■ ご主人様の溜め息
アリシュハルビス家のご当主様のする行動で多いのは、
一、欠伸
二、上目使い
そして、
ダントツが・・・・・・・
「はぁぁぁぁぁ・・・・・」
そう、
溜息である
今日もヒルト様は憂鬱になる一歩手前の気持ちで、
溜息を吐く
「ヒルト様、言っておきますが今なされた溜息は私がする側だと思うのですが、」
「・・・・・・そうか?」
「えぇ私の今の心情に似合った心の表現が正しく溜息です」
「ふ〜〜〜ん、」
「ふ〜〜〜ん・・・って、」
椅子に浅く腰掛けて、
寧ろそうしないと床に足が着かない(ことは内密に、)
足を組む
肘掛に肘を置いて、
そのまた上の手の甲に頬を乗せる
「そのヤル気なさげの態度、さすがの私も傷付くのですが」
「・・・・へ〜〜」
「もしかして、ご関心にない?」
「うん」
「そこだけはヤケに即答ですね・・・・」
はぁぁぁっと漆黒の執事も主人と同じくして溜息を吐いた
ややお疲れ気味、
そして傷心気味である
今まさによよよよっとしなを作りそうな勢いだが・・・・・
「ジルに関心を向けるだけ無駄ですからね、」
「おや、では貴方にでしたら向けるに相応しいと?」
「えぇ・・・・・貴方に向けるくらいなら」
ふふふふっと、
漆黒の執事の隣に立つ白銀の執事がにっこりと綺麗な笑みを浮かべて毒を吐いた
すかさず気を取り直したジルが応戦をする
「何を仰いますか、貴方に関心を向けるなら今の政制に関心を向けたほうが一ミクロンですがマシですよ?」
「いいえ昨今の政制に関心を向けなくては意味のない事でも一ミクロンの教養にはなりますから無駄ではないのですよ」
「どこぞの政治家のように舌先が良く回りますね?」
「ジルには敵いませんよ」
「ご謙遜を」
「そちらこそ」
ふふふふふふっと、
隣り合わせだったのがいつの間にか向き合って笑いあう執事2人、
その二人を見上げるご当主様
いつもの光景に呆れると言う心も忘れてしまった
顔を合わせればお互いを罵りあい
会わなければいいのに態々お互いを探し当てては口喧嘩をするのだから世話がない二人だった
むしろ、
子供に飽きられる心を忘れさせるほどに究極の大人気なさだ
あーでもない、
こーでもない、
いつもと変わらない同じ言い合いによくも飽きないなー
と心持ち関心もしてしまう
「・・・・・・・・・」
見上げながらヒルトは思った
このまま先ほど自分が溜息を吐いた原因を忘れて言い合って今のこの時間が終わってしまえばいい
そう願うも・・・・
儚くその願いは散った
「はいはいはいはいはいは〜〜〜〜い!」
カンカンカンっっっ!!!
軽い何かを叩く音がしながら
誰かが部屋に入ってくる
その瞬間、
誰にも聞こえない舌打ちがしたのは秘密だ
「「・・・・・・・・馬面」」
その姿を認めて、
執事2人が眉間に同じだけの深さのシワを刻んでその名を呼ぶ
「ってお前ら声ハモらせて言う言葉がソレか!!俺はロバートだロバート!!」
「で、何用ですか?」
「その馬に似たと言うか馬そのものの顔をどこかへやっていただけませんか?」
くらぁぁぁぁっ!!っと怒りに声を荒げれば、
今まで喧嘩していたことも忘れてしまったかのように息の合った貶し方を披露した
だから何だと言いたげだ、
むしろ言ってるが、
「テメーらはよぉぉ・・・・・!!」
「だから用件は何ですか、貴方に構えるほど私は暇ではないのです」
「えぇそうです、屋敷内を練り歩くだけのジルが忙しいように僕も比較にならないほど忙しいのです」
「比較されては困りますね、クリス?貴方と私の仕事の内容の格が、違うのですから」
「えぇ貴方と僕の格が違うように」
はっはっはっはっは、
といつもとは違う笑い方で笑いあう
ある部分がとてつもなく強調されてるような気がするのは果たしてそう思いたいだけのことか、
そんな事を思うヒルトである
「・・・・・いやよ、お前らが仲が悪くて貶しあうのが仕事だってのも俺は知ってるが、」
「「そんなくだらないことが仕事ではありません」」
呆れたようにそう言うロバートに、
ヒルトが心の中で『うわっ良い事言った!!まさしくだ!!』と感心しながら拍手を送る
顔には出ていないが
執事2人は気に入らないかのように大否定だけれど
「仕事じゃないんなら何だよ、ストレス発散か?実益を兼ねた趣味か?」
あぁ?っとガラ悪く聞き返す
執事2人は
一瞬の沈黙の後・・・・・
にっこりと笑って
「言うじゃないですか、汚れの分際で」
「えぇ馬と思っていたのですが、無駄に知識のついた馬のようで」
ゾクッとするような気温の差に、
言い過ぎてしまったことを悟るロバート
むしろ明らかに心の中に隠していた本音がポロリと零れてしまった
ヤバイ、
確実に俺は明日の朝食の準備ができない!!
むしろティータイムの茶菓子製作すらも許されない!?
