■ 受難続きの小田君に愛の手を、幸福続きの片桐君からおすそ分け?














とある居酒屋チェーン店、
みんな大好き【むらさこい】
社長はどっかの田舎出身らしい、
なんてデマが流れる店の名【むらさこい】
お値段安くて、
料理もまーまー、
コップの大きさなら何処にも負けません!!
何て名売って大きくなりました、
【むらさこい】

そこに5人の男が酒交わす、
今日は久方ぶりの飲み会、
大学のサークル仲間、
ゼミ仲間となら飲んだ回数数知れど、
昔からの付き合いの5人での飲みは記憶を遡らなければ思い出せないほど、
確かアレは・・・・・

「俺ら5人集まったのって3ヶ月ぶりか?」
「正確には100日ぶり、」
「いや、そこまで正確に言われてもあーそーとも言えません、」
「・・・・・・・・・」
「一人ウザイ、」
「気にしない」
「いつもの事、」
「毎度のこと、」
「さ、今日もお疲れサマーかんぱ〜〜い!」

一人がジョッキを掲げると、

「「「かんぱ〜〜〜い!!」」」

他の3人も掲げたジョッキが小気味良い音が重なる、
ただ一人は・・・・・

「・・・・・完敗・・・・・」

黒光りする木製のテーブルに突っ伏したまま青い液体の入った細いグラスをズズっと滑らせる

「小田君、何か微妙なニュアンスで君の敗北を感じ取ったよ、」
「・・・・・・・ぅう・・・・・・」
「え、何よ小田ってば今日はヤケ酒気分?」

ビールの泡で髭を作った男が呆れたように染めてくすんだ茶色の頭を見つめる、

「今日って言うか、」
「小田の場合は毎回じゃね?」
「うぅ・・・・・・片桐にはワカンネーよ・・・・この俺のブロークンハート具合・・・・・」
「俺限定かよ、って言うか失恋したのか?またしたのか?」

枝豆を咥えたまま隣の男の髪をクシャリと撫でた、
そこで漸く顔を上げる男、名前を小田 数登 - オダ カズト -

「またって言うな・・・・・・」
「言うなって・・・・また、なんだろ?」

その隣に座る男、片桐 眞也 - カタギリ シンヤ -

「片桐、友達なら傷を抉らずに慰めるモンだろうが、ん?いつものことだろう?ってな、」
「フォローになってねーよ・・・・あ、すいませ〜んユッケ一つ!!」

にっこり笑って塩を塗りこむ男、湯崎
呆れたように眉をしかめて追加を頼む男、松本

「・・・・・・泣くな、潰れても俺が送ってやるから・・・・な?」
「うぅ・・・・・俺を慰めてくれるのはやっぱお前だけだよっ!」

前の席で苦笑を浮かべてお絞りを渡す男、天野

この4人は同じ高校で偶然ながらも3年間クラスメートだった、
気が合った、
気兼ねしなかった、
喧嘩もなかった、
今でもこんな仲、
小田・片桐・天野は同じ大学の2年生、
湯崎は別の大学の2年生、
松本だけは一人社会人だったりする
そんな4人が集まれば、
日頃の鬱積したものを吐き出すには絶好の席、
特に小田にとってはこの4人しか打ち明けられない愚痴が在ったのだ

「って言うか失恋じゃねーし、」
「だってブロークン・ハートなんだろ?」
「小田、恋に破れる!なんだろ?」
「今度は何処の誰だ?教授か?先輩か?OBか?」
「・・・・・・・・・・」
「全部、とか・・・・・・・言うなよ?」
「全部、だったりしちゃう・・・・わけ?」
「全部、なのか・・・・・小田?」

片桐・湯崎・松本が目配せ合う、
天野が軽く頷いた、
肯定だ、
肯定の意味の頷きだった、

「全部だったりしちゃいます・・・・ね、小田?」
「俺は・・・・・俺は別にあんなの自分から望んでねーよっ・・・・・」

天野の言葉に勢いよく項垂れた頭を上げて、
握ったまま口を付けずに満タンの状態の酒を煽って空にした、
色はキレイだが度数が高いカクテル、

「あ、馬鹿!!」
「馬鹿って言うなっ片桐みたいに毎回ギリギリ単位で進級してねーよ!」
「はぁ!?」
「くっそーーーーーーー俺が何したってんだーーーー!!」
「すいませ〜ん、軟骨から揚げくださ〜い」
「松本っこんな時に追加スンナっ」
「は?てか俺仕事上がりで腹減ってんだって、取り敢えず食わせろって」
「俺にジン持ってこーーーーい!!」

ちょっと顔を赤らめて厨房に向かって怒鳴る、
嫌な客のいい例、
駆けて行きそうになるのを片桐が腕をつかんで座らせた、

「落ち着け、空腹時の一気は堪えるぞっ取り敢えず食え、食ってから無理飲み何なりしろっ」
「うぅ・・・・・俺が何したぁぁぁ・・・・」
「はいはい、焼鳥食え」
「皮・・・・・皮が良い・・・・・タレでくれ・・・・」
「文句言わず食えっ」

