「あーーーつい!!」

夏真っ盛りとはまさしく今の季節。
うっとおしいほど鳴く蝉の声。
汗と青春の部活動に励む暑苦しい運動部の掛け声。
一歩校舎から出れば、夕方近くだと言うのにさんさんと照りつける夏の日差し。
手で目の上に影を作って目を慣れさせる。
私、相神有梨須(サガミ アリス)はピッカピカの花の女子高生。
そして、新人新聞部員にして駆け出しのカメラマンである。
今日はそれぞれインターハイに向けてのインタビューと各部長さんたちの写真を撮るお仕事のために外にいるのだ。

「暑いのは夏の醍醐味だよ、有梨須。」

隣で呆れたような声をかけるのは、我が新聞部きっての切れ者美人部長3年の明日川洲(アスカワシュウ)先輩。
ノンフレームの似合う涼しげ美人のため、全然暑さを感じてないように見える。
てか、涼しそう・・・・・

「先輩・・・涼しげ・・・・ムカつく。」
「ムカつくってお前・・・かりにも先輩に向かってなんて口聞くのさ、ん?」
「いひゃひゃひゃっ・・・いひゃい!」

むに〜〜んと、後ろから口を横に引っ張られる。
ドコまで伸ばす気でいるのか、グイグイと手加減なく引っ張っていく。
女の子にそんな無体な顔させるなんて、顔に似合わず酷いお人である。

「明日川・・・・それくらいにしておけ、せっかくの有梨須の顔が台無しになるぞ。」

州先輩の頭をぺしりと軽く叩いて現れたのは、副部長を務める州先輩に劣らず良い男ぶりの一之瀬天都(イチノセアマト)先輩。
アタシにとってのカメラの師匠でありお兄ちゃんのような存在だ。

「天ちゃんセンパ〜〜イ!」

ちょっぴり赤くなった頬に手を当てながら、天ちゃん先輩の後ろに隠れる。
おのれ・・・・絶対に仕返ししてやるっ!!

「大丈夫、変わらず可愛いよ有梨須。」
「うん、天ちゃん先輩・・・・言って欲しいとこはソコじゃない。」

相変わらずアタシの顔が好きなようだ、イイ子イイ子されながら微妙に突っ込む。
そんな3人で、校舎裏へと向かう。
木々に覆われた校舎裏を歩くと、先程までの暑さと日差しが嘘のようで少し薄暗さとひんやりとした風が通る。

かしゃっ

「有梨須・・・・お前、空の写真ばっか撮るなよ?フィルム切らしたら走って取りに行かせるよ?」
「だ〜〜いじょうぶでっす!2、3個余分に持ってきてます〜!」
「どんだけ撮るつもりだよ・・・まったく。上ばかり見てると転ぶぞ。」
「は〜〜い・・・・・」

かしゃ

木々の写真
フェンスの写真
家並みの写真
電柱・電線の写真
空の写真
雲の写真
自分の靴、前を歩く先輩の靴の写真
土・草の写真

止まる事のないシャッター音に天ちゃん先輩が苦笑に近い笑い声を零しながら、

「好きだな・・・写真撮るの。」
「うん、好き〜〜天ちゃん先輩のおかげで良いモノに巡り会えました!
「そっか・・・・良かったな。」
「ういっ・・・・うおっと!」
「ほら!だから言ってるだろう!気をつけろ。」

危うく排水溝に落ちる所を州先輩に身体を抱え上げられて免れる・・・
しかし、軽い拳骨つきではあるが。
軽いとか言っても結構痛いのだ・・・・

「痛い!!」
「落っこって擦り傷捻挫するよりはマシだろ!ったく・・・・早くしないと藤島に文句言われるぞ!」
「うぅ・・・・!!」

藤島先輩のマシンガンお小言はカンベンなので、渋々ながら写真を撮るのを止めてちゃんと歩き出す。
テクテクと3人で歩く。
県立高校の癖にやたらと無駄に広い、うちの学校。
目的地に着くのに、ちょいと時間がかかる。
そして、何気無しに気付くいつもと違う感覚。
立ち止まって上を見上げる。

