あいたくてあいたくてあいたくて












俺、
真田 環、
今日も元気に飽きもせず、

「・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

零すのは、
憂いを含めたような溜息、

ぼんやりと、
冬の空を眺めながら今日も昨日と変わらない日常が過ぎる、

「何だよ、景気ワリーな〜」
「んー」
「たまちゃ〜ん起きてまちゅか〜」
「起きてま〜す」

友人が目の前で『ダメだこりゃ』と呆れたような表情で俺を見ている。
ちょっと馬鹿にされたような気もするが、
気がしただけで怒る気にもなれず、
またまた大き溜息が零れる

「辛気臭いんですけど」
「そうですねー」
「そうですねって・・・・・たまちゃん!」
「んー」
「・・・・・・まー取り敢えず、食えよ」
「うん」
「って食うんかい!」

寄こされた冬季限定のポッキーを口に持ってこられて、抗いもせず食べる。
そんな俺に裏拳的突っ込みを真似ながらも、自分の口にもそれを咥えた。

「何よ、たまちゃん悩み事?」
「悩み事・・・・?」
「ぼんやりとしながら、溜息をつく、これ立派に悩み事」
「へー」
「へーって・・・・たまちゃん、実は俺を馬鹿にしてらっしゃる?」

そこは微妙な笑みで返して、今度は自分でポッキーを咥えた。
うん、やっぱ美味いねー
何て思いながら。

「どれどれ、お兄さんにその悩み事、相談してみては如何かな?」
「・・・・・誕生日、俺より遅いだろうよ・・・・」
「気にスンナよ!って言うか話して楽になっちまえよ、な?」

って言うかお前の場合はただの好奇心だろ?
そんな思いが呆れと共に表情に出したが、
目の前の友人、秋葉 尚登(あきば なおと)は気にした風もなく聞く体制だ。

「って言うかな〜・・・・話しても楽にはなんないしなー」
「何だよ、恋バナ!?マジで!?たまちゃんに恋バナ!?」
「恋バナって・・・・決め付けんなよ」
「んだよ、違うのかよ!」
「恋バナだけどよー」
「ってどっちだよ!?」

俺のはっきりしないモノ良いに、何度目か知らない突込みが入った。
何だか、テンション高いな・・・・

「尚、何でそんなテンション高いの?」
「ソウデモナイデスヨ?」
「何でカタカナよ?」
「気分」

気分って・・・・
未だにこの友人の、思考回路が読めない。

「んな事は、どーでも良くって!何何々!?ちょっとマジでたまちゃんの恋バナ!?お兄ちゃん、マジでその辺のこと聞きたいんですけど!」
「何でそんなにガッツくよ?」
「バッカお前!人の恋バナほどウマイもんねーぞ!?」
「・・・・・・・・・」

コイツ・・・・・

「お前との友情は、これまでだな」
「わーわー!ウッソでーす!たまちゃん、俺の可愛いジョーク真に受けちゃイヤーん!」
「テメー今、目がマジだった」
「ソンナコトナイデスヨ?」
「じゃーな」

今度こそ立ち上がると、尚は慌てて俺の制服の袖を掴んで無理矢理座らす。
いささか勢い付きすぎて、転びそうになるが引っ張った張本人に支えられてそれを免れる。

「尚・・・・・・」
「ご、ごめーん」
「・・・・・・・」
「そ、そんな、たまちゃんには俺の秘蔵品、地域限定特大ポッキーも食べさせちゃう!」

どっから出したのか、
その地域限定の特大ポッキーが目の前に差し出される。
特別好きな味だったので許してやった。

「た、たんと食いねー!」
「・・・・・・」
「そんでもって、恋バナ聞かしてくんちょ?」
「・・・・・・・はぁ・・・・・・」

その件は譲らない気でいるのか何なのか、
その食いつきようは異常だ・・・・

「だってよーたまちゃん、浮いた話しがひとっつもナイんですもんよー」
「・・・・そうか?」
「そうですよー?俺とお友達になって早・・・えーっと・・・・半年?」

教室の壁に掛かってるカレンダーを見ながら月日を数える尚の指を見ながら、頷く。
今年もあと少しで終わるモンなー
日が流れるのって早いな・・・・・
そっか、
あの人と出会って、
もう半年も経つんだ・・・・・・

「半年か・・・・・」
「そう、半年!なのに、俺の恋バナはしてもたまちゃん、何も言わないじゃ〜ん!」
「だって、お前のことでイッパイイッパイだったし?」
「め、めんぼくねー・・・・・」

えへへとか笑いながら、またもポッキーを差し出してくる。
目の前の友人の、恋バナはそれはもう激しくも犬も食わないようなモノばかりである。

「そ、それだから!俺は今、恩返しの意味を込めて相談に乗りたいの!」
「ご苦労様」
「たまちゃん・・・・冷たいー」
「ココア飲みたい・・・・・・買ってくる」
「お供します!」