運ばれてきた料理の皿を受け取り、
追加できたジンのグラスを受け取り空いたコップを店員に渡した、
若い男だった、
その男、
目線は空いた皿でも空いたコップでもなく泣き崩れる小田へと一直線、
そう・・・・これが小田が嘆く一番の理由にして元凶にして核だったりする

「・・・・・・おい、ジョッキ追加持ってきてくれるか?」

視線に気づいた片桐がその視界に入るようにしながら注文を口にすると、
ハッと我に返ったかのように店員の男が片桐に視線を向ける、

「あ、っと・・・・いくつお持ちしましょうか?」
「四つ」
「あ、あとしゃけのおにぎりー二個!」
「松本・・・・・」
「あ、やっぱ釜飯!!」
「あ、はい、ジョッキ四つと釜飯一つですね、ありがとうございますっ」

男は慌てたように頭を下げてテーブルを離れる、

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
「うぅ・・・・・大根サラダ食いてー・・・・」
「後で頼んでやるよ・・・・・・」
「つーかよ、コイツのコレ・・・・・なおってねーの?」
「ばっちり今でも超強力」
「・・・・・・・・よ、このストレート男ホイホイめ、」
「湯崎やめろ、シャレにならねー!」

塩を爛れた傷に押し付ける湯崎、
慌てたように口を塞ごうとする天野、

「おれ・・・・・ゴキブリじゃないやい!!」

嘆く小田の不幸の種、
どんなに真っ直ぐストレートのノーマル男でも、
小田にかかったら急カーブを起こすのであった、
しかも本人の自覚も意思も何もあったものではない・・・・・周りが勝手にそうなってしまうのである、

「俺・・・・・が、何したぁぁ・・・・・!」

何もしていない、
何もしていなくても小田がそこにいれば男が寄ってくるのである、

「こんな平々凡々な何処にでもいるような俺なのにっ」

そう、中肉中背で別に中世的でもなければ女性的でもない、
ホントに普通の男子大学生、

「俺は男に好かれるんだ!?」
「ご愁傷様、」
「だから湯崎っ」
「何々、三角関係しちゃったの?」
「しちゃったの、じゃなくって勝手にしてんの、あっちが!!」
「スッゲーよな〜毎度のことながら、」
「片桐なみだな、」
「ほら、俺の場合は女が俺をほっとかないから、」

ジョッキの底に残った金色の液体を飲み干しながら言う片桐に、
4人の声がハモル、

「「「「いっぺん死ね」」」」
「い、やvv」

うふ、とかキモく笑う片桐に湯崎がお絞りを投げつけて、
松本が憂さを晴らすかのように焼き魚にグサグサと箸を突き刺した、
小田が異様に男(不本意っ)にモテるなら、
片桐は異常なほどに女にモテた、
5人でつるむようになって5年以上経つのにも拘らず女に不自由したことが無かった、
下手したら二股三股は当たり前だったりする、
小田も例に漏れず、
男だけど、

「で、何があったの?」
「聞いてあげるから、言ってみなさい、ね?」
「オイッちゃんが聞いてあげるから、な?」
「・・・・・・・あいつら・・・・・あいつらが、勝手に俺の目の前で喧嘩したんだよ、」
「喧嘩?」

小田の視線がスイッと横に流れ、
今日あった事を思い出すかのように遠くを見つめた

「勝手に俺と付き合ってる事にしやがってるサークルの先輩が、卒業したOBと俺がいる時にたまたま会ってさ、したらその男が先輩がいない間に俺と付き合おうぜとか言い出しやがってよ、嫌だっつってんのにシツッコくて、」
「あぁ・・・・何だかその前振りでその後の流れが読める・・・・・」
「お決まりのパターン、来ましたーーって感じ?」
「まんまだまんま!逃げようと暴れてる俺に抱きついてきて離れろって怒ってたら、顔は知っててもコマとってない教授が助けに入ってきてさ、助かったーーー!って思ったら今度はその教授が俺の小田に何するんだ!とか言い出しやがって・・・・・!!」
「・・・・・・こわっ」
「うわっ・・・・・俺の肌がチキンだ!」

顔を真っ青にした小田に続いて、
松本と湯崎がゾワゾワと這い上がった寒気に腕をさすって身を捩った、
片桐は眉を顰める、
天野もその時のことを思い出して・・・・・見るもおぞましかった、
記憶を遡った、

「したら、そこにいなかった先輩戻ってきて・・・・・もう・・・そっからは、俺にも記憶が無い・・・・・・」
「うん、放心状態の数登の体を俺が引きずってその場を離れたんだよな、」
「健史・・・・・お前は俺の命の恩人だ!!」
「つーか・・・・・そいつらどうしたんよ?」
「知らねーよ、むしろ知りたくもねーよ」

だーーよね〜、
湯崎と松本が頷いた、
天野がうんうん頷いている、
一人静かな男が一人、

「か〜たぎりーど〜した〜〜?もう、酔ったか?」
「ん・・・・あ?」
「おいおい、ジョッキ一杯で夢の世界かよ!」
「はぁ?んなワケねーだろうがよ、」
「何よ、何々?もしかして、ついに小田の遍歴について行けなくなったか!?」
「んだとこのヤローーーー!!俺に背を向けるとは良い度胸じゃねーか!!」

