あれから2週間







久保田は1週間の停学処分を受けた。
どこかの誰かがあの乱闘騒ぎを見て報告してしまったのだ。
問題にならなかったのは、
ことの発端をある程度を省いて報告したのと・・・・
後から聞いたのだが、蓮水先輩が裏から手を回したらしい。
なんの繋がりがあるのかは知らないけれど。
事を起こした3年生たちは、いまだ入院している。



そして、

今は穏やかに日常を過ごしている







「久保田と知り合いだったんですね?」
「まーな・・・・中学の時に、一瞬で俺が負けた相手。」

中庭の大きな木の下のベンチに座りながら、志賀先輩と話している。

「後にも先にも俺が完敗したのは久保田だけだったな〜」
「そうなんですか?」
「強くて負け知らずだったから好い気になってた俺が、あの一瞬でプライド粉々。」
「・・・・・・・」
「信じられなかったぞ、気付いたら医務室って、マジ有り得ねーって。」

ははっと苦笑を零して、背もたれに寄りかかる。

「その事が、スッゲー信じられなくてよさ〜何度ケンカ申し込んで返り討ちにあったことか!」
「えぇ?」
「アイツ一切の手加減しねーんだぜ?やられるたんびに、どっか怪我してたな〜一番酷くて腕の骨折。」
「・・・・うそ・・・・?」
「嘘じゃないんだな〜・・・でさ一時期、色々あって・・・・空手辞めちまったみたいだし。」

寂しそうに笑って、

「でも、あんな事あっちゃー仕方ないと言ったら仕方ねーけど。」
「あんな事?」
「ん〜・・・・・俺はアイツじゃない詳しくは言えないけどな、取り敢えずは凄かったって事だけ、それとソレに岡崎と斉藤が係わってたって事だけ。」

話しを濁してまた笑う。
色々とあった事、言えない事実。

2人の間に沈黙が訪れて、
秋に近づく風が流れた。

静かに志賀先輩が話し出す。

「黒田。」
「はい。」
「もう・・・・いいから・・・・」
「何をですか?」
「お前を解放してやる。」
「・・・・・え?」

開放?
何を?

何から?

「俺の言いなりにならなくて良いから。」
「・・・・・・・」
「今まで・・・・・ゴメンな?」

なぜ、
謝るのですか?

「色々と・・・・酷いことして、ゴメン。」

空を見上げていた目が、
横顔を見ていた俺の視線と合わさる。

寂しそうな、
辛そうな、

そんな色の瞳。

「もう、こんな事しないから・・・・・だから」
「・・・・・・」
「終わりにしよう」



貴方の口から零れ出た言葉、



「だから・・・・俺を赦してくれ・・・・・」




赦して、
貴方を赦して、
この関係を、
終わりにしてしまうのですか・・・・・

終わりにしようと言うのですか?


終わり


それは望んでいたこと、

開放されたかった。


でも、
でも・・・・・


でも今は?

「できません。」
「え?」

きっぱりとした俺の声、

その言葉を聞いて、
苦痛に歪む先輩の顔

「貴方と別れるなんて・・・・僕には出来ません。」
「・・・・・・・」

貴方は言った、
あの時、

「貴方が言ったんじゃないですか・・・・・・貴方無しでは生きられなくしてやるって。」
「・・・・黒田・・・・・」
「貴方が、俺の身体も・・・・心もそうしたんじゃないですか・・・・」

それなのに、

「それなのに・・・・別れる?終わり?赦してくれ?」

そんなこと、
そんな事は、

「できません。」

貴方無しでは
俺はもう・・・・・・

「志賀先輩が・・・・・好きなんです・・・・だから・・・・だからっ・・・・」

感情が高ぶって、
涙が零れて、
声が上ずって、

「だから・・・・お願いです・・・・終わりにしようなんて、言わないで・・・・・」

そんな事を言わないで、
貴方の口から
そんな言葉は聞きたくなんてない、

こんなに好きなのに

「おねが、いです・・・」
「黒田・・・・」

そっと、震える肩に手が添えられて・・・・・
ゆっくりと、
抱き寄せられる。

「酷い事をしたんだぞ・・・・?」
「っ・・・・それでも!」
「お前の声も意思も無視して・・・・・力づくでお前の意思をねじ伏せたんだぞ?」
「良い・・・・・それでもっ」

肩に顔を埋めて、
服にしがみ付いて、
離れたくないから、
離されたくないから、

泣いてみっともなく縋っても、
離れたくないから、

「ゴメン・・・・・」
「っ・・・・」
「違う、そう言う意味じゃなくて。」
「俺もお前が好きだから・・・・・お前が俺を好きになる前から、俺はお前が好きだから。」
「・・・・・っふ・・・・ぅ・・・・」

優しく髪を撫でられて、
嗚咽を零して震える背中を撫でられて、

「ゴメンな・・・・・」
「いっい・・・・・もっ・・・・・いいっ・・・か・・・らぁ」
「うん、ゴメン」

好きだよ、
何度も何度も
泣く俺の耳元で囁く、
凄く優しくて、
ちょっとだけ、
先輩の声も震えてて・・・・・

凄く、
凄く嬉しかった・・・・・




声が
言葉が

撫でる手が
包み込む腕が




すべて、

俺のモノとなって・・・・・




生きるも死ぬも


すべて、


貴方がくれるもので


決まってしまう



そして、


致死量は


とても、


曖昧なのです