そんな事を考えたのだけれど、
解決策と言うか逃げ道の糸口を無理矢理引き寄せた
ソレは今まさに2人の執事の手がロバートの胸ぐらに触れようとした瞬間である
「そっそんなことより!!」
「往生際が悪いですよ」
「観念しなさい」
「っそそうじゃなくってアンタら何でココにいるか忘れていないか!!」
「「・・・・・・・・・あぁ」」
その言葉に、
とあることを思い出した
そして背中でそのやり取りを傍観していたヒルトが『その話しを戻しやがって!!』
なんて心で暴言はいたのは本人のみぞ知る
「そうでした、」
「大事なことを忘れるところでした」
くるりと同じ動きのしかし逆周りで漆黒と白銀が振り返る
その顔には造ったような笑みが浮かんでいた
白々しいほどの特殊な笑み
別名、営業スマイル
「ヒルト様、大事なことを忘れてしまいまして大変申し訳ございませんでした」
「・・・・・別に(忘れていても良かったのに)」
「せっかくのこの時間を無駄にしてしまうところでした、申し訳ありません」
「・・・・・・いや(無駄にしたかった)」
漆黒の執事が恭しく頭を下げそう言うのに言葉を返して語尾には本音をプラス
白銀の執事にも然り、
そんな事を悟ったかのように2人は笑みを深くした
「今はご朝食の時間でしたね」
「紅茶が冷めてしまいました、淹れなおしますね」
「・・・・・・・・」
かちゃりと音を立てて湯気の立つのがなくなってしまった白磁のカップが提げられる
そして同時に目の前に出されたのは、
グリーンサラダ
「・・・・・・・ジル」
「はい、何でしょうか?」
「食べたくn」
「いけません」
最後まで言わさず言葉尻を奪う
それに心底嫌そうに睨み上げるもそんなの何のその、
もう一つ置かれた皿には
見た目にも食欲をそそる半熟のオムレツ
「クリスっ」
「なりません」
今度は言葉を言う前にダメだしを食らった
むぅぅぅぅっと眉間の皺が深くなり
小さな口が突き出されていく
そう、
溜息の原因はこのまさしく朝食のことだ
甘いもの以外を口にしないと心に決めてしまっているヒルトにとってこのいつもの行事になりつつある
甘いもの以外を摂取すると言うことが、
大が何個ついても足りないぐらいに嫌いなことだった
「行儀がなっておりませんよ、ヒルト様」
「・・・・・・、」
「さ、フォークを手にお取りになってお食事を」
「・・・・・・やだ」
「「今日こそはイヤは聞きません」」
執事の声がハモル
無理矢理手にはフォークを持たされる
その手をさらに近づけないように力を入れるも
そこはやはり大人の力と子供の力
差は歴然
「さ、わがままを言わずに」
「いーーーーっや!」
「そんな可愛らしく拒否なさっても許してあげませんよ」
「っ!!」
フォークの先は色鮮やかな葉野菜にしゃくっと瑞々しい音を立てて刺さる
そのフォークを優雅に漆黒の執事は主人口元に近づけた
無理矢理
「ヤダったらヤダっ絶対に食べないぞジル!!」
「いいえ、食べてもらいます」
「そうです、一日三食すべてお菓子はさすがに身体に悪いのですよ、諦めてください」
そう珍しく子供の反応するヒルト
クリスの言うとおりに口にするもの総てがお菓子なのだこの主人は、
と言っても売ってるような脂ぎった化学調味料たっぷりのスナック菓子ではなく
お抱えのシェフが作る最高級の食材から出来た菓子と言うよりはスウィーツなのだけれど、
だからと言って身体に良いか?と問われれば
誰しもが否を唱えること間違いナシだ
「私イヤですよ、ヒルト様がベッドから出られないほど大きくなった姿を見るのは」
「えぇそんな姿見てしまった日には僕は自分の運命を呪うことでしょう」
ぐぐぐっと今まさに目の前の野菜が口につく寸前で哀れっぽくそんな言葉を口にする
何でこんな時ばっかり意気投合するの!?
そんな理不尽みたいなことに半分泣きそうになりながら断固拒否し続けた
「僕は絶対に食べない!!」
口をあまり動かさずにそう叫べば、
執事2人は溜息を吐きながら
でも、
受け付けないほどの強力な力強さで
「「食べてもらいm」」
「って言うと思ってちゃんと用意したよ」
「「・・・・・・・・」」
「ロバート!!」
執事の言葉を攫って
野菜の盛られた皿とオムレツが乗った皿が下げられて、
ヒルトの目の前に置かれたのは色彩豊かなパンケーキ5段
「「・・・・・・・・」」
そのパンケーキを見詰める執事2人と、
眉間の皺が取れてその顔に笑みが浮かぶヒルト
「ちなみに色の通り上からオレンジ、ほうれん草、にんじん、苺、ブルベリー味のパンケーキ」
「・・・・・少し微妙じゃないか?」
聞いた感じのパンケーキの味に少し不安になるも
ロバートの出すもので不味かったものはない
蜂蜜のかかった明るい黄色のパンケーキにナイフで切り込み一口サイズのソレをフォークで刺した
「食ってみりゃーいいさ、保障するぜ?」
「・・・・・・・ん、」
備え付けのクリームもつけて口に運ぶ
「美味しい」
「だろ?」
幸せと言う表現が似合う小さな笑みが
愛らしい主人に、
得意げに胸を張るコック
「「・・・・・・・・・」」
そん様を見て
執事2人は・・・・・・・・・・
『『余計なことしやがって・・・・・・・殺す、絶対に殺す』』
そんな物騒なことを思った
そして、
ロバートの運命やいかに!!
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有無を言わさなくても
実は表面裏ではヒルトの可愛らしさにノックアウト寸前の執事2人だったり
そんな裏事情(笑)