「こらっ止まるなって・・・・置いてくぞ?」

さすがに切れ気味の州先輩。
でもそれどころじゃなくて、気になる何かを気付こうと上を見上げながら首をかしげた。

「・・・・どうした、有梨須?」
「ん〜っと・・・・・・・・何か変じゃないっすか?」
「変?」
「変って・・・・何が?」

上を見続けるアタシと同じように2人も上を見上げた。
空を被い尽くしそうなほどの木々の枝。
その隙間から少しだけ見える断片的な空には・・・・

「アレ・・・・オカシイな・・・・さっきまであんなに晴れてたのに曇ってきた・・・・」
「振りそうだな・・・・と言うより、鳴りそうだな・・・・・」

雷が・・・・と、天ちゃん先輩が声に出さないでそう呟く・・・・
あ・・・そうか・・・・

「蝉が鳴いてない・・・・・・」

煩いくらい鳴いていた蝉の音が聞こえない。
遠くから聞こえていたはずの部活動の音も聞こえない。

「「え・・・・??」」

アタシのその言葉に、二人の声が重なった・・・・同時に突然、雷特有の閃光の前触れもなく轟音だけが鳴り響く。





ドオオオォォォンッ!!





「ひぎゃ!」
「ぅっわ!」
「どっか落ちたかっ・・・?」

雷が落ちたかのように地響きも凄まじい。
何かに掴まらないと、地響きの揺れで転びそうになる。
とっさに手を伸ばした校舎・・・・・

「えっ・・・・えぇ!!」

伸ばした筈なのに・・・・・ソコは木の陰で出来たには暗すぎた影。
ズイと引っ張られるように、アタシの体がその影の中に吸い込まれそうになる。
ってちょっと待て!
何だ今になって明かされる手抜き工事ってやつですか!?
慰謝料ぶんだくりますよ!
何て余裕こいて頭の中で叫んでも、影の中に吸い込まれるように落ちるのは防げるはずもなく、
よってココは一人で恥をかくよりは大勢で!
と言う心理を元に、洲先輩のシャツと天ちゃん先輩の腕を掴んだ。

「うわ!」
「あっこら有梨須っ!!」
「一蓮托生で〜〜い!!」

って・・・・そこでホントなら3人仲良く地面とこんにちは!するはずだったのに・・・・
いつまでも痛いはずの衝撃はなく、落下する感覚だけが続いた。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・取り敢えず、質問良いですか洲先輩。」
「してみろ。」

ひゅ〜〜〜〜〜〜〜っと音がしそうなほどの何の障害もない落下。
いや、障害があったら・・・・・・・考えないでおこう!

「ココで一先ずとりたいと思うアリス的行動。」
「うん。」
「1、空中でしか出来ないこと。2、騒ぐ。3、叫ぶ。4、寝る。どれが一番正しい行動なんでしょうかね?個人的にやりたいのは一番。」
「2,3番はうるさいので却下。4番こんな状況で寝れるもんなら寝てみやがれ・・・かな。」
「じゃ、と言うことで一番の行動をとってみようかと思います。」

混乱の極みなんだろうか?
それか、今の状況を取り敢えず混乱しないための応急処置なんだろうか?
そんな疑問を逆さま胡坐で腕を組んで考える。
目の前の天ちゃん先輩は相変わらずで、変化がないし。
洲先輩は眉間にしわを寄せてしきりにズレてもいない眼鏡をかけなおしている。

「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・コレって何なんすかね?」
「さぁな・・・・・・」
「何だろうな?」
「いつまで・・・・・・・・うぇ!?」

いつまで続くんでしょうね?って聞こうと思ったら突然のこんな状況での突風。
体が浮きそうなほどの強風に目も開けてられなくて、でも離れ離れになりそうでがむしゃらに手を伸ばす。

「有梨須!!」
「天ちゃ・・・せんぱっ・・・!」
「くっそ!手を伸ばせアリ―――!」
「洲せん・・・・・!!」

焦った二人の声と伸ばされた手も虚しく、弾き飛ばされるように勢いよく体が吹っ飛んだ。
ゴオオオオォォッとと言う風の音。
何だか遠のく意識の中で誰かに何かを言われた気がした・・・・・・・








おかえり