■ お茶とケーキと手紙





















よくよく見れば、
見えてないものと見えているものがあるらしい

よくよく聞けば、
それらはずっと古くからこの地を守るものらしい

いつものように、
優しい顔で
優しい声で
リズは教えてくれた














はい、
日常恒例の行事が今日も終了してしまいました!
お勉強嫌いな逃げる僕
家庭教師を仰せつかってるらしいニトさんとの攻防戦
むしろ体力の限界を計るおにごっこ
中には渡り廊下を真っ直ぐではなく真横によぎる僕の襟首を、
誰かが引っつかんで持ち上げた
誰か?
誰かだなんて一人しかいないじゃんね?

「・・・・・・・リズが家庭教師なら良かった」
「私も、選ばさせていただけるなら貴方のような教え子は持ちたくありませんでした」

ぷらりとぶら下げられた僕
目の前には疲れたようなでもかなりご立腹の笑顔のニトさん
器用だね
三つの表情してるってちょー器用だね!

「もう逃がしませんよっ」
「え゛ーーーー!!」
「えーーじゃありません!お勉強の時間です!」

そのまま引き摺られるように僕の部屋へと連れて行かれた
近頃のニトさんって僕をなんだと思ってるんだろうか?

『荷物なんじゃないか?』
「やっぱり!?」
『むしろお荷物』
「こらーーーーニャガ!!そこら辺は心の中で言いなさい!!」
『言ってる、はず』
「んじゃ口に出して言いなさい!」
『意味無いだろうが』
「・・・・・・・おおぅ」

そうだった!!
そう思えばもの凄くものすごーーーーーく、
気に障る顔したぞ!
何だその顔っ

「動物だからって表情筋ないと思ったら大間違いなんだぞ!」
『・・・・・・』
「こらーーー!ニャガ聞いてんの!?」
『・・・・・』
「シカトかコラーーーーー!!」

何て腕を振り回して後ろに続くニャガに怒りをぶつけると、
今の状況を忘れていた僕に思い出させるように

「・・・・・・アリス様」
「にゃ・・・・・・あい?」
「独り言はお恥ずかしいと言うか、むしろ頭がどうのとか緩いとか思われてしまいますので」
「今、ニトさん緩いって言わなかった!?」
「取り合えずお部屋に戻ってから独り言はなさってください」
「流した!?つか独り言じゃないし!!」

目の前に未だに気に障る顔をしたニャガがいるんだぞ!?
見えなくてもいるんだってば!!
目の前にっ正しくっナーーーーーゥッ!!
そんな分かりましたよ、とかスッゲー悲しくなるような目をしないでニトさん!!

「さ、取り合えず気を落ち着かせられるようにハーブティーでも飲みましょう」
「・・・・・凄く、何か、ムカツク・・・・・・」

どうこう説明できないけど、
何だこの苛立ち感!?
椅子に座らされて、
クランチェシカちゃんが白磁のティーカップに苺みたいな赤い色の飲み物を置いてくれた

「・・・・・・」

思うんだけど、
この世界の飲み物ってさー
ものごっつう色彩がはっきりしていないか!?
微妙に飲むのを躊躇う色の飲み物がるぞ!!

「さ、飲んで気と頭の緩みを引き締めてください」
「また緩いって言った!?」

しかも温いぞこのニトさんが浮かべる笑みがっ
くっくっ屈辱だっ・・・・・

『お前屈辱って言葉使ってるけど知ってるのか意味』
「ば・・・・ば・・・・ばかに、しやがんなよ、ニャガ君そんなこと僕知ってるよ」
『しらねーんだな、』
「いやいやいや、知ってると僕はおっしゃってるんだよ」
「言葉の使い方オカシイですよアリス様」
「ハーブティー美味しいなー」

ズズズズッと啜るとお行儀がなってません!!と、
ニトさんからのお小言が飛ぶ
それでもこの赤い苺色に反してチョコに似た味の飲み物を流し込んだ
赤いんだから薔薇とか苺とかそっち系の味しろってんだよ!!
いつも思うんですけどっ

『アリス』
「ずずず・・・・・んあ?」
『アイツらが来たぞ』
「アイツ?」

茶請けのシフォンケーキらしきもの口に運んでいたら、
下に寝そべっていたニャガが尻尾を揺らしながらそう言った
アイツ?とはなんぞや?
そう思ったら
ドガが音も無く開いた
開いてその隙間から顔を覗かせたのは

