01: 自嘲









楽しい夜が
嬉しかったはずの時間が

こんな形で

壊されるなんて




思ってもみなかった







パーンと言うクラッカーが破裂する音。
ハラハラと紙テープやらが散らばる。
それと同時にパチパチと手を打つ音が聞こえる。

「おめでとう!」
「おめでとう和泉!」

母と俺と同じ顔をした妹がニコニコ笑いながら、そう言葉にする。

「良くやったな和泉」

父の、表情に乏しい顔に小さく笑みが浮かぶ。

「さすがだ!さすがワシの孫だ!!」

祖父が豪快に笑いながら、俺の背中を叩く。

「スッゲーカッコ良かった!!」

俺と同じ顔をした兄が自分の事のように喜んで抱きついてきた。

そこで、やっと実感する。

「ありがとう」

自分が優勝したと言う事実に。
中学空手の全国大会で優勝できたと言うことに。
たった14歳と言う年齢で、
俺は中学空手の頂点に立てたと言うことを。

「今日はお祝いだから和泉の好きなモノで埋め尽くしたわよ!」
「さ、食べて!」

嬉しさからか、飛び跳ねそうな勢いの母がテーブルに並んだ料理を腕を広げてみせる。
ホントにテーブルの端から端まで自分の好きなもので埋め尽くされている。
自然と顔が綻んだ。

「さ、食うぞ!!」
「いっただっきまーーーっす!」
「いただきます!」

祖父の勢い込んだ掛け声と、俺と兄の声がハモって手当たり次第詰め込んでいく。

「うま!」
「うま〜〜い!!」
「あ、ワシのだぞっ薊!」
「ケチケチすんなよジイちゃん!」
「小童が!!」
「あ、ちょっと!って父さんまで!!」
「うん、美味い・・・・」

食べ盛りと腹空かせの壮絶なる攻防戦。
行儀悪く箸と箸がぶつかり合う。
呆れたようにソレを見る妹と、どこか楽しげで怒る様子もなく見つめている母。

凄く楽しくて楽しくて、
そんなに凄いことじゃないと思ってた事だけど、
こんな楽しくなれるなら、
勝ってよかったんだと思える。

数十分もすれば料理も半分に減り、勢いは落ちついて談笑しながらの運ばせとなる。
俺は上座に座る祖父と試合についてあれこれと話していた。
キッチンでは、

「兎沙希ちゃん、コレ持って行ってくれる?」
「は〜い・・・・あ、待って・・・・お母さんチョコクリームは?」
「あら立てかかってない?」
「・・・・ないな〜切れちゃったかも」
「おかしいわねー・・・仕方ないわ、お母さん今から買ってくるから」
「あ、アタシ行ってくるよ」

財布を持ってリビングを出る母を追いかけて妹、兎沙希も玄関に走る。

「でも、こんな時間だし女の子一人出せないわ」
「大丈夫よ、ちょっとそこのコンビにだし、往復したって10分とかからないし行ってくる!」
「そう?・・・・でも、気をつけてね、何かあったら逃げるのよ?」
「分かってる、それに護身術程度だけどアタシだって空手やってたんだし大丈夫よ、じゃ〜いってきます!」
「気をつけてね〜」

心配しながらも兎沙希を見送った。
リビングに戻ったところで、ガシャンと何かが割れる音。

「うっわ!」
「お母さ〜ん!ジイちゃんが!」
「はいはい、お義父さんったら〜!
「何を小童がっワシのせいか!?」
「明らかにジイちゃんが暴れたからだろう!」
「暴れとらんわ!」
「父さん・・・落ちついて・・・・」
「えーいっ侯貴!お前は落ち着きすぎだ!」
「ジイちゃんそれって逆キレだよ!」
「うるさーーーーーい!」

ぎゃーぎゃー騒いで、どーにか混乱も落ちついた所で一人足りない事に気付く。
キッチンに立つ母の所に近寄って、

「母さん兎沙希は?」
「コンビニにお買い物に行ってもらってるんだけど・・・・あら、もう20分も経ってる・・・・」
「俺、迎えに行ってくる」
「お願いね」
「俺も行く!」

