■ アリシュハルビス家の皆々様
ココはとある世界の、
大きな首都を抱える大きな国の外れにあるお屋敷のお話しです
アリシュハルビス家
その歴史は古く
王都と同じ歴史を持つ一族
広大な土地の半分が深い森に覆われ
一歩足を踏み入れれば迷うってしまうほど
その森の真ん中に建つ大きな大きな古い屋敷
そのお屋敷の当主の名は、
「ヒルト様」
庭に面したテラスの椅子に座り
足を組んで白磁のティーカップを傾ける
ライディア=ヒルト・アリシュハルビス
大きな屋敷の主
小さな小さな当主
ブルーグレイの髪を無造作に切り流し
前髪の長いソレを鬱陶しげにかき上げては手にした書物に、
その幼くキレイな顔の、
白い額に皺を寄せて視線を落とす
「ヒルト様」
「・・・・・・・」
「ヒルト、様」
その横に立って、
黒い燕尾服に身を包むのが、
この広大な屋敷に住み込み小さな主人に仕える
「ヒ・ル・ト、さ〜〜〜ま」
「っ・・・・・!!!?!」
ふぅぅぅっと髪に隠れた耳に息を吹き込みながら、
小さな主人の名を口にする
「ッジ・・・・ル!!?」
「そうでございます、漸くお聞こえになられましたね」
耳を押さえながらバッと顔を本から引き上げて後ろを振り返る
そこには漆黒の髪を同じく黒い細いリボンで一つにしばり、
にこりと笑みを浮かべる
ジルフィード・ライサチェク
アリシュハルビス家に仕える漆黒の執事
どんな事も容易くしてしまう敏腕執事だ
「そろそろ、目と肩と背に休憩を与えてやっては如何ですか?」
「・・・・そんな、時間か?」
「はい、かれこれ3時間は過ぎておりますよ」
ひょいっと手から分厚い本を取り上げて、
風に吹かれて乱れた髪を
その白い手で梳き整える
「ティータイムと致しましょう」
「・・・・あぁ」
言われてみれば、
目が疲れを訴えて瞬きが多く
肩が凝り固まり
背が動くたびに聞きたくない音を立てていた
「サラ、マーヤ」
「「はい」」
後ろに軽く振り返り
声をかけると
一瞬の間の後に同じ顔のメイドが2人カートを押して出てきた
淡い色の茶色い長い髪を一つに三つ編みにしたのを右に流しているのが双子のメイドで姉の
サラ・ヴィルツ
後に続いて同じようにカートを押してきたのが、
逆に左に流しているのが妹の
マーヤ・ヴィルツ
愛らしい顔をにこにこと笑みを浮かべて
サラは紅茶の用意を、
マーヤは焼き立てのスコーンを皿に取り分け主人の目の前に置く
「・・・・・ありがとう」
ヒルトが目の前に用意された紅茶に目元を綻ばせて、
口にした感謝の言葉に
2人のメイドは頬を赤くして
「「いいえっご主人様、ワタクシ達だいs」」
「焼き具合は如何ですか、ヒルト様」
「「・・・・・・・」」
双子の声を遮って、
漆黒の執事がスコーンを割る手に視線を向けながら問いかける
遮った当の本人である執事は、双子からの訴えるような視線を完璧に無視した上だ
しかしその主人は一口ソレを口に運んで
「・・・・・・ん、美味い・・・・・」
「それはようございました」
ふわりと小さく笑みを浮かべた主人に
同じく冷たい面持ちの顔に笑みを浮かべ
メイドは2人その顔に当てられて後ろにひっくり返った
「そりゃぁオメーよ、俺が丹精こめて作ったんだ、美味くて当たり前だな」
「・・・・・ロバート」
生垣の間から、
ひょっこりとくすんだ金髪が顔を出す
タオルを首に巻いて、
鍬を肩に引っ掛けて、
黒いエプロンに、
黒い長靴姿の庭師・・・・もとい、
アリシュハルビス家の専属コック・・・・・でもあり、
運転手でもあり・・・・つまるところの、
オールマイティポジションの男
ロバート・ダッティーヤ
黙ってれば渋いイイオトコだが、
口を開けば
「おーおー坊ちゃん珍しく笑いやがって、相変わらずえr」
ニヤリニヤリと笑って、
自分の雇い主に向ってとんでもない発言をかますが、
