カ ラ フ ル














俺の名前は、

真田 環(さなだ たまき)




どこにでもいるような、平凡な高校1年生
見た目だって、そこら辺うろついてる奴らと代わり映えしない。
まー平均よりは身長は・・・・小さめだったりするけど、でも170あれば大きい方じゃない?
髪だって、染めてるよ?
って言うか友達に無理矢理染められて、オレンジ色。
でも、色がきれいで気に入っている。
手には最新の携帯、
背中には何も入ってないけど大き目のカバンをたれ下げて、
制服はルーズに着て・・・・


ほら、
やっぱり俺はドコにでもいるような男子高校生




でも、
そんな平々凡々な俺にもちょっとした秘密はあるもので、

誰にも言えない
言っちゃいけない秘密


俺の付き合ってる人、
俺の好きな人、

今、
俺はその人に会いに
こんな所まで来ている


「帰りてー・・・・・・・」

来て早々の泣き言。
だって・・・・目の前に聳え立つ建物見たら、
しがない高校生だったら怖気づくよ?
首を90度角に見上げてやっと見える最上階。
夕日に照らされてキラキラ光るビル。
超高層ビル
行きかう人々は、
颯爽と俺の傍を通り過ぎる
大人

「やっぱ止めようかな・・・・・」

顔を目の前に戻して、一つ溜息。
手にし携帯に視線をやって、
先ほど貰った声と言葉を思い出す。
それを思うと、
足は帰ろうとは動かなくて、
そのままビルに向かって足を進めてしまう。

「不審に思われたら帰ろう、うん・・・・そうしよう」

そうブツブツ呟いている時点で怪しさ満点で、
通り過ぎた人が不思議そうに振り返るのを、俯いて歩いている俺には気付けないでいた。
回転扉に挟まりそうになりながらも、通り抜けると・・・・
そこはビルの中なのに閉鎖感が感じられないほど高い位置にある何十階分の吹き抜けの天井と、
忙しく動き回る大人たち。

あぁ・・・・・
やっぱり、
俺は場違いすぎる。

「って言うか・・・・・気まずい・・・・・」

見られてる、
確実に見られてる。
いたる所から視線を感じて、
俯いてしまう。
そんな俯いたまま、目の前のお姉さんがいるカウンターに早足で近づいて、
目を合わせないまま声をかけた。

「あっあの!」
「はい?」

にっこりと、笑みを向けらて問い返されて・・・・
言葉が詰まってそのまま無意味に「あの」を何回も続けると、
もう一人の人が首を傾げながら、

「どなたかに御用じですか?」
「えっと・・・・・・あの、はい・・・・!」
「では、お客様のお名前と用のある部署、呼び出す者の名を仰っていただけますか?」
「えっ・・・・いや、えっと・・・・・!」

部署?
あの人の部署って・・・・・何?
むしろ、あの人を呼び出してイイの??
普通来るわけないよね・・・・??

「いかが致しました?」
「あっ・・・・・・えっと、在眞を・・・・」
「どちらの在眞でしょうか?」

どちらのって・・・・!
どうすればイイの!?

あたふたと冷や汗をかきながら2人の女の人に見詰められて、
テンパって来た俺。
もう、こっからどう答えていいのか分からなくて口篭ると、
さすがに不審に思われたのか、女の人の目が不審そうに眇められた。

うっわ!
どうすれば!!
逃げる!?

何て、考えた瞬間

「環、様?」
「!」

フイに背中に名を呼ばれて、振り返る。
そこには、見知った顔が。

「斉藤さん!!」
「あぁやっぱり、環様。」

ふわりと微笑まれた顔に、泣きそうになるくらい安堵して、思わず駆け寄った。
そんな俺の行動に目を丸くした女の人2人に、斉藤さんは。

「社長のお客様です、何度もお見えになる方になるので顔を覚えといて下さい。」
「「あ、はい・・・・!」」

慌てて頭を下げながら謝罪の言葉を俺に向けるので俺の慌てて手を振る。

「申し訳ありませんでした!」
「いやっあの!俺もちゃんと、い言えないのが悪いんで!」

頭を下げると、隣に立つ斉藤さんがクスクスと笑いを零して俺方に手を載せる。
困ったように見上げれば、
またふわりと笑みを向けられて、

「社長がお持ちですので行きましょうか?」
「あ、はい」

そのまま肩を押されて先に進むことを即される。
少し歩いて、
いくつかあるエレベーターと違う雰囲気の箱に乗せられた。
斉藤さんは、そのボタンのないパネルに胸ポケットに入れていたカードを差込口に入れると、
それは音も立てず、重力も感じさせず動き出す。
そこで、やっと俺は緊張で張っていた肩を下げて大きく息をついた。

「はぁ〜〜〜〜」
「そんなに、緊張なさらなくても宜しいんですよ?」
「そんな事・・・・無理ですよ!」
「そうですか?」

そうだよ!
いっかいの高校生はこんな所には用もないし来る機会すらないんだ。
それを緊張せずに来いと言うのが無理な話しである。

「もー一人で来るの・・・・止めます・・・・・」
「そんな事仰らずに、社長は楽しみにしてらっしゃるんですから」
「そんなこと言われても、無理なものは無理です」

疲れたように言葉を零すと、
エレベーターは登る時と同じように何の変化もなく止まって扉が開いた。

「ココから先は、スミマセンがお一人で行けますか?」
「うぅ・・・・・行きます・・・・・」
「大丈夫ですよ、部屋は突き当たりのドア一つだけですから」

俺の弱気な声に、またも笑いながら斉藤さんは俺の肩を押す。

「あ、わざわざスミマセンでした」

数メートル離れた所で案内してくれたことに頭を下げると、
ちょっと驚いたように目を見開いたかと思うと、満面の笑みが浮かんだ。

「いえ、それでは」
「はい、また」

軽く頭を下げて、俺が進む反対方向へと歩いて行ってしまった。
それを見送ってから俺も進む方向へ足を進める。
約10メートル歩いたくらいで、重厚な扉が目の前にあって
ここでもまた怖気付いたが、
この先にはあの人がいると思ったら心は早いで、
ノックする手が震えた。

コンコン

軽く扉を叩くと、
中で「とうぞ」と言う声が聞こえて、
恐る恐る扉を開ける。
いや、勝手に扉は開いた・・・・・俺の身体を勢いよく引っ張りながら。

「わっ!」

体勢を崩して転びそうになる前に何かに抱きとめられる。

「ようこそ、環さん!」

低く印象的な声が頭上より振ってくる。
目の前には仕立ての良いダークグレーのスーツと白いシャツ。
それとチャコールグレーのネクタイ。
そのまた上には、男だって見惚れてしまうような端正な顔が俺を見下ろしていた。
蕩けるような笑みを乗せて、

「あまりに遅いから心配しましたよ、何かありましたか?」
「えっと、何にも・・・・・ないよ、ちょっと入るのに勇気がいっただけ」

相当な勇気が必要だったよ。
もうヤダよ、
目の前の男に抱きすくめられながら疲れたように息を大きくはく。
で、先ほど思ったことを今度は目の前の男に向けた。

「もう、ココには来ないからな?」
「どうしてですか?」
「緊張するからだよ・・・・もぅヤダ、疲れた・・・・」

ココに来るだけでホントに疲れてしまって、
離れようと言う気にもならなくて抱きしめられたまま力を抜くと
腕の力が少し強まって、
困ったような声が、

「そんな寂しいことは言わないでください、貴方に会いに来て欲しいのに・・・・」
「ヤダよ」

あっさりと断わる俺に、
焦ったように言葉が上から落ちてくる。

「それなら、迎えに来させますから、ね?」
「何で、良いよ別に、皆忙しいでしょ?」
「そんな事はありませんよ!」
「そんな事あるんだよ」

だってそうだろ?
日本屈指の在眞グループだよ?
世界にもその名を馳せる在眞グループの誰をどうしたら忙しくないなんてあるのさ?
そんな事あるわけないじゃんか!

「だったら私が迎えに行きますから、ね?」
「・・・・・・欧丞さんが・・・・・?それこそ、何を言ってるの?だよっ」

何を馬鹿なことを言ってるんだこの人は?
どこの世界に、緊張するから会社の一人で行きたくないと言う理由の高校生を迎えに行く社長がいるんだ!?
自分の立場わかってるのか!?
思わず、真上の顔を睨むように見上げた。
そこには、必死になってる男の顔がある。

この、
俺を抱きしめて必死に俺を説得しているのが・・・・
俺の秘密の恋人、
名を、在眞 欧丞(ありま おうすけ)
先ほども言った、日本屈指の大企業『在眞グループ』のTOPたる男だ。
若干29歳にて現在の地位に就き、
たった数年で世界にも通用するほど大きくした男である。

そんな男が、
誰もが羨む地位と名誉と金と権力と美貌を持った男が、
平々凡々とした高校生を迎えに来て良いはずがないだろう!?
あって良いはずがない!

「そうでもしないと、環さんに会えないじゃないですか?」
「欧丞さん・・・・・」
「地位とかそんなものは関係ないんです、私がしたいからするのですから」

ぎゅうっと強く抱き寄せられて、
そんなこと言われたら、
ま、いっかーなんて思っちゃうじゃん・・・・・
俺だって、
俺だってもっと長い一緒にいたいと思うし、
会いたいって思う、
傍にいてって思う、
でも・・・・
そんな簡単に言える立場じゃないし、
簡単に叶えてくれるほど、
欧丞さんだって軽い立場の人間じゃない。
俺はただの高校生で、
欧丞さんは大企業の社長なんだ。

「ダメだよ」
「環さん・・・・」

俺のはっきりとした言葉に寂しそうに名を呼んで、
腕の力を強める、
少しの沈黙の後、
何を思ったのか俺を軽々と抱き上げて部屋の中央にあるソファーまで運ばれた。

「欧丞さん・・・・??」

ソファーに下ろされたかと思うと今度はそこの押し倒される。
びっくりして、欧丞さんの顔を見上げれば、
寂しそうな表情と一緒に意地悪な笑みが浮かんでて・・・・・
ヤバイ!
何て今更思っても遅くて、

「お、欧丞さんっっ!」
「環さんの言いたい事も思ってることも分かります」
「・・・・え?」
「でも・・・・・私にだって言い分も思ってることもあるんですよ?」

そう呟いて、
軽く唇がが合わさった。
触れるだけのバード・キスが、唇の他に顔中に施される。
何度も何度もキスが落ちてきて、
唇に触れた時に唐突に、
あ〜・・・・・・・久し振りにキスしてるな〜
って思った。
ここずっと忙しかった欧丞さん。
学校行事が立て続けにあった俺。
そんな事を思い出したら、
触れるだけの軽いキスだけじゃ物足りなくなって、離れた唇を追いかけて俺から深く合わせた。

「んっ・・・・・」

誘うように合わせたまま唇を舌で舐めて、
自分の中へと誘い込もうとすると、
欧丞さんの身体が少し震えた。

「環さん・・・・・あまり挑発しないで下さい・・・・抑えが利かなくなります・・・・」
「んぁ・・・・・」

名残惜しげに声を出して、
欧丞さんを見上げれば、言葉と声のように何か我慢するような顔で俺を見詰めていて、
我慢なんてしなくて良いのに・・・・
そう思ったら自然に俺の腕は欧丞さんの首に巻きついて抱き寄せた。

「しなくて、良い・・・・・もっと、して・・・・?」
「環っ・・・・・」

珍しく名を呼び捨てにされると、
思い出す行為、
それだけで身体はゾクゾクと震えて、
忘れてしまいそうなくらいに触れていなかった感触が身体が欲していた。
撫でる手の動きや、
俺に触れて熱くさせる指とか、
快楽を与えてくれる全てのモノが足りなくて、
我を忘れたように、
目の前の身体に縋りつく。

だから、
抑えが利かないと言った意味を理解したのは・・・・・
何度も何度も上り詰めて、
気を失って、
冷めてからだったりする、
馬鹿な俺・・・・・















「最悪だ」
「スイマセン・・・・・」
「あー・・・・・・欧丞さんに言ってるんじゃなくて、自分に言ってるの」
「でも、私にも責任はありますから」

そうだけどさー
そうなんだけど、思い出すだけでも恥かしいような行動を取ったのは俺で、
しかも、ここは会社なんだよ!
それを俺は・・・・・・!!

「うーわー・・・・もう・・・・恥かしい・・・・!」
「スイマセン」

顔を真っ赤にして頭を抱えれば、
ソファーの下で片膝ついて俺の顔を下から覗き込んできた。
こらこらー天下の社長様がそんなことしていいの!?
って思うんだけど、何でか欧丞さんは気にした素振りもなく俺の身なりを整えてくれる。
今は靴を履かせられている。
何だか・・・・スッゲー恥かしい・・・・・!!

「いいよっ・・・・・自分で出来るから!」
「いいえ、私がします」
「そっ・・・・やっって言うか、良いってば!」
「ダメです」

今度は欧丞さんがきっぱりと俺の言葉を跳ね除ける。
止めようとしている手も何のその、
今度はシャツのボタンまで留めだした。

「欧丞さん・・・・・・」
「私がしたいのですから、良いんです。」
「でも・・・・」

俺が言い澱むと、

「ねぇ・・・・環さん」
「?」
「私もさすがに・・・・・あれもダメ、これもダメって言われたら・・・・・」

い、言われたら?
そこで、言葉を切って・・・・・ゆっくりと上目に見詰められた。
視線が合わさった瞬間、
イヤって程したのにも係わらず、
俺の背筋をゾクゾクとしたものが這い上がる。

「っ」
「もっと、酷い事してしまいますよ・・・・・?」

ひ、ひどい事って何?
なんて言葉さすがに声に出しては聞けなかった・・・・
だから諦めてなされるがままになる弱い俺。
喜々としてネクタイを結ぶ欧丞さんを見ていたら、
一気に身体の力が抜けた。


何だかな〜


ま、
俺も欧丞さんも、
幸せだし?





いっかー