■ 氷点の微笑 ■












そこに浮かんでいるのは温度の無い微笑み。
向けられてないのは、その膝に座る子だけ。

愛らしいその顔に嬉しげな笑みが消えることなく浮かんでいる。

けれど、
その他周りの者は摂氏マイナス何十℃の世界に放り込まれたような感覚に陥っている。
冷たい冷たい凍えるような空気。

「有梨須・・・・何て言ったのかな、今?」

ふっと下に向けられた表情には先ほどの冷たさは無く、馬鹿でも可愛い妹に向けるような手のかかる娘に母親が向けるようなそんな笑み。
正直、その落差に感服だ。
どうやったら一瞬でマイナスから常温に戻せるのだろうか?
ある意味尊敬できる。
ある意味で。

「洲先輩、耳掃除してる?」
「してる。してるけど、理解できなかった。」
「えーーボケがはじっいひゃひゃひゃ!!」
「余計なことを言うのは、この口か?この口なんだな??」
「ひ〜ひゃ〜ひ〜〜(いーたーい)!!」

グイグイと横に伸ばして、嗜める姿が堂に入っている。
あながちアリスが言っていた事は嘘ではないのを実感したリージェイドである。
スパルタ・ママ
お小言たくさん貰ってたとか?
まぁ・・・アリスなら言われるだろうな・・・
落ち着きがないったら、ありゃしない。
ニトが大変な目にあってるらしい。
時々どっと疲れたように机に張り付いている姿を見る。

「さ、もう一度聞く。有梨須はさっき何て言った?」
「むーーー!だ〜か〜ら〜僕!」
「・・・・・僕・・・・お前はいつから僕って使うようになった、そんな子に育てた覚えはないぞ?」
「育てて貰った記憶ないし!」
「教育した覚えは有るけどな。」
「・・・・・・」
「で、何でお前は【僕】だなんて一人称を使っているんだ?」

黙りこくって睨む有梨須の視線をものともせずに、誰も逆らえないような笑みを浮かべた。

「ココに来てからすぐ!」
「何で?」
「いや〜聞いてクダサイヨ先輩〜!!」
「何?」

しかし、恐怖の笑みをものともしないのかニッカリと笑ってジタジタと暴れる。

「ココに来てからさ〜僕、男の子になっちゃった!!」
「・・・・・・・」
「見て見て〜まっ平ら!!」

胸を張ってシャツの前の自分の胸をシュウという人物に向けている。
何故だか余り良い気分ではないご様子のリージェイド、眉間にほんの少ししわがよった。

「絶壁はいつもと変わんないぞ?」
「相っ変わらず失礼だな!」
「変わりないだろうが?」
「あれでも少しはあったの!!」
「はいはい。」
「はいはいって・・・・・酷い!!」
「お前ねぇ・・・そう簡単には『はい、そうですか』って頷けないぞ。」

困惑したような声音に、周りも頷く。
リージェイドだって、言われなければ男としか認識できない。
初めて会ったその時にはもう性別は男になっていたのだから。

「えーーーでもーーー付いてたし」

アリスの場をわきまえない爆弾発言。
ぴくっと洲の身体が揺れた。

「・・・・・・・何が?」
「え?アレが。」
「・・・・・・・ドコに?」
「ココに」

一瞬にして洲の表情が消える。
指を指されたのは足の付け根。
指されるがまま洲はその指先に視線を向ける。

「有梨須・・・・」
「見る?」
「いや、ここではちょっと・・・・」
「じゃ、触る?」
「ソレは許せん。」

思わずリージェイド、口に出してしまった。
そのとたんに甦る氷点の微笑!
怖っ!!!

「何か言いましたか?」
「いいいっいや・・・・何もっ」
「だろうと思いました。」

慌てて首を振ると、にっこりと笑みを贈られる。
心臓が止まるほどの冷たさだ。
お母さんと言うよりお父さんも入ってそうである。
そんな事を心の中で思っていると、エドガーが耳打ちしてきた。

「怖ぇぇぇ・・・・」
「あぁ」
「お前、苦労するぜ?」
「・・・・・・」

言われなくても今ので実感しましたさ。
苦労どころか認めて貰えるなんてのは遥か彼方のいつの事になるやら?的な感じだろう。
分からないでもない。
あんな可愛い子供がいたら、俺だってそうなりそうだ。
いや、てかなるね確実に。

「自分の身体の一部でも見慣れないよぅ、まだ!」
「・・・・・ホントについてんのか?」
「付いてる!だってお風呂でも見たし!」
「・・・・・」
「決定的な証拠は立ってするトイレだね!!」
「本当なのか・・・・・」
「立ってするトイレって大変だね洲先輩!?」
「有梨須・・・・・・」

がくーーーんと項垂れる洲。
相当なショックのようである。

「・・・・・・」
「でもま〜なっちゃったのは仕方ないからイイよね〜?」
「そう言う問題じゃないだろうが!」
「えーーだって戻れるわけじゃないし?」
「そうだけど・・・・はぁ」

もう、いいや!的に大きく息を吐いて頭痛を感じ始めたのだろうこめかみを押さえる。

「何になってもお前はお前だしな・・・・」
「そう!有梨須は有梨須だよ!」
「最初っから絶壁だったもんな?ショックも少なかっただろう?」
「絶壁絶壁言わないでよ!!だから少しはあったの!!」
「ダブルA通り越してトリプルAなお前が言っても信用ならない。」
「ひっど!ってか、トリプルAなんてサイズないから!!」

ぎゃーーぎゃーー抗議する有梨須の頭を押して、黙らせる。
容赦ないのか、ベチッと音を立てている。

「ま、ココで世話になるならその方が間違いないだろうし・・・・」

チラリと視線を向けられる。
針をその視線に何本も仕込まれてるかのように、心臓にグサグサっと刺さる。

「間違い?間違いって何?」
「お前は分からなくてイイ。」
「あーー!また馬鹿にしてる!!」
「してなしてない。」
「いいも〜〜ん!洲先輩優しくなくてもリズが優しくしてくれるも〜ん」

あぁ・・・そこで俺の名前を出されると、ちょ〜〜〜っと命の危険を感じるぞ!
ねぇ?とか言って笑みを向けられたことは正直ものスッゴく嬉しい、嬉しいけど。
その後ろの視線が痛い!

「そうか、優しくねぇ・・・・??」
「だってね〜リズね〜僕が夜眠れないって言ったら一緒に寝てくれるんだよ!」
「・・・・一緒に?」
「そう!居候の身なのにね、同じ部屋の同じベッドに寝せてくれるの!」
「ほほぅ・・・同じベッドに??」

あわわわわわわわっ!!!
ゆらりと何かが揺れた気がした。
ひどく思い圧力を感じる!!

「今でも一緒にか?」
「ココに来てからず〜〜〜っと一緒!!」
「・・・・・・・・」
「ね、リズ!!」

ど、同意を求められても!!
頷いて良いものなのでしょうか!?

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「リズ?」
「・・・・・・・・・・・」
「後でじっーーーーーくりと、話しを聞かせて貰っても良いでしょうか??」
「・・・・・はい・・・・・(涙)」





過保護な親の子供を貰う時は




それなりの覚悟がいるようである。