急に胸倉をつかんで暴れだす小田に驚いて、
畳の上に転がるところをどうにか堪えて絡み酒になりつつある小田の頭を引っぱたく、

「はぁ!?ちげーって!!つーか服ひっぱんな伸びる!!」
「うあーーーーんっ健史ーーー片桐が俺を裏切った〜〜〜!!」
「よしよし、」
「しかも殴ったーーーー!!」
「はいはい、」
「スイマセ〜〜〜ン、モダン焼きお願いしま〜〜す」
「つーか松本、食いすぎだろう!?」

どさくさに紛れて注文の追加を叫ぶ松本、
それに突っ込む湯崎、
天野に泣きつく小田、
苦笑を浮かべて幼馴染を慰める天野、
その二人を見つめながら片桐が爆弾を投下した、

「だったらよ、俺と付き合ってみるか小田?」

半径1m内に爆風が吹きすさぶ、

「「「「・・・・・はっ?」」」」

思わず4人全員がハモって聞き返す、
松本の箸がその手から転がり落ちた、

「か、か、か、・・・・・・片桐君?」
「ま、ま、ま、またまたーーー冗談がお好きでらっしゃる、」
「片桐、変なもの食ったか?」
「・・・・・・・・・」
「冗談でも変な物も食ってねーよ、つーかお前らと同じモン今食ってるだろうが、」
「・・・・・・スイマセ〜〜〜ン、ウーロン茶を一つお願いしま〜す」
「片桐、今松本がウーロン注文したからそれ飲んで取り敢えず落ち着け、」
「そうだぞ片桐、数登が酔う酔わない言う前にお前が悪酔いしてるぞ、な?」
「落ち着いてるし、全然まだまだ酔ってねーし、あでもウーロンは飲みたい、くれ」
「・・・・・・・・」

運ばれたきたウーロン茶のグラスを片桐が受け取り、
モダン焼きの鉄板を松本が呆然としながらもちゃっかりと受け取る、
その片桐の隣では、

「あ、小田が固まってる」
「フリーズだフリーズ、」
「再起動してください、立ち上がりには充分な時間が必要です?」
「お〜〜〜い、小田ーーー俺の話し聞いてるか〜〜〜?」
「・・・・・・・・・・」

返事はナシ、
白目を剥いています、

「え、つーかマジなん?」
「マジマジなん!?」
「え、って言うかついに片桐っ数登の毒牙にかかった!?」
「俺の毒牙とか言うなーーーーーーーーー!!」
「あ、戻ってきた」
「お帰り小田、」
「そして現実にさようなら」
「さようなら、じゃねーーー!!片桐っ冗談も程ほどにしねーとおr」
「冗談じゃなくって、マジで俺と付き合ってみね?」
「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

二度目の投下に一同今度は声も無く固まった、
言ったって言うか爆弾を投下した張本人の顔と言ったら・・・・・いつも道理である、
普通すぎている、
ふざけた様子が一切無い、

「か、か、か、か・・・・片桐くん、マジで言ってるの?」
「言ってる言ってる」
「な、な、何で??何で急に今になって、それ?」
「あぁ・・・・うん、」
「あぁ・・・・うん、じゃなくって!」
「いや、つーーかよ〜」

やっぱり枝豆咥えて、
ぼんやり青褪めた小田を見つめる片桐、

「そこまでお前に入れ込む何かがあるのかを知りたくて?」
「・・・・・・・・」
「ちょっと試したくなった」
「・・・・・・・・」
「感じ?」
「俺を実験の道具にするなーーーーーーー!!!」

ドガッチャーーーーーンと、
派手に音を立てて立ち上がった小田がテーブルに足を引っ掛けて座敷から転がり落ちる、

「うわーーー小田ーーーーー!!」
「小田ーーーー!!」
「大丈夫かっ数登!!」
「うっわ小田!!」

たまたま通りかかった先ほどの男が、
逆さまになって放心する小田の体を必要以上に引っ付かせて助け起こす、
時々にあらぬ方向に手を這わせながら、

「はい、スイマセンね〜〜ウチの馬鹿が迷惑かけましたーー」

そう言って無理矢理に店員から小田を引き剥がしてニッコリ笑いかける
ピシャッと開いてた襖を閉めて遮断した、
未だに小田は放心状態、

「てのも理由」
「は、他に何があるっての?」
「俺がコイツと付き合ってる事にすればさ、今度の事のような事件とか昔の事件とかのおきねーんじゃねーかと思って?」
「あーフェイク?」
「ま、そんなモン?」

呆然と前を見据える小田をしっかり座らせて片桐が苦笑する、

「ま、試してみたいってのも本音?」
「「「・・・・・・・・・」」」
「賛成してくれる人、手あ〜〜げて?」
「「「は〜〜〜い!」」」






かくしてやはり当然の如く本人の意思なくして決定された、

小田の受難はまだまだ続く・・・・・・