02: 侵食










夜の中に

ジワジワと侵食していく恐怖


逃げ場の無い痛み


抗えない暴力


次は


貴方の番・・・・・・








「なー知ってるか〜?」
「何が?」
「って事は知らないな!?」
「だから何だっつーの」
「いやさ、この辺でスッゲー噂があるんだって!」
「噂?」
「そう!」
「何?」
「赤を身に付けている奴が襲われるって噂!」
「・・・・・?」
「つい最近になってからなんだけど、何でも赤を身に着けていると襲われるんだってさ!」
「・・・・あぁ・・・・ソレね・・・・」
「え、あれ・・・・知ってた?」
「ってか知らねー奴っていねーんじゃねーの?」
「・・・・・」
「通称だか何だか知んないけど【レッド狩り】って言われてるらしいなぁ」
「【レッド狩り】?」
「知らねーか?この辺で名の知れた所謂、少年ギャング団っての」
「・・・・族みたいな奴ら?」
「うーん・・・とはちょっと違う。けど、走ってないだけでヤッてる事は同じだな、ただ相当たち悪いって話し」
「ふ〜ん・・・・」
「そいつらって自分のチーム色として赤い何か身につけてるから分かるぞ、でレッドって呼ばれてるんだし?」
「じゃー・・・その赤いのを身に着けてる奴が襲われてるってのは・・・・」
「そ、殆んどがレッドの一員」
「殆んど?」
「まーその中でも入れないけどレッドとして見られたい奴が身に着けてるんだってよ」
「ほ〜ん」
「ま、お前も気をつけろよ?赤好きだから〜襲われるかもよ?」
「・・・・・・!」
「って外すなよっ根性ねーなー!」

ぎゃははははっは!
と、笑われてもう一人がギャーギャーと騒いでいる。

それを横目でと言うより右耳でちゃっかり聞いてた男が、隣に座る男に顔を向けた。

「だってさ」
「・・・・・・」
「お〜い聞いてますかーーー??」
「煩い、聞いてる、ソレが何だ」
「何って・・・・ソレが誰だか気になんねーのかなーとか?」
「ならない」

そっけなく話しを中断してしまった。
された男は苦笑いを零して、目の前に置いてあった今にも消えそうなタバコを口に運ぶ。

「・・・マズ・・・・なんでこんなモン吸ってるかな・・・・」
「お前のソレよりはマシ」
「ラッキーを馬鹿にするのか?」
「だったらマルメンを馬鹿にするのか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

お互いの愛煙しているタバコの銘柄を出しながらそう言い合う・・・・が、

「不毛だ・・・・・」
「不毛だな・・・・・」
「行くか?」
「だな・・・・・アイツらは?」
「先に行ってんじゃねーの?」

席を立ちながら、食べかすをゴミ箱に律儀に捨てる。
立ち去る姿を憧れの眼差しでその場にいた数人が見送り、
女子高生たちが黄色い声で騒いで見送った。




後ろのポケットに小説をしまった男の名は、春日井将馬 -かすがい しょうま-
火の付いていない煙草を銜えた男の名は、榛原杏滋 -はいばら あんじ-




この辺で知らぬ者はいないほどの名の知れた2人である。




夕暮れの時間から暇を持て余しながら早めの夕食としてバーガーショップにいたが、外へ出てみるともうネオンが煌びやかに輝きを増し、人通りも多くなった。
その人ごみに紛れながら2人はゆっくりと歩みを進める。

「しっかしまー【レッド狩り】ねー」
「センス無いよな」
「まーそうだけど・・・・って言うか、よくもまーアイツラにケンカ売れると関心しきりだねぇ」
「同感」

人数だけはバカに多く。
けれど実力が伴っているのかと聞かれればそうでもない、奴ら。
集団で何でも行動し、集団で一人を襲うと言うロクデモない馬鹿な奴ら。
それ故に、逆らえる者が少なく権力を振りかざしている。

「メンドくせーだろうになぁ」
「だな・・・・・」

実力を伴う自分らも、その【レッド】にはある意味目を付けられている。
けれど、自分たちに気になりながらもケンカをフッて来ないのは割に合わないからだろう。
人数だけでは勝てないと分かっているのだ。
しかし、自分たちを含めた数人は目を付けられようが何しようがそんな奴らを気にしていない。
そこが、【レッド】の違いである。

「杏滋〜将ちゃ〜ん!!」

そんな2人に駆け寄ってきた一人の男。
背の高い杏滋の背中に飛び乗るって笑う。

「痛って・・・・!!」
「・・・よー・・・健介・・・・・」
「おっはーーーー!!」
「おっはー!じゃねーよっ退け!」
「んだよー杏滋、何怒ってんのーカルシウム不足か?昆布食う?」
「いらん!」
「じゃー将ちゃん食う?俺の酢昆布!」
「貰っとく」

背中に張り付いたまま・・・と言うよりも肩の上に乗りそうな所で、下にいる将馬に小さな長方形の箱を手渡す。
紺色のパーカーのポケットが変な形で膨らんでるのを見ると、この他にも何かが入っているようだ。
明るい長めの茶色い髪をサンバイザーで上げている、その下に人懐っこい笑みを浮かべている男の名は、木次健介 -きつぎ けんすけ-

「つーか退けってーの!」
「い〜や〜」
「・・・・・貼り付けとけよ、軽いんだし」
「そーそー・・・てチビって言ったか!?」
「言ってねーし」
「暴れんな!!髪引っぱんな!」

一人キレて杏滋の髪を引っ張って暴れる健介にがーーーっ怒鳴って振り落とそうと動くけれど、髪を引かれて思うようにできない。
それを珍しく笑って見ているだけの将馬。

「・・・・・・・・・・」
「杏滋、やっぱカルシウム不足だね」
「そうかもな」

能天気な健介の声とやる気なさげな将馬の声に重なるように聞こえた路地裏の喧騒。
怒鳴りあう声と殴りあう音、

「おーおー元気、元気ー」
「若いって良いな〜」
「俺たち十分若いし」
「あーじゃー無気力?」
「無気力かもねー」

あはは〜と笑って助けるわけでもなくその場を通り過ぎようとした。
その時見えたのは、いくつかの赤と白いシャツの細い男。

「卑怯者ー」
「は?」
「リンチだリンチ・・・・集団リンチ」
「あーさっきの?」
「そんな事ばっかりやってるから、狩られるだろうよ」
「かもなー」

噂の【レッド】だった。
お決まりの集団行為。
赤信号、皆で渡れば怖くない心理を忠実に再現してくれるヤツラだ、
けれど、どうにも状況は違っているようだった。
地に倒れていくのは、赤を身に付けている奴らばかり。

「・・・・・・オイ・・・」
「・・・・あぁ・・・・」
「え、もしかして噂の!?」





健介が言うとおり、ソノ噂の男。




【レッド狩り】をしている男が、血を噴きながら気を失っている男のシャツを握って立っていた。




唐突に顔がこちらに向けられ、

俺たちの背に何かが勢いよく這い上がる



胸の内を


恐怖と言う感覚が




侵食していくように





03