■ 常用外の口説き方













いつの間にか、
隣にいて

いつの間にか、
その事に違和感を感じなくなって

いつの間にか、
当たり前のように傍にいる

いつの間にか、
傷つけられるのを感受して

いつの間にか、
痛みにも慣れて

いつの間にか、
それを待つ自分がいて

消えることの無い、
青から赤紫に変色を止めない俺の首筋



舌なめずりして待つ獣に

今日も無防備に首筋を曝す







べろ


「っ・・・・・君塚ぁぁっ!」
「ん?」
「ん?じゃなーーーーい!」

放課後
誰もいなくなった教室で今日の日誌をつける日直当番の俺
夏なのに日照時間の少ない今季
暑いのか寒いのか、
カッターシャツの上に欠かせないベージュのニット
近頃は周りが着崩せと煩くって、
言われるがままにシャツのボタンを二個外し
ニットの下からシャツがはみ出している
最初は違和感があったけれど、
今はもう慣れた

その気崩した襟足の後ろを引っ張って吐息を感じたかと思うと、
生暖かい感触が項を舐め上げる

「いきなりするなって何度言えば分かんだよ!?」
「・・・・・・さぁ?」
「さぁ?じゃなくって理解しろ、するなという暗黙の訴えを分かれ!」
「ふ〜〜ん」

ふ〜〜んと、
悪びれも無く理解した風でもなくもう一度、
同じところに舌を這わす
今度は驚くことも無くそれを受ける

もう慣れた
毎日、
毎日毎日毎日
同じ部分を今のように舐めるのだから
やると分かれば驚くことも無い

「・・・・じゃ〜さ、」
「あ?」
「する前に『お前の項舐めるよ?』って宣言すればいいわけ?」
「・・・・・・・」
「お前の前から言ってる言い分だとそうなるよな?」
「・・・・・へ理屈言うな」
「寧ろすじの通った理屈だと思うけど?」

むしろ君塚の分際で俺を言い負かすな
そして墓穴を掘るな俺
肝心なところでどーしてもこうなるっ

「だってさ〜」
「語尾を延ばすな」
「え〜」
「気持ち悪い」
「・・・・・いつにも増して失礼だな水守」
「お褒めに与かり光栄だね」

そこらへんの女子高生のように語尾を伸ばす
見た目を考えてから言え
自分の立場を考えてからそれが自分にとって正しい表現方法か考えろ
一言で言うなら
気味が悪い

「ま、こんな風に俺と話すのなんて水守だけだから良いよ」
「よくない」
「いーいー気にスンナ」

するって
普通するって
むしろ特別扱い?な〜〜んてトキメイてる自分が最悪
すっごい乙女街道な自分に三行半を叩き付けたい
無理だけど

「で、何が『だってさ〜』なんだよ」
「ん〜」
「・・・・・暑いって・・・・離れろ」
「無理」

自分の机の自分の椅子に座って日誌を書いている俺の後ろ
誰かの椅子を引っ張ってきて、
それに座って俺の腰に片手を回しながら項よりちょっと上の髪に顔を埋める君塚
やはり肌寒くても夏は夏
必要以上にくっつかれてはさすがに暑い

「だってコレ」
「これ?」

ふっと顔が離れていく気配
腰にまわした腕とは反対の指が首筋を下から上へと這い上がる

「見るからに痛そうで」
「・・・・・・・」
「舐めておけば治るかな〜〜っと、思って?」

指がちょうどその所で止まる
きっとその指の下は青紫のような赤紫のような歯型がついてるのであろう場所
シャツの襟でギリギリに隠れる場所には、
あれからずっと消えることの無い痕

「て、ちょっと待て」
「あぁ?」
「お前『見るからに痛そうで』とか言った?」
「言った」
「つーーかそれは誰の所為?」
「ん〜〜〜・・・・・・・俺?」

何、その間延びした間
考えるまでも無いでしょ!?

「誰が一日とおかず噛み付いてんの?」
「・・・・・俺以外にいるのか?」
「お前以外に誰が噛みつくってんだよ!!」

暇を見つけては噛み付きやがって・・・・・
あれか、
お前はあれなのか!?

「カニバリズムの気でもあんのか!?」
「・・・・蟹場リズム?」
「どんなリズムだーーーー!」

面白い変換辞書だな!!
って違う!

「人肉嗜食だ!人の肉を食う趣味があるのかと言ってんの!」
「無い」
「即答だし、説得力ないし」

あんだけ、
ガブガブガブガブ噛まれたらっ
誰だってそう思うから!!

「まーそんなけったいな嗜好は持ってないけど」
「・・・・けったい・・・・」
「まーこれはアレだ」
「あれ?」
「マーキング」

あぁ・・・・・うん、
まー知ってはいましたよ、
お前が獣だってのはっ

「けど・・・・再確認はしたくなかった・・・・・」
「何項垂れてんだよ」
「絶望に似た諦めを体感中なんだよ」
「貴重な体験おめでとう」
「他人事のように言うな」

って言うかマーキング・・・・・
する必要あるのか?
ないと思うのだけれど!
誰に対して見せしめてんのかも理解不能!