最後まで言わされず
びしっ
軽い音を立てて布のはずの白いナプキンが、
ジルの手によって投げつけられたソレがロバートの額に突き刺さる
「ロバート、そんな汚らしい姿でヒルト様の視界を汚すな」
「そうですよ、ただでさえ存在自体が汚れなんですから」
ジルの冷たくも毒のある言葉の後に、
優しくもしかしこちらも負けじと毒をふんだんに含んだ声が聞こえてきた
「ただ今戻りましたヒルト様」
「クリス・・・・・遅かったな」
残りの半分にジャムを塗りつけながら、
庭のテラスに上がってくる階段をゆったりと歩いてきたのが
クリスティン・ウォルター
「申し訳ございません、少々手間取りまして」
白銀の執事と言われるこのアリシュハルビス家のもう一人の執事
漆黒の執事と並ぶ敏腕ぶり
しかし、
同じ立場の執事同士ながら2人の仲は険悪だ
「ご要望のものです」
「・・・・・ん、」
ぺろりと、
行儀悪く指についたジャムを舐め取る仕草に咎めもせずに優しげなしかし温度のない笑みに温かみを乗せる
濃いグレーの燕尾を揺らし肩に着くプラチナシルバーの髪を耳にかけ、
手にした書類を恭しく渡した
「これはこれはクリス、執事の風上にも置けぬ愚行ですな」
「帰ってきて早々、辛辣ですねジル」
「真実ですから」
首を傾げながら笑みを浮かべるも目は笑っていない
しかも言葉に含まれる毒も増す
それを受け取った白銀の執事も負けじと返した
「貴方のように僕はお家でどうのと言う仕事は致していませんので」
「おや、嫉妬ですか?」
「ご冗談を」
ふふふふふっと、
笑う漆黒の執事と白銀の執事
「まー私でしたらヒルト様のお望みの事は迅速に対応できますけれどね」
「そうですかねぇ屋敷を練り歩く事しかしていない貴方ですよ?」
「屋敷のヒルト様のお望みのことを口にする前に行動するのが私の役目ですから」
「くっ付き回って歩くことしかできないジルがですか?本当にできますか?」
「だからそんなに嫉妬心をむき出さないですください、男の嫉妬は見苦しいですよ?」
そんなこと言っているジルの方が嫉妬心むき出しなんじゃ・・・・
と口が裂けても言わないのココでの暗黙の了解だ
言ったら最後、
目にも留まらぬ勢いで命の灯を消されるだろう
そんな事をつらつらと心中で思っていると執事達はいっそうに零す笑いを深くして
「だから、ご冗談を」
「本心でしょうに?」
不気味な二人の間をブリザード吹き荒れる中に身を縮めあう双子とコック
死ぬ・・・・きっとこの暖かい春の日差しの中、
俺たちは凍死するんだ、
サラっ寝ちゃダメ!
マーヤ・・・・凄く暖かいの、どうしてかしら・・・・
おーーーありゃ死んだ爺さんか?
そんな三途の川目前の給仕たち命の危険に、
しかし渦中の人は気にもせずに書類に目を通し続けた
「この役立たずが・・・・・」
「ジェラシー男が・・・・・・」
今まさに言葉のヤリ合いから、
物理的攻撃に移行するためにお互いのシャツを握り締めた瞬間
書類に視線を落としていたヒルトが顔を上げる
「上出来だ、ありがとう・・・・クリス」
「・・・・・どう致しまして、我が君」
クリス一人に向けられた無表情の顔に浮かんだ笑みと労いの言葉
動じないはずの白銀の執事も一瞬だけ言葉を無くし、
けれど次には跪いて主人の手に口付けた
「「「「・・・・・・っけ」」」」
4人の小さく吐かれた言葉に心中ほくそ笑む
それが、
このアリシュハルビス家の日常
ご主人様至上主義が揃うアリシュハルビス家の執事とメイドとコック
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こんなん書き始めました
コメディ調で
でもしかしシリアス含むご主人様至上主義集団のお話しです
お付き合いお願いいたします!!!