大きく切り取られた枠の外に見えるのは、紅く染められた藍色の空。
時間など待たなくとも夜の帳は降りてくる。
日の女神が落ちれば月の王子が顔を出し、見るもの全てに夢と安らぎを与える刻。
己の目の前にもソレは平等に降りてくる。

「暇そうだな、リズ?」
「そうとう暇だ。俺は一体いつまでこの場に留まっていなければならないんだ?」

窓にしては大きな枠に腰掛けて、いつの間に立っていたのか自分の右腕的存在であるエドに目線を移した。
エドガー・ライセル。
長くも短くもない綺麗な黒髪に、アクアブルーの瞳が映える色男の顔に不似合いな笑みを浮かべ腕を組んでくつくつと笑いを零す。

「聞かなくても知っているだろうに・・・・一体、何度ココに来ていると思っているんだリズ?」
「遠い昔過ぎて覚えてもられんな。」
「では、親切な俺が教えてやろう。あと3日は滞在だ。」
「・・・・・・・・っち。」
「会食の時間になったらニトを呼びに行かせる。あんまり遠くへは行くなよ?」
「・・・・・・・・・」

背を向けながら、ひらりひらりと手を振って部屋を出て行った。
俺がこの部屋を抜け出す算段をしていたことがモロバレである。
もう一度小さく舌打ちをしてから、窓枠から下へと飛び降りた。

ストンと着地をし、気の向くまま夜の散歩を楽しもうではないか、
星は仄かな光で足元を照らし、
月はささやかな光で行き先を知らせる
何かを語りかけられたら、
迷わずソレに従う
ソレはこの神殿での仕来り

我らが愛しき神【アイリス】か?
それとも、
夢へと誘う神【アルマテラト】か?

どちらでも良い、
この平穏で退屈な日常が変わりさえすれば




心に響く
語りかける声、







なにがみえる?

なにかかんじる?

なにかきこえる?


きみにはみえる?

きみにはかんじる?

きみにはきこえる?



まえをみて、

さぁ

もっと
もっと
もっと


あるいて、

さぁ

もっと
もっと
もっと





それをみつけられたなら、






きみにみせてあげよう

きみにふれさせてあげよう

きみにかんじさせてあげよう






われらが・・・・・

いとしき

いとしき・・・・・・・・・・




さぁ・・・・・てをのばして






ガサリと、枝を目の前から避け前に進む
一歩一歩と進むにつれて、
語りかけられる声に、
色が灯る
愛しい愛しい我が子を見せるような声で、
大事なものを密かに触れさせるかのように、

秘密だよと、

小さく付け加えられながら、





さぁ
ご覧
と言う





目の前に、
小さな子供が眠っているかのように倒れていた。
白い月に照らされて、
仄かに光るように、
淡い笑みを浮かべて、
眠っている。





かわいい
かわいい

われらが・・・・

いとし・・・・・き・・・・・





きみに
このこが
まもれるだろうか?


きみに
このこが
あいせるだろうか?





このこは

だ〜〜れだ?




楽しそうに
月は笑う

嬉しそうに
星は笑う