■ 秘密


















「リーーーーーーーーズーーーーーーーー!!!」

どーんっと体当たりして執務室に駆け込む
余りの勢いと音の大きさに、
中にいた全員が驚いて固まり目を見開く
いち早く正気に戻ったのは間違いなくエド
こめかみに青筋を立てながら、
何の躊躇いも無く手にしたデカくて大きな本を投げつけてきた

ごすっ

「いぎゃっ!」
「エドっ!」

慌てたようなリズの声に重なるように、
この国のお偉いさんも慌てふためく
投げつけてきた張本人はそんな慌てぶりに何処吹く風

「仕事中だ静かにしろ」
「だからってー本ぶつけること無いじゃないかー!」
「言って聞かないからだ」
「まだ何も言ってなかったじゃん!!」
「今の話じゃない、今までのことを言ってるんだ」
「・・・・・・・」

何も言うことができずに項垂れる
っち
正論吐きやがって
ブツブツと悪態をはけば、
何かを感じ取ってグリグリと無言で拳が脳天を痛めつける

「いたっいたたたたたっ」
「何か言ったか?ん、何か言ってるか?」
「言ってないです、むしろ言うわけ無いじゃないですかー」
「だよなー?」

うぅ・・・・・
いじめっ子!!
痛む脳天に手のひらを当ててエドを睨み上げるも効果は無く
バカにするような笑みで見下ろしてきやがったっ
ぼ、僕だってあとちょっと身長あったら・・・・!!
あ、あとちょっとだけじゃ睨み上げは卒業できないけどさっっ
ちぇっちぇっちぇーーーーー!!

「んで、何か用か?」
「おう用じゃ!!」
「・・・・・・・」
「いたたたたたたっ」

僕の態度に無言でもう一度、
拳が脳天にめり込む
痛いんだって!!
そう言ってる間にエドとリズ以外の人が出て行った

「アリス」

呼ばれてリズの元へと駆け寄る
苦笑を浮かべたリズが、
僕の髪をなでて

「どうした?」
「んとね昨日見せたアレが起きたんだ!」
「アレ?」
「ん、これ」

そう言ってずっと腕に抱えていたものを見せる
だらりとだらしなく、
しかしされるがままにニャガが僕の腕から垂れ下がる
大きさ的に有り余ってるので足が床に着いたまま引き摺られてるのに、
それすらも文句を言わずにそのままだ
凄いよね!

「・・・・・こんなに、大きかったか?」
「・・・・・・あ、やっぱり」
「ん?」

僕の腕の中のものを見詰めて首を傾げるリズ
その言葉に僕はパァっと笑みを広げさせた
そして思わず納得の言葉を吐けば、
余計に不思議そうな顔をした

「何がやっぱり?」
「んーーーーじゃ、エド見える?」

その質問の仕方にエドではなくリズが顔を顰める
問いかけられたエドは
無表情に首を振った

「何も」
「何も?」
「あぁ・・・・・何も見えない」
「・・・・・・・」

そう答える
その言葉に驚きを表す

「何かね〜〜僕以外には見えないみたいニャガ、あニャガって言うのって言うか正式名称僕長くて覚えらんない」
「・・・・・・」
「でねー皆に見せに言ってもね、困った顔するからさ〜」

