08:契約










悪いことは

どうしてだか

何度も

何度も

繰り返して

よりいっそうに

酷くなる

後悔はしたくなにのに

守れなかった

そう

嘆くだけに






ごめんなさい






「七緒〜どこ行くん?」
「タバコ買い〜」
「あ、俺も行くー!」
「えーー健ちゃん行くと余計なもん買わされるからイヤ」
「ケチケチすんなって!」

アルゴの近く、
大通りを目の前にした通りを歩いていると、
後ろから声がかかり振り返る
そこには仲の良い健ちゃん
タバコを買いに行くという俺に小走りで近寄ってきて後に続いた

「楓に頼まれたついでだし、金は楓持ちだから良いんだけどね」
「んじゃま〜〜豪遊しようじゃない!」
「コンビにですけどね、」
「コンビにもバカにはならないのよ、七緒ちゃん」
「ま〜ね〜」

街灯の下、
笑いながら通り過ぎる
ふと人の気配に2人して立ち止まり振り返った
そこには十人は超える人、人、人
それぞれが目立つ目印をつけた奴ら
さっとその顔ぶれに目を走らせる

「・・・・健ちゃん」
「やばいねー」

さすがの健ちゃんでも人数が多すぎると思ってるらしい、
その中に見知った上の奴らもいる
【RED】のリーダー大津
その幹部連の岡崎に斉藤、
その後ろには近頃頭角を現し始めた葉月もいた
2人で敵う相手じゃなかった

「七緒」
「・・・・・ん?」
「お前は逃げろ」
「できないよ健ちゃん」
「良いから逃げろ」

ドンっと背中を押されて、
逃げたくなかったけれど言われたとおりにアルゴに背を向け走り出した
背後では怒号と、
殴りあう音、
倒れる音や破壊音
そんな中で、
走り続け・・・・・
でも、
振り返ってはいけないのに・・・・・
俺は振り返ってしまった

「捕まえた」
「っ!」

背後には綺麗な笑みを浮かべた人形のように整った顔の葉月
ひゅっと空を切る音がしたかと思うと、
横っ面を激痛が走る
殴り飛ばされて、
運悪くビルのコンクリートに即頭部を打ちつけ
ブツリと意識を途絶えさせた





「・・・・・・遅い」

ちらりと視線が時計に向けられて、
楓がぽつりと言葉を漏らす
時刻は夜中をあと一時間と控えた頃
その言葉を拾って問うように見詰めれば、

「七緒にタバコ買いに行かせたんだ」
「・・・・七緒?」
「ん・・・・あぁ睦月の弟、会った事ないかまだ?」
「ないな」
「睦月に似てなくて可愛いぞ」
「・・・・・・」

楓の言葉に半信半疑の視線を向け、
入り口を見た
誰かが入ってくる様子はない
視線をまた前に戻すと久保田が大きな欠伸を漏らしていた

「あふ・・・・・・あ〜もうコンな時間かぁ」
「お前なら寝てる時間だな」
「ん〜〜ね、有り得ないね」

また小さく欠伸をかみ殺して、
目尻に浮かんだ涙をこする

「じゃ・・・・そう言うことだから、」
「分かった」

先ほどまで話していた内容を打ち切るように言いながら立ち上がる、
それを全員が目で追って

「俺の邪魔をしなかったらアンタ達には何もしない、だからと言って余計なこともしないで」
「わかってる」
「これは俺の問題」

【RED】についてあらかたの事を覚えた久保田
幹部連の名前やら人相
現在のチームの様子
総人数など、
それに伴ってどうして久保田がそれを知りたいのか小さいながらも
話しの節々に滲まされた

久保田の妹が、
【RED】に襲われたらしいとのコト
それも逆恨みの報復で

「そんじゃま〜お邪魔様」

くるりと反転をして、
俺たちに背を見せる
志賀が後を追うように続いた
その2人に俺と楓も続く

「何?」
「送る」
「別にいいし」

ふいっと肩を竦ませたが拒否はしないで
好きにさせてくれた
無言でアルゴから出る
2人の後を追いながら

「アンタ一人でホントに大丈夫なのか?」

楓がその背中に追いかければ、
歩みは止めずに

「何の問題もないよ、むしろ誰かが手伝うとなると従う後ろの連中を気にしなくちゃいけなくなるのが厄介だし」
「・・・・・・・・」
「俺だけならどんな危険も飛び込める、何があっても危険は俺にしか向けられないから」

それはその通りかもしれない、
変に足を突っ込めば身動き取れなくなるのも一理ある
それがどんなに腕の奴でも
気を許して捕まれば弱点にしかならない

「俺は誰かを見捨てて突き進めるほど強くないから・・・・それに甘ちゃんだし」

自嘲気味に笑みを浮かべ
両腕を上へ伸ばした

「全部・・・・できないと分かっていても、守りたいから・・・・それが自分を破滅させても、さ」

実感の篭った言葉、
少しだけのやるせなさと歯がゆさが篭った声
遠く見詰める瞳は
揺ぎ無い思いが秘められていて
それ以上何も俺たちは声をかけることが出来なかった

そのまま無言で歩き続けていると、
不意に視界の端で何かを捕らえる

「アレ・・・・・」
「ん?」

目の前の二人も気づいたのか、
それへと視線を向けた
チカチカとイルミネーションが足元で光る

「誰か携帯おとした?」
「・・・・・・・」

くんでそれを久保田が拾い上げる
白い携帯の、
青と緑の光が照らし続ける

「それ・・・・」
「楓?」

訝しげに久保田の手からそれを取った
開いて着信の相手を見る

「七緒のだ」
「・・・・・・かけてきてんの誰?」
「健介」
「そう言えば・・・・あいつの姿見てない」

久保田も志賀も黙って俺たちのやり取りを見詰めていた
いつまでもなり続けるそれに、
楓は通話ボタンを押す

「・・・・・・・健介?」
「ぶっぶーーー残念でした」

携帯から漏れる声
掛けてきている人物とはかけ離れた声
いっきに楓の眉間に皺がよる

「誰だ・・・・お前」
「まー名乗るほどでもないんだけどさ、アンタの目の前にいる奴に言ってよ」
「うるせー名乗ってからにしろ」
「アレアレアレ〜〜〜そんな事言っちゃっていいのかな〜!」

電話の相手が、
耳障りな声を出しながら騒ぎ笑う
その向こうでも騒いでる気配がする

「お前らにとやかく言う権利はねーんだよ、黙ってお前の目の前にいる男に言葉を伝えろ」
「・・・・・・・・」

すっと楓の視線が久保田に向かう
何かを気配で感じ取っていたらしく、
楓を見詰め続けながら言葉を待つ

「『色々とお前には迷惑かけられた、落とし前を付けさせてやる』」
「場所は?」
「『BALOR - バラール - 』」

楓が代理でその名前を呟き終わると携帯が切られた
メキっと音を立てて白い携帯が歪む、
しかしそれが誰のものか思い出したのかゆっくりと耳から外し閉じた

「どこそれ」
「【RED】の本拠地、廃ビルの地下にあるクラブ」
「案内しろ」

強い眼差しで楓を睨む久保田
それに答えるように怒りに満ちた瞳が頷いて答える

「誰か呼ぶか?」
「いらない、多くてもアンタら2人で充分だ、志賀センパイ」
「分かってる」

隣に立つ志賀の顔が歪む
喧嘩慣れした男の顔だ
バキリと指を鳴らして頷いた

「行くぞ」

その声とともに4人が走り出す




月は真上に



真夜中



後悔は


もう、




遅い