03: 核心






冷ややかな視線



視線が俺らを突き刺す





その視線を受けて固まる3人。
騒がしいはずの喧騒が遠い場所のように感じ、いつまで睨み合うように見詰めあった。



離れない、
剥がせない視線、
視線だけに掴まったような感覚、



怖いほどの強い視線、
目が離せない、



しかし・・・・・いつまでそうしていたのか分からなくなった頃、
唐突に白いシャツの男は笑った。


路地裏に立つ男は、握っていたシャツから手を離しもう意識のない男に一瞥もくれることなくその場を後にする。
消えたと同時に呪縛が解けたように、3人の肩から力が抜けた。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

しかし、一言も発せずにそのまま立ち尽くしていたが・・・・・健介が乾いた笑いを零しながら、杏滋の肩を滑り降りる。
数十秒の沈黙の後、

「何、今の・・・・・・マジ、スゲーんですけど?」
「・・・・・・あぁ・・・・・」

魂を抜かれたような将馬の声。
分かる気がする・・・・・そう心の中で呟いた杏滋の手は汗で湿っている。
手の平を見て、思わず苦笑が零れた・・・・・





怖い





と思った、
そんな事、ココずっと感じてなかった感覚で、
久ぶりに感じた恐怖は・・・・あまりにも凄まじいものだった。
久し振りにはく言葉、

「・・・・・・・コエー」
「コエーーよな・・・・アレ」
「うん。」

三人で本音で頷きあう。
杏滋たちにとって、今の今まで無縁だった感覚
気にしたこともない言葉、
でも、
あの男を目の前にして
感じたのは、
心の奥底にまで侵食していく、
逃れられないような恐怖だった。



そんな、魂抜けた感覚で目的地の場所へとういつの間にか着いていた。


【Argo -アルゴ】


と言うクラブ。
入るにはそれなりの覚悟がいるクラブである。
中にいるのは羊の皮をかぶった冒険者などではなく、ハイエナもしくは犬だ。
腐った連中の溜まり場。
それでも、彼の有名な【レッド】の溜まり場よりは少しはマシだろう・・・・・警察に目を付けられるような事はしていない。
入り口に立つイカツイ男が頑丈な扉を開けて、頭を下げられる。
入った瞬間に押し寄せる音の波。
音楽と、
悲鳴と、
叫びと、
怒号が混じった喧騒。
内側から震えるような大音量を浴びながら奥へと進む。
人でごった返すホールは、俺たちが進むにつれ道が別れ難なく進み円形状のソファーに近づく。
そこには、2人の男が座っていた。

「遅かったな」

ニヤリと笑みを浮かべたのが、この界隈で最強の名を知らしめる男、菅波楓-すがなみかえで-
黒すぎて青く光る髪を立てて、耳には数えるのも面倒なほど穴が開き、口にはピアスが開いた・・・・泣く子も黙るような強面。
キレイに整った顔をしているのだが、悪どく歪めた表情のお陰で怖いという印象しか与えない。

「ちょっとな・・・」
「うん・・・・」
「・・・・な?」

3人で力なさげに頷けば、もう一人がコトンと首を傾げた。

「何か・・・・・・・あったのか?」

キレイに焦げ茶色に染められた髪がサラリと揺れる、美人顔をしているのが大河聖-たいがひじり-
優しげな風貌をしているが、キレると手がつけられないほど凶暴な男だった。

「「「大有り」」」
「「??」」

一瞬ハモッた榛原たちの声に2人は首を傾げる。
そして、ついさっき見たことを話し始めたのだった。

「・・・・・・・ふ〜ん」

話しを聞いた後の楓の反応はそんな感じ。
興味無さそうにしているようではあるが、完全に楓はその男に会ってみたいと思っている。
歪んだ顔が余計に暗く歪んだ。
人差し指を噛んでいる、ソノ仕草は何か楽しいこと思いついている証拠だ。

「で、どうなの?」
「・・・何が?」

聖がソファーの上に抱え上げた足を揺らしながらそう切り出す。
主語はない。
聞き返せば、にっこりと笑った。

「杏滋から見ては、どんな感じって事。」
「あぁ・・・・あ〜・・・・・・・ひょろい?」
「・・・・何ソレ?」
「何って聞かれても・・・・なぁ?」

同意を求めるように将馬を顔を向ければ、外人のリアクションのように方を上下させる。

「そうだな・・・・杏滋の言うとおり、噂になるような男には見えない。」
「うんうん!俺も思った!もしかしたら俺と同じくらいしか背なかったと思う!」

ちなみに健介の身長は5人の中で一番小さく、160ちょいしかない。

「健介ぐらい・・・・・なの?」

小っちゃいな〜と聖が笑えば、その肩を蹴りながらぎゃーぎゃーと文句を言っている。
二人のじゃれあいを軽くスルーしながら、楓が背もたれによりかかった。
両手を頭の上で交差して、銜えた煙草の隙間から煙を吐き出した。




「・・・・・・・・楽しくなるな・・・・・・・」




そんな呟きを零す。





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