■ 致命的な恋の落ち方
















目の前に、
サイダーの気泡が弾けるようにして
芽生える

ソレは小さな気泡の爆発
後から後からうまれ出ては爆発し
想いを溢れさせる
小さくても数え切れない気泡
押さえきれない

まさか、
こんな形で芽生えるなんて誰が思う?
そんな爆発
初めての感覚







気紛れに、
何となく朝から登校した
久し振りに朝の日差しの中を歩く
天気が良いから
何となく気分が良い
欠伸をこぼして
昇降口をくぐって
靴を履き替えて
おぼろげな記憶で
この時間の移動教室の場へ向かう
静かな廊下
俺の履き潰したうわばきの音と
教室から漏れる音
静かな廊下に小さく響く
何となく気分が良い

何となく
珍しく気分が良いから
何となくイイコトがあるような気がする

もう一度欠伸をこぼしてから
ドアを開ける
勢いつきすぎて
ドアが少しだけ戻ってくるのを避けながら
教室の中へと入る
ちょっとだけ驚いた教師の目が俺を捕らえて、
その音に驚いた以上に目を見開いてから

「君塚・・・・珍しいな?」
「こんな日もあんじゃねーの?」
「まーいい、適当に座れ」
「どーも」

教師の中では割と気に入ってるそいつの言葉を聞いて
席の合間をぬって歩く
俺の登場に全員が驚いたように見ていた
そんなに驚くことか?
そんな疑問で奥へ進むと、
割とつるむ率が高い清水と中山が
ニヤニヤしながら俺を見ていた

「よー珍しいじゃんお前がこんな時間に出勤だなんてよ」

隣で清水が馬鹿みたいに頷いている
出勤とはご大層な言い方だなと、思いながら笑って返す

「こんな日もあるさ」

ただの気紛れ
何となくの考えだから
そう言いながら
一番後ろの席に着いた
その目の前には
珍しい人物が座っていた
話した事など覚えてる限りじゃ
片手しかない
名前と顔だけは覚えてる
確かクラス委員長の
【水守 玄】
だった、気がする
典型的とか型にハマッたようなと表現しやすい
真面目な委員長
黒髪でメガネできちんと着込んだ制服
成績優秀で教師の人望も厚い?
そんな人間
違うとすれば
見た目で判断しなく、
俺たちのような奴でも分け隔てなく相手にする
変わった奴だ
ともすれば厄介者扱いか
嫌われる対象になりやすいが
その性格でこのクラスでは嫌われるどころか
好かれているであろう、
俺のとっては珍しい人間

普段なら一番前の席で黒板を写しているだろうに
今日に限っては自分の目の前でボーっと時計を見ていた
何となく気にかかって
その後ろ頭を、
同じような格好で見つめる
染めたことのないであろう傷みのない艶やかな黒髪
それが眠気を我慢しているのだろうか、
ゆらりゆらりと揺れている
時折見え隠れする項が
その黒と反映してやけに白く感じる
そう思った瞬間に
ふわりと何となく甘く香った気がした
日常的に感じている
甘い菓子の匂いのような
クリームやらバターのようなそんな何かを誘う香り
こんな見た目しても、
実は、家が洋菓子屋を経営している両親の所為かお陰か、
甘いものが好きな俺、

無意識にそこに誘われて
チラリと見えた項をクリームを舐めるように
舌を這わせた

とたんビクッと揺れる頭、
一瞬遅れる叫び

「ひぃあっ!??!?!??」

手を滑らせて
前の中山に突っ込んで
首を押さえながら振り返る
気の毒なほどの反応と顔の赤さに
面白さと楽しさを含んで笑みを浮かべれば
目の前の人物の整えられたかのようにきれいな眉が
跳ね上がる

「な、な、なっ!!」

気の毒なほどの紅いか顔が
色合いを増して

「わりー・・・・何かスッゲー美味そうに見えたもんで、つい?」
「うまそ・・・・・ついって・・・・!!」

別に悪いとは思ってもいないが、
実際に美味そうだったし
って言うか、
甘かったし?
礼儀のつもりで謝れば、

「ついでお前っ・・・・!!」

お気に召さなかったようで、
眉を余計に釣り上がった

その瞬間

「ふざけるな!!」

俺を怒鳴りつける
馬鹿だな〜と思った束の間に
目の前を白い何かが落ちた
確かめなくても分かる
黒板に向かってた教師が投げたチョーク

見事ヒットした水守は
前を振り返って
バツが悪そうに小さく謝罪を陳べいている
あたった場所を擦りながら
不本意極まりない!
と言いたげな雰囲気に
笑いが収まらない
肩を震わせて押さえ込めば

バコっ

重い衝撃が
側頭部を弾かせる
身がまえることなく受けた衝撃に痛みを感じた

「ってぇぇ・・・・・」

見れば
ご丁寧に教科書参考書ノートを重ね合わせた凶器だった
痛いはずだ
さすがにズキズキする頭を抑え水守を窺い見れば
勝ち誇ったような
ザマー見ろと言いたげな
そんな子供っぽい顔だった

それがくるりと前を向いて
またもや白い項が目の前に晒される
怒りと恥かしさで少し色づいたそこは
先程よりも甘い匂いを強く放っていて、
授業終了の鐘が鳴ると同時に立ち上がったその細い体を引き寄せる
ぐるりと片手で一回転しそうな
そんな細い腰に顔がニヤケて
露になったそこに噛み付いてやった

考えていた以上に
甘く感じる肌
甘いモノ以上に
病み付きになる
そんな甘さが触れた舌に伝わった


少しの仕返しの気持ちと
ソレを上回る独占したい気持ち
食いつきたい衝動と
空腹を満たしたい欲求をを込めて
手加減ナシに
噛み付いてやった
離せば
くっきりと残る俺の歯型
赤を通り越して紫になりつつあるそこから少しばかり紅いものが滲んでいて




これは俺のモノだと

強く感じた




「気に入った」




俺のモノにしてやる
そう強く思いながら

伝い落ちる血を舐め上げた