薊と2人外へと出た。
晴れ渡った満天とは言えないけれどそれとなく星の見える夜空。
夏なの暑さもなりを静めて、虫の鳴く音だけ。

「あーー食った食った!」
「食ったー・・・・あ、そう言えば薊は試合どうなった?」
「俺?あーー弱小はやはり弱小なんですよー」
「でも今回は結構いい所まで行ってたよね?」
「初の準々決勝まで行かせて頂きました!もちスタメン!」
「凄いじゃん!」

バスケのフリースローをボール無しで見せてくれる薊の背中に抱きつく。
2人で夜だと言うのにはしゃぎながらコンビにまでの道のりを歩く。
木々の多い公園の横を通り過ぎたらすぐにコンビニ。

「うーちゃん何やってんだろうな?」
「アイスの前で悩んでたりして?」
「有り得る!」

あはは!
と笑って、入り口を通り過ぎようとした・・・・・けれど、何か物音がして立ち止まる。

「和泉?」
「・・・・・・何か聞こえなかった?」
「え?」
「何か・・・・・・さっき聞こえた・・・・・・」

首を傾げてこっちを見ている薊を置いて公園へと入る。
その俺の後を追いかけてきて、

「何が聞こえたの?」
「分かんない・・・・けど、声が聞こえた」
「声って・・・・・変なモンじゃないよね・・・・!?」
「違うって・・・・・そんなんじゃないよ」

顔を青くする薊に苦笑を見せて、聞き間違いかな?
と、思って踵を返した。

「い・・・・・っちゃ!」

木々の葉音の合間に聞こえた、兎沙希の声。

「「っ!!」」

2人して駆け出して、木々で覆われて人目に付き難い林へと駆け込む。
そこには、5.6人の男。
地面に押さえ込まれて殴られている兎沙希。
血を流しながら、




俺たちに手を差し伸べて・・・・いる・・・・





「うあ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」




カッと体中の血が沸騰するかのように熱くなって、そこへ駆け込む。
馬乗りになってる奴を後ろから助走の付いた勢いで蹴りをかまし、数メートル吹っ飛ばした。
その目の前にいた奴も、蹴りの勢いを殺さずに回して覆面を付けた顔面から蹴りつける。
同じように吹っ飛んで木の幹にぶち当たった。

「和泉!」
「ヤベー逃げるぞ!」
「ちっ!」
「行くぞ!」

バラバラと立ち上がって逃げて行く。
倒れてる奴も誰かに支えながら逃げて行く。
その後を追おうとして俺も走り出すが、

「和泉っダメ待って!」
「!」
「兎沙希が先だ!!」
「・・・・・・っ!!」

薊の叫び声に立ち止まって、震える手を握り締めて兎沙希に駆け寄る。
ボロボロに血まみれになった兎沙希。
顔は腕で守ったのか、それ程目立った傷は無い・・・・けれど、他の場所が酷く見える。
白いシャツに男たちの足型が原型が無いほど付いていて、いかに体中に蹴りを食らったか分かる。
唇から幾筋も血が流れていた。
ソノ血を拭って、
汚れた頬を手の平で擦る。

「兎沙希・・・・兎沙希!」
「っう・・・・・・いず・・・ちゃ・・・あー・・・ちゃ・・・・」
「良かった・・・兎沙希・・・今、父さんたち来るから!」

耳に携帯を当てた薊がそう言う、携帯の向こうでバタバタと音が聞こえる。
すぐに来る。

「いず・・・み・・・ちゃん・・・」
「喋んないで・・・・大丈夫だから・・・!」
「さ・・・・きの・・・・いず・・・ちゃ・・・こ、と・・・・いって・・・たっ」
「え?」

荒い息をつきながら、兎沙希が言葉を零していく。

「あた・・・しと、まち・・・た・・・み、た・・・い」
「・・・・・・・」
「ほう・・・・ふ、くだ・・・・いって・・・た・・・・」
「うーちゃ・・・ん」
「そんな・・・・」

目の前が暗くなった。
さーーーーーっと勢いよく血が足下へと堕ちていく。
ソレと同時に目頭が熱くなって、
ボロボロと涙が零れた。

「ごめ・・・ね・・・・ごめんねぇ兎沙希っ」
「和泉・・・・・」
「・・・・・・いず・・・」
「俺のせいだ・・・・俺の・・・・・」




誰かを守るために強くなろうと思ったのに



俺の強さは



誰かを傷付けてしまった



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