「はぁ・・・・・・」
「幸せ一個、俺が吸い取った」
「勝手に吸いとんな」
「ため息吐くお前が悪い」

吐かせてんのもお前ですけどね!!
何だか君塚中心に俺の世界が回ってるように感じる・・・・

「うわっ・・・・最悪だ!」
「何が」
「何でもないよ!」

髪をぐしゃぐしゃかき回しながら頭を抱えて机に突っ伏すと、
その背中に君塚の顎が乗る

「痕になって消えなさそうだ・・・・・イヤ過ぎる」
「いいじゃん」
「良くない!」

夏だって言うのにTシャツが着れないんだぞ!
家だってのに気を抜けないんだぞ!!
って言うか姉ちゃんに見られて毎日毎日っ
あの温い視線で見詰められる俺の身にもなれってんだ!!

「心配すんなよ」
「何を根拠にそんn」
「俺が責任とってやるから」
「ことw・・・・・・・・は?」

責任?
取る?
誰が?
誰の?

「は?」
「だからこの傷の責任は俺がちゃんと、とってやるって言ってんだよ」
「・・・・・・・・・・」
「だから心配も悩む必要も無く、君塚家へようこそ」
「・・・・・・・・・・馬鹿だろ?」
「嬉しいくせに」
「だから、馬鹿だろ?」
「遠慮はいらねーよ」
「いや、だから・・・・馬鹿、だろ?」

何が・・・・・・何が、
君塚家へようこそ!だってんだっ
嬉しい?
嬉しいくせに??
その通りだよっ馬鹿やろーーーーー!!
馬鹿は俺だっ

「最悪だ・・・・・・」
「まー・・・・そんなにイヤならそうだな・・・・・」
「あ?」

背中に乗った顎が喋るごとに上下に動く
聞こえはしなかったけれど、
ブツブツと何かを言っていた

「ココもそろそろ飽きたし・・・・・」
「何・・・・・言ってんの?」
「ちょうど目の前に噛み心地のよさそうなモノ発見」
「おい、人の話し聞いてる?」

ブツブツ何かを呟く君塚
単語単語に聞こえる言葉に物騒なものが含まれていて、
目の前の傷だらけの机を見詰めながら嫌な予感に駆られる

そして、
頭を上げた瞬間
背中に感じていた重みが軽くなったかと思うと、
それを上まる重みがドスッと乗る

「ぐ、ぇ・・・・・重いっ君塚ぁぁぁぁ重い!!」
「んー」
「っ!?」

訴えて叫べば、
耳に息を感じて思わずビクリと身体を震わせる
先ほどよりもふわっと君塚の吐息を感じた
むしろ耳元で笑ったようだ

「・・・・・・・なぁ」
「な、何・・・・!?」
「ピアス、」
「は?」
「ピアスホール開ける気、ないか?」

ぴ、ピアスホール?
って何だ?

「ここに・・・・」
「っひ」

耳朶に感じる生暖かい感触
次にはちゅくっと吸われる音と小さな痛み
きっと痕がついた

「穴を開けるんだよ」
「・・・・・・・・・」

耳に口を付けたまま君塚が喋る
言葉と一緒に息を吹き込まれて
こそばゆい感じとえも知れない感覚がぞわぞわと重なる背中を這い登る

「こんな風に、」

気を抜いた瞬間、

「・・・・・・・っい゛・・・・・・づぅ゛ぅぅ」

強烈な痛みが耳朶を襲った

「い゛・・・・ったぁぁ・・・・!」

余りの痛みに目に涙が浮かぶ
それと一緒に首筋を伝う何かの感触

「んー・・・・・犬歯じゃ開かないか・・・・・」
「あったりまえだ・・・・馬鹿ぁ・・・・!」

そう自分の犬歯を使って噛み付いたのだ
そんな事で開くわけがない
何考えてんだよ・・・・・!!

「泣くなよ」
「いったいんだよ・・・・・馬鹿!」
「あ、シャツに血が・・・・・」
「うそ!?」

血って落ちないんだぞ!!
どうやって帰れってんだよ・・・・・!!

「ばかっ弁償しろっ」
「気が向いたら」
「直ぐ向けろっ」
「じゃー俺の予備を着てろ」
「サイズが合わない!」
「それが狙いだ」
「何を狙ってる!?」

サイズが大きいと何狙えるって言うんだよっ
意味が分からない!
痛いし!
考えたくもない!!

「うぅ・・・・痛い・・・・・」
「泣くなって・・・・・舐めときゃ治る」
「つーか・・・・だったら噛むな・・・・!」
「無理だって、」

誰に対してなのか、
君塚は俺に乗ったまま呆れたように

「だって、お前って噛み付きたくなるから」

ってどー言う意味?
むしろ何でそんな言わ方しなきゃなんないわけ?
ホント・・・・・
もーホントに、

「意味わかんないし・・・・・」

痛いし、
最悪だし・・・・・

「血が止まるまで舐めててやるよ」
「・・・・そーですかよ、」

何が楽しいのか、
何が嬉しいのか、
俺にしか多分分からないであろう弾んだ声




もー・・・・・
ホント、
もーホントどーでもいいや・・・・・





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久しぶりの噛み付き話し
今回は耳に噛み付いてみました
耳朶に噛み付く、
血がね・・・・・たらーって・・・・・したら
個人的にえっちぃなー!って
ふと・・・・・今日、
何だかふと思いついてですね

少しばかり乙女街道まっしぐらの玄ちゃん
多大なる独占欲を丸出しの眸ちゃん


あぁ・・・・・ちょっくらバイオレンスに・・・・・
うはうはしてる自分がいただけません(笑)