■充電させて












一学期と言うのは細々とした行事が多い。
入学式、新入生歓迎会、
部活勧誘会、
委員会顔合わせ、
予算会議etc・・・・
生徒会を終わって帰れるのなんて決まって7時近い。
2・3日前になったら修羅場だ。
8時、9時などざらである。
現在は5月半ば。
入学式も終わって新入生歓迎会も滞りなく盛大に終わり、勧誘会は問題なかった。
頭を痛めてると言えば・・・・・

「漫研・・・・・お前ら予算使いすぎだ、却下。」
「何を言うっ仁科!ようやっと手塚氏の初版本を手に入れたのだぞ!これを買わずにして何を買う!?」
「本棚買え、本棚を。数日前、部員が本の雪崩の下敷きになって救急車で運ばれたそうだな?」
「なっ・・・・・何故にソレを!?」
「バカめ・・・・校庭内に大騒音で救急車が入って来たのに気付かないわけがあるか!」
「アレはっ・・・・・俺の自家用車だ!!」
「はいっ退室!!次っ!」
「あっコラっ!!話しはまだ終わってないぞ!」

ズルズルと引き摺られて出て行く漫研の部長に満面の笑みで手を振って送り出す。
隣に立っていた副会長である早瀬円(ハヤセ マドカ)から次の部活の予算案を渡されて先ほど以上に眉間に皺が寄る。

「サッカー部か・・・・・・見る間でもない、聞くまでもない!再提出!!」
「一応は見ろよ!俺たち親友だろ!?少しは大目に見たっ――」
「却下!親友でもない。」
「薄情者ーーーーーーーー!!」

たった一言で生徒会室から放り出されたサッカー部部長。
床に転がった所をドアの隙間から見て、少しだけ気が晴れたような・・・・・
でもないか・・・・
手渡された次の予算案。

「・・・・・・葵は?」
「俺にコレを渡すだけ渡してそそくさと逃げてったよ。」
「あの野郎っ・・・・・・!!」

手元に書かれた数字の桁の多さ。
毎回毎回毎回エンドレス・・・・・有り得ないほどの金額を提示してくる演劇部。
どこの大手劇団だ!?と問いただしたいほどの予算金額。

「いっぺん殺してやりたい。」
「今を逃すとチャンスは無くなるぞ!」
「・・・・・・・」
「生贄をこれに!!」

早瀬の無感情な声とともに引き摺られて生徒会室に入ってきたのは、
莫大な予算案を提示してきた演劇部部長・相馬葵だ。
男にしては白磁の額に汗を流して愛想笑い一つ。

「やぁ桃司!今日に限ってご機嫌斜めさんだな〜折角の色男ぶりが台無しだぞ!俺には劣るがな!」
「葵・・・・・・」
「円も相変わらずの美人顔だね、今度デートしようか?俺たち二人で歩いたら注目の的ピンスポットライト独占だ!円5%、俺95%だがな!」
「葵っ・・・・・」
「数分前にも会ったでしょ。それに注目なんて毎日浴びてるから興味ない。」
「何!?この俺よりも注目を浴びるなんて言語道断!!」
「葵!!」

生徒会役員を振り切って円に詰め寄ろうとしたのを声を上げて止めさせる。
今日は余裕がないんだ
・・・・それに・・・・

「お前、今何をやってるか分かってるよな?」
「あぁ一応な。予算会議だろう?」
「そうだ、予算会議だ。・・・だったら・・・・・生徒会会計であるお前が今この場に連れて来られているんだ!?」
「・・・・・・・あぁ!!」
「あぁっ・・・・じゃない!!第一に、会計がバカみたいな金額を提示してくるのが可笑しな話だろう!!」
「・・・・・・・円、何でこんなに桃司は怒ってるのかな?」

心底分かりません。と言うように、首を傾げる変態ナルシスト・・・こと、葵。
殺意が沸いた・・・・
殺意が沸いてきたぞ、このバカ男に・・・・
にっこり笑って指を鳴らし、葵に近づこうとしたところで円が、

「桃司はね、今欲求不満でイライラしてるだけ。」
「オイ!!」
「な〜〜んだ!それならそうと言えば良いじゃないか!!お前だったら相手してやるぞ?・・・・・もちろん俺が攻める側だけど。」
「残念ながら俺も攻め一本だ。お前が突っ込ませてアンアン啼いてくれるって言うなら相手してやるぜ?」
「桃司スッゴイ下品。」

ごすっ

「いっ・・・・・!!いってーーー円!」

膝裏をけられるならまだマシも、弁慶を容赦なく蹴られて不本意ながら目じりに涙が浮かぶ。
澄ました可愛い顔してエグイ事する奴だな相変わらず!
そ知らぬ顔して銀縁の眼鏡の奥で瞳が笑う。

「取り敢えず休憩入ろうか。30分後に集まって。」

そう声をかけると、数人いた役員がこの部屋を出て行く。
残されたのは、俺と円とバカ葵と・・・・・今まで無言で書類製作をしていた書記の蓮水泰斗(ハスミタイト)だ。
その声とともに書面から顔を上げて立ち上がりながら背伸びをする。