ね、ニャガ?
と顔を覗き込めば
当たり前だ、と言うように長い黒い尻尾がふらりと揺れる
けれど、
どうしてだかリズには見える気がして
急いで来たのだ

「どうして・・・・私には見えると?」
「ん〜〜〜〜・・・・・・知られたくないことだったら、ごめんね?」
「え?」

一応そう前もって断ってから、
困ったような
でもどこか探るようなリズの珍しい視線を通り越して後ろに標準を合わせる

「いつもリズの後ろに2人いるよね」
「「!!」」

そう言と、
リズとエドまでもが驚愕の表情を浮かべる
それを視界に入れながらもリズの背後に立つ2人に笑みを浮かべた
その2人も驚いたような顔をする

「銀髪の青い目の人と赤茶の髪で黒い目の人」
「ア、リス・・・・・・」
「お、お前・・・・・・見えるのか?」
「つい最近からね、なんだか見えるようになった」

ココ最近だこの背後に立つ2人を見るようになったのは
けれど誰も気に留めず
むしろ見えていないことも分かった
だから言っちゃいけないことなんだと思ったのだ

『私たちが・・・・見えるのですか?』
「うん」

銀髪の人が困ったように首をかしげて問いかけてくる
それに一つ頷くと
その隣に立つ赤茶の髪の人も感嘆の息を漏らしながら
僕を見詰めてきた

『声も聞こえるんだな』
「ばっちり聞こえる」
『・・・・・・リージェイド』
「・・・・・・・・・・・」

黙って僕を見続けるリズ
それに答えるように僕も黙って見続けた
数秒と経ったか、
フイにリズの視線が外れてエドに向かう

「下がってくれるか」
「・・・・・・分かった」

少しの間を置いてから頷き
エドが部屋を出て行った
それを見計らったようにリズが大きく息を吐いて姿勢を崩す

「いつから・・・・・だい?」
「んーーーーーとね、リリカちゃんと会った頃かな・・・・って、知ってる?」
「【黒い猫を連れた紅い瞳の女】の死神のことだろう?」
「会ったことあるの?」
「この城に巣食う魔物は総て知ってるよ」

ってリリカちゃんって死神さんだったのーーー!!??
驚きですっ
今明かされる真実だ!
ってそんな似たようなことニトさんも言ってた気がするけど、
小難しく説明されて覚えてないや〜

「この2人は・・・・・リオンとガレラ、意図して姿を見せない魔物だ」
「魔物なの?」
『正確に言うと魔族です』
「物と族の違いって何さ!?」

思わず突っ込めば、
困ったように銀髪の人(?)名前はリオンは、

『大まかに言って人型を取れるか取れないかですかね』
「人型・・・・・?」
『俺達の本来の姿はこうじゃない、むしろ固体ではない』
「気体?」
『とも違うのですが・・・・なんでしょうね、何と言えば』

固体じゃなかったら気体?でもなかったら・・・・
え、液体!?
液体なの!?
すっげ

『意識の塊と言えばいいのですかね?見る者が思い描くものになると言う身です』
「思い描く・・・・・もの?」
『はい、これはこうだ、これはこうだと思っている形、規定に私達は見えるのです』
「・・・・ん〜僕はそう思ってみてるわけじゃないのに?」

こうだと決め付けて見てるわけでもないし、
ましてや誰も知らないはずのましてや僕だって知らないはずの存在なのに?
首を傾げれば、

『俺達の場合は、そう見せているって言う感じだな』
「見せている?」
『あぁ・・・・こう見えろと、その頭に視覚に訴えていると言う感じだ』
「・・・・・・おぉ」
『そう言った高度な魔力を扱える者を魔族とも言うのです』

ほっほーーーそうなんだ、
一つお勉強になったね!
ってコトはニャガも?
ニャガもそうなの?
てか、ニャガは人型じゃないから魔物なの?
目線と、
それとどうやらニャガに対しては言葉声にしなくても意識で繋がれるようで、
思ったことをニャガに向けると目が上を向いた

『違う』

違うの?

『俺も同じ魔族だな』

ってコトは、
この人が言ってるように意図的にニャンこに見せてるの?
そう問えば、
器用に目が眇まれる

『俺はコイツらよりももっと上の高等魔族だ』

もっと上?

『力を得ると実体を持つことができ、それを維持できる』
「へ〜〜〜そうなんだ、」

声に出して頷けば、
リズたちが窺うように僕を見ていた

「じゃ〜〜リオンやガレラはニャガのこと知ってる?」
『いえ・・・・お見受けするのは初めての気がします』
『俺たちもそんなに古いわけじゃないから』
「ふ〜〜ん、リズは?」
「私は・・・・・・・」

リズが、
懐かしげに
でもどこか悲しげにニャガを見た
ニャガも何も言わずにリズを見返す

「知っているよ」
「知ってるんだ!」
「あぁ・・・・・とても、」










その口が

音にせず

小さく

小さく

ニャガだけに



おかえり




そう

呟いた