□ なでなで □











見慣れたベッド

見慣れたカーテン

見慣れた椅子

見慣れたテーブル

見慣れた本棚

見慣れた窓





見慣れて親しんだ部屋














戻って来れた我が故郷!!












「ただいまっ!!」

バターーンと勢い良くドアを開けるとちょうどよく灯された部屋の明かり。
そう、気付いていなかったのだがリリカと会ったその時には日が暮れていたのだ。
日の高いうちから暮れるまで、よくもそんな体力があったもんだ、自分に関心し切りである。
そんな事を思って部屋へ駆け込むと、この部屋の主人が重厚な作りの木製の机越しに笑っていた。

「おかえり、どこへ行ってたんだ?」
「・・・・うぅ・・・・!」
「アリス?」

リズの顔を見た瞬間に今までの苦労が思い出されて(特にエドの仕打ち)ドッと気が緩む。
みるみると瞳に涙が浮かんでしまった。
驚いたようにリズが目を見開く。

「アリス!?」
「リズーーーーーーーー!!」

立ち上がったリズに駆け寄って思いっくそ勢いをつけて抱きつく。
でも、揺らぎもしない。
ちょっと期待はずれ。
ちぇっ・・・・

「どうした、何かあったのか?」

よしよしと頭を撫でられながらもう一度、椅子に腰を下ろす。
膝に僕を乗せて、

「ぎょうはでずね・・・・ずっごいだいべんだったのですっ・・・・ずび!」

涙と鼻水が垂れる(失礼)顔を躊躇いもなくリズがハンカチで拭き取る。
良い人だ!
天ちゃん先輩なみに良い人だ!!
ちなみに洲先輩もしてくれるが、もれなく説教つきだ。
イヤ過ぎる。

「ほら・・・泣くなアリス・・・」
「あい・・・・もう、スッゴイ大変だったのです!」
「ん?」
「リズに今のウチ打ち明けようと思います。」
「・・・・・何だ?」

今日何度も心に強く誓ったこと!

「ぜってーエドに復讐しようと思います!!止めないでね!!」

止めてくれるな、おっかさん!!
俺は行かにゃ〜ならんのだ!!

「・・・・・・」
「もうゼッテー泣かす!!何が何でも泣かしてやる!!てか、ぎゃふんと言わせてやる!!」
「取り敢えず、頑張れ。」
「まかしとけい!!」

オイラ頑張るよ!!
ふっふっふっふっふ・・・・見ておれエド!!
目に物見せてやる!!
ぬははははははっはははっは!!
一人悦は入り始めた僕に、くっくとリズが笑い出した。

「??」
「いや、何でもっ・・・・っくくく!」
「何だよ〜何でもないなら笑うなよ〜」

何だか自分を笑われているみたいで気分がいいものじゃありませんよ?
てか、笑いすぎですよ?
僕が揺れるほど笑うってどういうことですか?
乗り物酔いが激しい方なんで、降りちゃいますよ?
膝酔い?
お〜初体験だ!!

「で、笑うの止めてもらえます?」
「っく・・・・・はぁ・・・・・スマン、余りにも可笑しくって」

あ、また言われた。

「・・・・・・そんなに変、僕?」

お前は可笑しいとよく言われる。
自分の何が可笑しいのか分からないけれど、友人は口を揃えて
『アリスは可笑しい』
そう言うのだ。

「よく言われるんだよね〜可笑しいって。でも僕、自分自身の何がオカシイんだか分かんない。」
「・・・・・・」
「頭が可笑しいって意味なの?」
「違う。」

そう言う疑問が口から滑り出た。
言い終わらないうちに、すぐにリズの声が否定する。
何だかかちょっと怒ってる?
てか、何で怒るの?

