07:必然









音の波の中なのに

何もない無音のように

そこに一瞬の沈黙が落ちる





その渦中にあり


沈黙を落とした男は


どこか遠くを見つめ




何かを憎む小さくも激しい炎をその瞳と心の中に燃やしていた






「だからね、俺は邪魔する者は許さないよどんな手を使っても破滅させるまでは・・・・」

背もたれにゆっくりと背を預け足を組んだ

「だから・・・・・・ここら辺を牛耳ってるらしいバカ集団の頭に挨拶に来たんだよね」

頭を横に倒してニコリと温度にない笑みを見せる
その動作を見つめ
しかし何も言えずに久保田和泉を見つめた
それが長く続くと思われた時、

「そのバカ集団の頭に用ってのはお前ね?」

落ち着いた声が上から落ち、
一斉に視線を上げると楓が人の悪い笑みを浮かべて立っていた

「初めまして、バカ集団の頭はってる・・・・探し人の管波楓だ」
「・・・・・・ど〜〜も、久保田和泉です」

臆する事無く言葉を返す久保田
その目の前にらるように俺の隣に楓が座る
対峙した2人の間に一瞬火花が散った気がした

「杏慈が世話になったみたいで?」
「話しにならなかったけどね」
「そうか?実力は俺の次なんだけどな」
「へ〜〜・・・・・ま、それだけの事ってことだね・・・・・アンタもそれだけのことだろ」

この地域に立てる男にそれだけ、と言う言葉はありえない
あの集団で襲ってくる【レッド】でさへこの管波楓率いる俺たちには何も仕掛けてはこないのだから
それを久保田はそれだけと言う

「ま、そうなのかもな・・・・・実の所、俺もお前に勝てる気はしない」
「良い心がけだよ」
「でも・・・・・ヤッて損はないんじゃないか?」
「っふ・・・・・・良いけど、このモチ場を離れる事になっても良いならね?」

スクッと楓が立ち上がるのを久保田は目で追う
見下ろす格好で笑みを浮かべたかと思うと・・・・・・楓の靴が今まで久保田の顔があったその場にめり込んでいた
足を出したのが見えなかったのは良いとして、
それを避けた久保田の早さも尋常ではない

「手加減はしてあげる、お前らは俺の制裁相手じゃないからね」
「上等だよ」

そこからは物凄かった、
ガンガンと鳴り響く音よりも
踊り狂う音よりも
怒号なんてそんなものではない
破壊音と破裂音で
ホール一体がまさしく戦場と言ってもおかしくない状況にあった
巻き込まれそうな男や女が
悲鳴を上げて逃げる
運悪い奴らはその場に倒れていった

攻撃を仕掛ける楓が優勢に見えてそうでもなく
全ての攻撃を意図も簡単に避けきる久保田は笑みさへ浮かべてひらりひらりとかわしていく

「手加減なんて良いからテメーもかかってきやがれよ!!」
「無駄な殺生は好まぬゆえ、勘弁願いたい」

ふざけた言葉と態度でトーンと軽く飛んでテーブルを飛び越える
明らかにブツリと切れたであろう楓の血管

「あ゛ぁ!?ふっざけんなぁ!!」

久保田が飛び越えた丸テーブルを片手で投げつけた
それを頭上に蹴り上げそれを受け止める
同じく、しかしその細腕のどこにそんな力があるのかひょいっと投げつけてきた
楓も頭を傾けて避ける
と、次の瞬間には瓶がその顔の横ギリギリを通過して行った
パンッ!
そんな軽い音を立てて瓶が割れる

「っ・・・・・・・!?」
「言ったでしょう、手加減してあげるって・・・・・・アンタの面子もあると思うし」
「・・・・・・・・」
「冗談でも俺に勝てると思うなよ?」

カウンターにいつの間にか腰をかけて
その隣に何本も並んだビール瓶の一本をクルクルと空中で回転させながら久保田が笑った

「今は顔ギリギリに投げたけど、次は当てるよ?」
「・・・・・当てられると思ってんのかよ」
「当たるに決まってるでしょうが・・・・試してみる?」

空中で回していた瓶を口部分に持ち替えて、
まるでダーツの構えのように楓に標準を合わせた
片目を瞑って
前へ後ろへ腕を移動させる

本気
違う
何もかも久保田が言うことは事実なのだ

アレが実力を出したら確実に楓は負ける
たぶん秒殺・・・・だろう、

「それにね、別に喧嘩したくてココにいるんじゃないんだよ?」
「・・・・・・・・」
「喧嘩は間に合ってるんだから、毎日毎日と赤いネズミは湧いてくるんだし」
「お前は・・・・・何がしたい?」
「情報が欲しい」

その一言で次の瞬間には壁で瓶が割れて破片が落ちる
泡を吹かせた液体がドロドロとゆっくりと落ちていった
それを楓の顔越しに見つめる久保田の顔は楽しげで

「ドコを拠点にしてるるか、誰が頭か、名前もね」
「それだけか?」
「充分だよ・・・・・・それだけで充分、後は俺がやるからさ」

カウンターから飛び降りて
黙って成り行きを見守っていた俺たちの志賀の隣に何事もなかったかのように落ち着く
溶けきったウーロンの中身を一気に煽って

「足りない・・・・・志賀センパイ、それ頂戴」
「おぅ」

了承の返事も途中に志賀の分まで飲みきった
辺りは騒然としているのに
この2人は落ち着きすぎるほどんに落ち着いている
むしろ志賀の方は慣れた、とでも言いたげな顔だ

「・・・・・・・・何?ぁ、ココの修理代出せとか言われても出さないよ?壊したの殆どそっちだろ?」

久保田一身に集まる視線に気づいてそんなことを口にする
それに呆れて俺が思わずため息を吐いた

「言わねーよ」
「あっそ」
「どうせココ俺名義の店だし」

税金対策と銘打ったビルの一つ
好き勝手にして良いと言われて自分が気にせず遊べるクラブを作っただけの話し
ただそれが思った以上に繁盛してるだけ
俺の答えに意外だったのだろう久保田が目を見開いて驚いていた

「・・・・・・・へーーー金持ち?」
「世間一般じゃそーかもな」
「あーーでも、分かる。榛原金持ちって顔してる」
「ドンナ顔だよ」
「そんな顔」

あはははっと笑った
今までの雰囲気も先ほどの冷たさも嘘のような年相応な笑い声
嘘のように明るく



この出会いが必然か

それとも、



08: