■ 竜神様と金魚姫











北の大海を治める竜神の元に小さな小さな金魚が嫁いできました
それはそれは愛らしい金魚、
赤と白の綺麗な尾ひれを揺らめかせるその姿は、
見る者を見惚れさせた
その夫となった竜神様も愛らしい金魚をたいそう可愛がっておられた・・・・・






周囲を呆れさせるほどに、









大きな池が広がる部屋の入り口で一人の男が誰かの名を呼ぶ、

「麟、り〜〜ん?」

低く澄んだ声、
その声に見合う美しい容姿、
腰よりも下に流れる青みを帯びた黒髪と瞳は空よりも海よりも澄んだ綺麗な蒼
高くすらりとした体躯を包むのは黒と青を基調とした長衣
その人物こそが、
この北の大海を治める竜神、藍路 - あいろ -

「麟、どこにいる?」

水草や色とりどりの睡蓮の浮かぶ池を覗き込むがその小さな姿は何処にも無い
ふぅ・・・・と、小さくため息を零しながら水面へと足を入れる、
踝までしかない水面に波紋を描いて中央へと進む
黒い裾が水に濡れのも気に留めることなくその場に立ち止まった

「・・・・・・麟、」

屈んで睡蓮の葉の間に白い指先を滑らせて水底を見るが、
その小さな姿は何処にもやはり見当たらない、
いい加減その姿が見当たらなくて眉間にしわを寄せた頃、
近くで水が跳ねる音が響く
立ち上がって振り返ると数歩先でぱしゃりと何かが姿を現した
白い髪に薄いピンクの睡蓮を絡めた小さな子供、
髪から雫を滑らせて目の前の男を見上げる瞳は赤に金を散らす、
その瞳がふわりとはにかんだ笑みをかたどり

「藍路さま」

歌うような愛らしい声がこぼれた
白く長い髪に幾筋か赤い髪の束を混じらせたモノを水の中でたゆたわせ、
赤、白、金を基調とした長衣も水の中に沈めて笑みを浮かべているのが、
人魚属性の王の弟であり竜神の唯一の寵愛を受ける、麟 - りん -

「麟、何度も呼んだのだよ?」
「ごめんなさい、水の中が気持ちよくて聞こえていませんでした」
「お前らしいな・・・・・・おいで琉が待っているよ」
「兄様が!?」

ぱぁっと笑みが晴れやかになって、
立ち上がると水の音を響かせることなく藍路に駆け寄ってその身体に抱きつく
水の中に沈んでいたはずの衣服はまったく濡れてはおらず、
髪さえもさらりと乾いた音を立てて流れる
その身体を抱き上げて歩き出した

「待ちくたびれてそこまで来ているかもしれないな、」
「兄様はせっかちですから」
「悪かったな、せっかちで」

くすくすと笑いあう二人の声に、
不機嫌を隠すことの無い男の声が続いた、
入り口に寄りかかるように立っているのは麟の兄で人魚属性の王、琉 - りゅう -
赤い髪に幾筋かの白い髪の束を胸の前で結び、
黒と赤を基調とした長衣に映えさせていた

「兄様っ」

藍路の腕の中から飛び降りて水の中に姿を消すと、
水際まで来ていた琉の目の前に姿を現す

「久しぶりだな、麟」
「はい!」

水の中から腕を伸ばす麟の身体を抱き上げて目線を合わせると、
不機嫌だった筈の顔に優しげな笑みが浮かぶ

「兄様、今日はどうしてこちらに?」
「あぁ・・・・・祝いの挨拶だ」
「お祝い?」

ことりと首を傾げる
その姿に見慣れている筈の琉は凝りもせず胸を打たれ、
デレデレと鼻の下を伸ばす

「誰かのお妃のご子息が成人を迎えたようでね、そのご挨拶だよ」
「ふ〜〜ん、もう終わったのですか?」
「おぅ、『この国も安泰でイイですねーおめでとーそれじゃー』って言って帰ってきたんだ」
「そんなんで良いの?」
「良いんだよ、だって『そうですねーありがとーまた今度ー』って言われて見送られたもの」

にこにこ笑って麟の背後に立つ男に笑いかけると、
にやりと人の悪い笑みを浮かべて頷いた

「贈り物も置いたし、俺の仕事はココまで!そうなったら麟に会う以外の目的は無いんだよ、なぁ?」
「そうだな、あんなもの欲しいと言う奴にくれたやれば良いのさ」
「・・・・ふ〜〜ん、」

藍路の言葉に目をぱちくりとさせる麟
と言うのも、
その誰かのお妃と言うのは竜神の正室であり蛇族の姫の第一子
盛大な成人の儀式での自分の仕事を終わらせると、
後のことは神使いの者に任せ藍路は用は済んだとばかりに抜け出してきたのである

「でも・・・・大事な式なのでしたら抜けてきて良かったのですか?」
「良いも何も、私の仕事は終わったからな」

今頃、消えた夫の姿に蛇姫がヒステリックに騒いでいるであろう姿が目に浮かぶ
だが竜神にとって一番の大切なものはこの小さな金魚だけ
何を言われようが騒がれようが知った事ではない
赤を混じらせた白い髪を梳き指に絡める

「苦労するとすれば・・・・・黄生だけだろ、」
「あぁ・・・・・黄生だけだな、」

黄生 - こうき - 藍路の側近にして従兄弟である
にこやかな笑みの裏の怒りを考えるとちょっとどころかかなり悩むが、
あんな場所にいるくらいならその怒りも買っても構わないとも思えるような・・・・そうでもないような、
怖いものには変わりけれど

「苦労させられたのですから、ご覚悟は出来ていますね主よ」
「「・・・・」」
「あ、黄生さま!」
「ご機嫌麗しく存じます、金魚姫」

ビタリと音がしそうな勢いで止まった己の主とその友人には目もくれず、
ちょこんと肩越しに顔を覗かせた麟に頭を下げながら優しく微笑み返す
金魚姫とは、一部だけに知られている麟の愛称である

「それにしても主様、仰られるとおりに儀式はつつがなく執り行われましたがその後の宴は凄いものでしたよ?」
「・・・・・・そうだろうな〜」
「あは、行かなくても目に浮かぶよね?」
「えぇご想像通りに蛇姫様とその一族が主は何処に行かれたと騒がれておりました」

抜け出してきた広間のあの騒ぎ、
思い出すだけでも青筋が立つ思いの黄生
知らされていなくても何処にいるか想像はつくが、
この場に教えることも通せる筈も無く白を切って自分も逃げてきたのである

「那蛇様は金魚姫のことをご存知ですから、いつも通りでしたが」
「さすが我が息子、」
「お前そっくりの王子様な、」
「??」

継承権第一位の藍路の子息、那蛇 - なだ -
祝いの主役のあの飄々とした笑みを思い浮かべ麟以外の男が苦笑を漏らす、
見た目も中身も母に似ず父に似たことが良かったようだ

「跡継ぎを生んだのだ、自由にしても構わないだろうが・・・・・なぁ?」
「同感・・・・・それに俺の大事な金魚姫を嫁にやったんだ、麟を疎かにするなら喜んでつれて帰るぞ」
「まさか!主に限って金魚姫を疎かにするなんてありえませんね、この崩れに崩れた顔をご覧になればお分かりでしょうに・・・・」

最後あたりの言葉に心からの呆れと嫌味を込めて言うが、
藍路にはその意味が届いておらずにデレデレと蕩けた笑みで何度も頷く
さも当たり前だと言うように、
その顔を見て黄生は、終わった・・・・と嘆いたのは言うまでも無い

「ホント・・・・・この顔、どうにかならないものですかねぇ」
「無理だな」
「きっぱりと言わないでください。腐っても鯛って言葉のように、こんなアホ面でも竜神は竜神なんですから・・・・」
「アホ面って・・・・・お前なぁ」
「文句あります?」
「・・・・・・・・」

ひどい言われように眉間にしわがよるが、
言い返せる隙が無いので心の中で文句を言うだけで留めた
竜神なのにちょっと立場が弱いようなのが微妙

「鯛?」

今まで3人のやり取りを見上げていた麟がその言葉になんで鯛?と問いかける
すると、遠慮も何もない黄生の容赦ない言葉が炸裂

「はい、腐りきった鯛ですよ」
「「・・・・・・・」」
「臭う?」
「臭ったらホントの終わりですね、」
「良かったね藍路さま、臭くないから大丈夫だねよ」
「えっ・・・・・臭い・・・・って、」

何気なしに服に鼻を近づける麟の動作を目で追い、
悪気なんてこれっぽっちも無い無邪気なその言葉にショックを受ける

「でも、腐っても臭っても僕は藍路さまが大好きですからね!!」

何て極上の笑みを向けられるも、
その言葉にあはははと乾いた笑いしか返せない竜神様でしたとさ、











「まぁ・・・・どっちかって言ったら俺らの方が臭うかもな、魚だし?」
「それもそうですねー」


砂が崩れるが如く白くなる竜神を見ながら、
琉と黄生は苦笑した







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備考:
藍路(あいろ) ------ 北の大海、北の竜神(蒼竜) 北に生きる総てのモノの頂点に立つ、
              正室と側室を6人(麟を含め)持ち、子供は10人

麟(りん)    ------ 人魚属性の王(琉)の一番下の弟、金魚の王子
              藍路の寵愛を一身に受ける可愛らしい子供、一部で金魚姫と呼ばれている

琉(りゅう)   ------ 人魚属性の王、金魚族の長でもある
              藍路の幼馴染で麟の兄、

黄生(こうき) ------ 藍路の右腕にして、竜神(蒼竜)族の一人

那蛇(なだ)  ------ 藍路の継承権第一位の息子、見た目も中身も父似
              麟を弟のように可愛がっている





急に思いついた突発的なふぁ、ふぁ、ふぁ・・・・・んたじー?←聞くな
むしろ擬人化(汗)??
分類的に何になるかは謎です・・・・まぁファンタジーの一種ではあるかも?←だから聞くな
でも突発的とか言いながらただいまの時刻、空が白み始めた朝方4時過ぎ・・・・・!!
書き始めたのが11時前・・・・・え、どんだけ時間かかってんの!?的な、ね?
あれです、三人称は難しい・・・・・てか寧ろ自分には向いてないです。
でも今回は人物描写があったから三人称じゃないとね・・・・・と思って?
てかまた書くんですか!?
・・・・・・まぁ・・・・・気が向いたら?
溺愛の甘々が書きたかったんだけど・・・・無理でした、
なのでどうにか書けたら次にリベンジ!
そして、またもや何だかまとまり無くって本調子じゃないっす・・・・・(涙)



こんな文でも読んでくださった貴方様に感謝申し上げます!!
ありがとうございました(礼)