「あ」
『来たろ?』
「うん」

入ってきたのは、
つい最近お知り合いになれたリズの後ろに黙って笑って控えてる人
今日は一人の銀髪の青い目の人がいた
視線で入っても?と問いかけられて
目の端でニャガの尻尾がいいよと言ったので手を振って呼んだ
その人はニッコリと笑って、
隙間から身体を滑り込ませて音を立てないようにドアを閉めると僕の所まで優雅に歩いてくる

「・・・・・・」
『見習え』
「まだ何も言ってない!」
『お前の考えてることは軽くお見通しだ』
「かるっ・・・・軽くって言われた!!」

いや確かにね、
顔も仕草も大人で優雅だと歩くのも優雅なのね!!とか思いましたよ
あーー思いましたさっ
いやしかしだね、
ぜったにそう言われると思って黙っていたのに黙っていたのってもしかして無意味!?

『そうだ』
「ショック!」

フォーク片手に天を仰いでいたら
その人、えーーーーっと確か名前はーーーー・・・・・・・・・

「・・・・・・・」
『リオン』
「知ってたよ!」
『嘘付け』
「だた出てこなかっただけだもんっ」
『はいはい』

うわーーー何そのおざなりな返しっ
すっげむかつく!!

『こんにちわ、アリス』
「あ、こんにちはリオンさん」

軽く頭を下げて挨拶を返す
その僕の様子にニトさん達が首を傾げた
やっぱり見えていないらしい
ぢょな、
ニャガすら見えてないもんなー

「あ、見えてないかもしれないけどお客さん来てる」
「・・・・・・では、お茶をご用意いたしますか?」
『おかまいなく、すぐ出ますので』
「いいて、すぐ出てくから」
「・・・そう、ですか」

そう返してニトさんは後ろへ下がっていった
ソレを見送って僕に視線を合わせる

『それと、私のことは呼び捨ててでも構いませんよ』
「え、だってほら・・・・年上じゃん?」
『そうですね・・・・でも貴方様はよろしいのですよ』

ふんわりとちょーー綺麗な笑み
あれだ、
世が世なら微笑の貴公子とか微笑み王子とか!
そんなんだっ
心の中ではあんたは微笑み王子だっ

『馬鹿』
「っへーんだっニャガははらぐろおうj・・・あだっ!」

噛んだっ
ニャガが僕の足噛んだーーーー!!

「何しやがるっ」
『ふん』

そっぽを向いたニャガにがるるるるっと威嚇をしていたら、
そんな僕たちの様子を見ていた微笑み王子がくすくすと笑って

『楽しそうですね』
「痛みが伴っていますがねっ」

膝を抱えて噛まれた部分をさすっていると、
微笑み王子が何か僕の前に差し出した

「コレは?」
『リズ様からです』
「リズ?」
『はい』

手渡されたものを見詰める
小さな封筒
赤い紐で止められている
文字は漸く読めるるようになったので
そこには僕の名前があった

「・・・・あれ、でもリズ今ココにいないじゃん」
『えぇ出先からです』
「・・・・出先って・・・・」

出先っておかしくない?
だって向った先には3日かかるんだよ?移動だけで、
今日は4日目よ?

「・・・・・どんな計算!?」
『あぁ・・・・いえ、私達には独自のルートがありますから』
「あ、そうですか」

そうだよね、
人間じゃないもんね悪魔だもんね

『魔族、だ』
「あ、魔族か」

そうだよな、
こんな大天使さまみたいなお綺麗な顔で悪魔ってどんなん?って感じだもんね
ニャガの訂正にウンウン頷く

『で、もう一つはそちらの方にと』
「ニトさん?」
『はい』

もう一つの同じような封筒にはニトさんの名前があった
でも、

「見えてないのに、見えるの?」
『アリスからの経由でしたらもうそれは目に見えるようになっております』
「あ、そうなんだ」

それをニトさんに見せる

「ニトさーーーん」
「はい」
「これリズからだって」
「・・・・・・・」

いつの間にか僕の手の中に二枚の封筒があって軽く目を見開かせたニトさんが、
僕からその封筒を受け取り
丁寧な感じで封を開けた

「・・・・・・・・まさか、」
「うえ?」

同じように僕も風を開けたその中身を悪戦苦闘しながら読んでいると小さな呟きが聞こえる
顔を上げたら微笑み王子が

『それでは私はコレで』
「あ、どーも・・・・あっリズに元気してる?僕毎日元気!って言っておいて!」
『はい・・・・かいこまりました』

僕の言葉に楽しそうに笑った微笑み王子が、
今度はそこから煙のように消えていった

「・・・・・・・わお」


そんな呟きが僕からも零れ
後ろでは盛大にニトさんが溜息を吐いていたのだった