「リズ・・・・・怒った?」
「・・・・・・・」
「ご、ごめんね?僕、何か可笑しいらしいから、ごめ――」
「怒ってない、けど自分をそう言うのやめなさい。」
「っ」

強い声でそう言われて、身体が竦む。

「あぁ・・・・アリス、ホントに怒ってないよ?強く言い過ぎたスマン!」

僕の過剰な反応に、慌てたようにリズが困ったような焦ったような顔に表情を崩して抱き込む。

「怒ってない?ホントに?」
「怒ってないよ、スマン・・・・怖がらせてしまったな?」
「うぅん・・・・・怒ってないならイイ」

肩に力を入れていたのを、リズの声と言葉と優しく撫でる手に力を抜く。
昔から、こう声を荒げられると身体が自然に竦んでしまう。
何故だかは分からないけれど。

「でも、自分を卑下するように言ってはならないよ?」
「・・・・・」
「自分を蔑む事は、アリスを評価している人を蔑むことにもなる。」
「どうして?」
「だってそうだろう?アリスを可愛いと言う人、アリスを大切に思ってる人、アリスはエライと思ってる人は、ちゃんと心からそう思っている。」

違う?
そう目を覗き込まれて聞かれても、自分の世界は本誌を声であらわすことをしない人間ばかりだった。
言葉と本心はまったく違うから。

「俺は本心からそう思ってる。アリスは可愛いし、大切だし、凄いとも思うしエライとも思うよ?だって実際にそうなのだから。」
「・・・・・・・・」
「けれど、アリスがそれを聞きながらも蔑むのなら、そう思っている人を拒否して馬鹿にしているのと同じだ。」
「え!思ってないよ!」
「そうなら、自分を卑下してはいけない。それにアリスをそう思っている奴はアリスの事を知らないだけではなく、知ろうともしない奴らだ。」
「・・・・・・」
「そんな奴らの言っている事など真に受けるな。」

リズがそう言うのなら、そうなのかもしれない。
だって、母と同じ事を言ってくれた。
【アリスにはアリスの良い所がたくさんある。それに気付かない奴らはアリスにとって何もならない、だったらそんな奴らの言うことなど聞くに値しない。】
そう言って頭を撫でてくれた。
今まさにリズがしてくれてるように。

「・・・・はい。」
「うん、イイ子だねアリス。」
「へへっ」

へにゃんと力の抜けた顔で笑うと、リズの笑みがよりいっそう深くなる。
そして、目を細めたまま近づいてきて額に口付けを落とされた。

「・・・・・リズ??」
「ん?」

名を呼んでも返事ばかりで行動の意味は口にしない。
額の次には眦に浮かんだ涙に、滑るように降りて次には頬・・・・そして、一瞬離れたかと思うと両手で顔を掬われて見つめ合うようになる。
綺麗な紫灰の瞳が色を増す。
捕らわれたように、その瞳を見つめ続け・・・・唇に息を感じたとき、知らず瞳が閉じる。
あ〜されるんだ〜
何て、思った瞬間。

「大事なお取り込みのところ失礼させてもらうぜ?」
「・・・・・・・・」
「エーーーードぉぉぉぉ・・・・・」
「いや〜言い忘れてたことがあってね〜」

顔は済まなそうだけれど、目と声は確信犯的な感じだ。
わざとでっす!
て感じ。

「よ〜チビ、やっぱお前も動物だったんだな〜帰巣本能あったんじゃん。」
「えぇお陰さまで!!」
「だったらもっと遠い所に置いてくればよかったな〜」
「しゃぎゃーーーー!!」
「あぁっ落ちつけアリス!」
「はっは〜怖いな〜」

食って掛かろうとする僕の腰を掴んでリズの膝の上に引き摺り戻される。
おのれ〜ぜってーーーー仕返ししてやるんじゃ〜〜!!

「そ、それで忘れた用事ってなんだ!?」
「あ?」
「あ?じゃないだろう、何か忘れてきたんだろう!?」
「・・・・・・」

はて、そんな事言ったかな?
みたいなエドの顔・・・・う〜〜わ〜〜〜超性格悪っ!!

「エド!!」
「あ〜はいはい、有りました有りました、有りましたよ〜」

やる気ねーー・・・・
リズも微妙にキレ気味だし!

「で、何だ!」
「明日、天空の賢者殿がいらっしゃるそうだ。」
「・・・・・クラリスがか?珍しいな・・・・」
「物凄く、な。何でも連れが用事があって降りてくるらしい。」
「連れ・・・・・つれ!?」

つれ?つれって??
てか、クラリスって何だ?誰だ??

「あの人間嫌いのクラリスにつれ!?」
「いや、俺に凄むなよ・・・・知らねーから。」

驚いてその後に二の句が告げない、リズに報告は終わったとばかりにエドがさっさと出て行く。




てか、アタシに説明はなしですか?