「茶・・・・飲むか?」

どこまでものんびりとしてマイペースな声が脱力感を誘う。
ズルズルと机に這いつくばった。

「ご苦労さま桃司。この辛さもあと2日の辛抱!」
「2日たったらやりたい放題!」
「葵は少しは自粛しろ。」
「イヤッ・・・・!!俺から遊びを取ったら何が残るって言うの!?」
「バカさ加減と変態と治療しようのないナルシストぶり。」
「やっぱ葵そのままでいて。存在自体が迷惑になりそうだから。」
「えっそれってイジメ!?何よ、俺今まさしくナウでイジメにあってる!?貴重な体験公開中!!」
「煩い黙れ変態。」

どこか嬉しげ(?)にイヤンイヤンとしなを作る葵に頭が痛くなってくる。

「桃司の親父っプリ変態よりはマシ。」
「右に同じく。」
「左に同じ。」

葵の言葉に右手を上げて頷く円と、トレーにカップを乗せてやって来た蓮水が頷く。
えーえー気心の知れた友人ですから、何を言っても俺はイジケませんよ!
本心も腹の中も知り尽くしてる友人相手には気張っても作っても仕方がない。
笑顔のポーカーフェイスを俺は崩して眉間に皺を寄せ、
円は取り澄ました無表情さを崩して、17歳にしては幼く愛らしいと言える笑みを浮かべ、
葵は何時ものナルシストぶりにバカさ加減を発揮しギャーギャーと喚く。
何時もと変わり映えしないとしたら蓮水でマイペースさを崩さず葵の話に相槌を打っている。ただちょっとだけ言葉数が増えている。

「あ〜〜ぁ・・・・・何で俺、生徒会長になったんだろう・・・・面倒事嫌いなのに。」
「桃司は人の上に立つ為に生まれたようなもんだから仕方ないよ。」
「嫌な宿命だな。」
「円は人を翻弄するために生まれてるけどな。」
「・・・・何ソレ。」
「あら〜〜ん円ちゃんは、笑顔であしらうのがお上手ですものね?」
「葵ムカつく。」
「え?俺ってカッコいい?当たり前のこと言われても嬉しくともなんともなくってよ?」
「言ってないし、思ってないし、思った事も一度もないです。」
「美しいと思ってらっしゃるから?」

嫌味の応戦を繰り広げる親友・・・と言うよりは悪友。
和むなんて思えるような雰囲気でもないのに、疲れた身体がふっと柔らいだ気がした。
蓮水の淹れてくれた紅茶を一口含んで思いに耽る。
軽く閉じて目の前に浮かぶのは、ここ数日まともに顔合わせていない何よりも大事な弟の顔。

はにかんだような笑み、
黒くますっぐで柔らかい髪、
細い身体、

そんな七海が腕の中にいたのはいつ以来だろうか?
そう思うと会いたくてたまらなくなる。

「なぁ・・・・」
「ん、何?」
「ちょっと出てる間こいつら頼めるか?」
「う〜ん・・・・俺が頑張れる程度にはどうにかするよ。」

小学生次元の喧嘩をしている葵と円の様子を見ながら頷く。
泰斗一人に頼むのは忍びないが、もう身体は七海欠乏症のため危険信号がサイレン並みに鳴っていた。

「すまん、頼む。」
「いいや・・・それより、戻って来たらいつもの桃司に戻ってろよ?」
「あぁ・・・・ありがとう、泰斗。」
「はい、いってらっしゃい。」

小さく笑みを作って手を振る。
ぎゃーぎゃーと騒がしい部屋をそっと出て、この時間に弟・七海がいるであろう図書室に駆け出す。
全速力で走って走って、開いていた図書室に飛び込む。
司書の先生に静かにっと・・・少々嗜められるのを笑って頷いて、奥の自習机の並ぶ一角に小走りで近づく。
ちょっと神経質な七海がいるのは、書架に囲まれて周りから隔離されて人目に見えない所にある自習机。
後姿を見つけて、そっと後ろから抱きついた。
いつもだったらビクッと驚いて震える筈の肩がそのままで、

「やっと来た・・・・」
「待ってた?」
「うん。さっき蓮水先輩から『兄ちゃんが行く』ってメール貰ったし、早瀬先輩からも昼休み『そろそろ行くと思うから』って言われてたから。」

容赦なくても、気使ってくれるのねあいつ等・・・・・痛み入ります。
薄い肩に顔埋めて今までの疲れを吐き出すように大きく息を吐く。
七海の存在を胸に吸い込む。
眠くなるような安堵が広がって一気に肩の力が抜けた。

「疲れてる?」
「と〜〜ってもね〜お兄ちゃんは疲れてなっちゃん不足ですよ〜」
「ご苦労様。」

労いの言葉を七海の口から聞くと、やる気が起きてくる。
くしゃりと髪を撫でられると棘棘した心が丸くなる。
七海の存在を感じると張っていた気が抜けてくる。
その七海の体を一度椅子から立ち上げ、自分が座って今度はその膝に乗せる。
前合わせで座らせて、その胸に顔を埋めた。
ゆっくりと梳かれる髪。
何時もとは逆の立場に苦笑が浮かぶけど・・・・
たまには良いかとも思えるし、七海相手だからこそ出来る行為。

「なっちゃんで充電中。」
「何ソレ?」
「なっちゃんが体内からなくなるとお兄ちゃんは油の切れた機械なのです。」
「それはそれは」
「ただ今、50%充電完了。」
「あははっ」


図書室だと言うのにカラリと笑う七海
俺も笑う





その存在で俺を癒して