたってヤクザになんてなれるはずが無い!!

「まぁ・・・・・アンタが何を言っても・・・・・無理だろうな、」
「え・・・・・」
「あの人はもうアンタを手元に置くと決めたようだし」

どういう意味だ?
何だその、
その人が決めたからと言ってそうなると言うのは・・・・・

「聞いていましたか、貴方の物になるのは無理だそうですよ、」

斉藤は、
どこか楽しげな笑みを浮かべて右横に視線を流した
後を追うようにその視線をたどると
今まで全く気配の無かった所からにゅっと手が伸びた

「!?」

一面全部に窓が張られたその前に鎮座する大きな机の革張りの安楽椅子がくるりと回る
そこには深く椅子に座って背を預け、
顔の前で指を組んだそのままに薄っすらと笑みを浮かべる人影

「そう・・・・・・でも、俺はもう決めているから」

そこにいたのは、
圧倒的な雰囲気を持つ男だった
たったそれだけの言葉の中に
俺を見つめる視線に
笑いかける笑みに
ただ座っているだけのその姿勢に
有無を言わさせない気配
圧迫感
威圧力
そして
言葉に表せないほどの妖艶・・・・・
そんな言葉が似合う雰囲気を醸し出していた

「・・・・・・・」

目を奪われる
視線を外すことが叶わない

「おはよう、よく眠れた?」
「・・・・・・・・」
「ねぇ・・・・・・ホントに俺の物になる気は無い?」
「は、い・・・・・」

その空気に呑まれながらも漸く出した声は引きつったようになる
カッコ悪いかも知れないが、
そんなことには感けてはいられない
見詰め合ったままの俺とその男の様子を
面白い物でも見てるかのようにニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべて傍観する斉藤
その下では黙って成り行きを見守る菅

「あんまりめんどくさい事は嫌いだから、手っ取り早い方法でアンタをモノにするのも良いんだけどさ、」

そこで言葉を切って立ち上がり
固まった俺に近寄ってくる
ソファーまで来て隣に座ると
その威圧感と何とも言えない妖しい雰囲気が強くなった

「アンタの口から聞きたいよね・・・・・・了解の言葉が」

すっと俺の髪を梳いて顔を覗きこんでくる
目を眇めて
あと少し動けば触れる位置で
もう一度



「俺のモノになれ」



教えて欲しい

だれが
この言葉と
声と
瞳と
気配に
逆らえただろうか

嫌だ嫌だと言っていた口は
無理だと訴えていた思考は
その反対の言葉を紡ぎだしていた

「・・・・・・はい・・・・・・」




目の前の暴君、


名を西園 裄 -にしぞの ゆき-


は、それはそれは嬉しそうに笑みを浮かべた












+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ここ2.3日
一向に頭から離れなかったお話し
どうも西園の性格が固まらないまま書いてしまった・・・・・
たぶん定まるまでコロコロ変わるかも?

ちぃっとスッキリ
ちょっと楽しかった



サイトTOPへ