俺が行きますじゃないんだ?
何て思いながら、財布片手に教室を出る。

「で、何をそんなに毎日毎日イヤってほど溜息ついてらっしゃるのさ?」
「んー」

生徒で溢れかえる廊下を尚と歩きながら、
その質問に考えるように・・・・・・

「実はさ、」
「ん?」
「俺も、付き合ってる人っているんだよね」
「へー・・・・・・・・・え!?」

尚が驚いたように大声を上げて、立ち止まる。
隣を歩いていた見知らぬヤツが、
ビクっと驚いて尚を睨みながらまた歩いて行った。

「え、え、え、マジ!?」
「マジ」
「うっそ!?」
「嘘ついて、どーするよ?」
「いや、うん、激しくそーだけど!」

激しく、そうって何だよ?
理解不能。
階段を下りながら、尚の言葉に苦笑して

「その付き合ってる人と、かれこれ1ヶ月は会ってないんだよね」
「・・・・・そりゃーうん・・・・・」
「忙しい人だからさ、電話するのも何だか気が引けてさー」
「うん」
「メールしようかな、とか思っても見る時間ともなさそうでさ、そんな事を思ってたらいつの間にか1ヶ月も経っててさ」
「・・・・・うん」

言葉にしていくうちに、
不安が広がって、
寂しさも膨らんで、

「あいたいなーとか思ってるのって俺だけなのか・・・・とか、心配になっちゃって」
「・・・・・・・・」
「俺とは全然、年も離れてて住む世界も違う人だから、好きで想ってるのって俺だけなのかな?とか考えちゃって」
「・・・・・・たまちゃん・・・・・」

そうでしょ?
こんなただの高校生と日本屈指の大企業の社長様だよ?
住む世界も
考えることも
見ることも
聞くことも
何もかも違う人だから、

「そう考えたら余計に連絡取りづらくて・・・・・」

あの人が
今、他の誰かといたら
俺が連絡を取って迷惑とか思われたら
そう考えるだけで

「・・・・・・・嫌われたくないし・・・・・・・」

好きなんだ
会いたいんだ
でも
それを口に出来なくて
口にしたら
嫌われそうで

「怖くてさ・・・・・・」

そう言葉にしたら
ホントになっちゃいそう
俺だけはイヤだから

そう思って目の前の自販機にお金を入れた所で、
いつも騒がしい友人が黙って俺の話を聞いていたと思ったら、
急に肩を掴んで叫んだ。

「・・・・・たまちゃん!」
「な、何?」

それはもう、
珍しくも真剣な表情で、

「連絡取りなさい!!」
「・・・・は?」
「そんなモノは、ただのたまちゃんの思い込みです!」
「な、尚?」
「好きな人から、付き合ってる人から『あいたい』と言われて迷惑なんて思うわけないでしょ!」

ガクガクと大きく揺さぶられて、
さすがに気持ち悪くなってくる。

「ちょっ・・・・やめ!」
「嬉しい言葉なんだよ!『寂しいから会いたい』とか俺だったらめっさくそ嬉しい言葉だよ!!」
「・・・・・・尚?」

やっと揺さぶられるのが納まったと思ったら、
今度はズイっと目の前の数センチ先に尚のドアップ
近っ!

「会いたいって、ちゃんと言いなさい。」
「でも・・・・」
「たまちゃんの付き合ってる人は大人なんでしょ?」
「え・・・・うん」
「大人だったら尚更だよ!
「・・・・・・」
「こんなの子供の言い分かもしれないけどね、そんな子供と付き合ってるならその子供の言い分を聞くのが大人だよ?」

・・・・・・・尚がマトモな事を・・・・・!!
変なところに感心しながら、後の続く言葉を待つ。

「そんな我侭聞けないような人なら、別れちゃいなさい!」
「えぇっ!」
「子供の言い分も聞き入れられないような人は、駄目駄目ですから!」

何だその理屈・・・・
まぁでも

「言って良いのかな?」
「じゃんじゃん言いな!」
「そっか・・・・・そうだね」
「そうそう!」

尚の満面の笑みと、
力強い頷きの後押しで、
決心付いたかも

「言ってみる」
「おう言え!今すぐ言ってみ!!」







会いたいって言って良いんだ?
そっか



まだ少しの不安もあるけれど、
言って良いことだと知った今なら、
そんな言葉を言える気がして、




1ヶ月ぶりに
その人の番号へと電波を繋げる



ワンコールが鳴ってすぐに繋がったあの人、




俺を心の底から嬉しげに呼ぶ声に




寂しかったのは俺だけじゃないって分かった



「欧丞さんに、会いたい」





素直にそんな言葉が言えた