■ 触れた瞬間あなた色















いつの間にそうなっていたのか分からないけれど、今日のその時に張り出された紙を見て知った。
中間テストの結果表。
あいも変わらず自分の名前は【黒田巳咲】の下で【久坂壱春】の上。
どんなに頑張ったところで、【黒田】の名前を追い抜かすことはない。
次席の座を独占中・・・・の筈だったが、今回の結果は違っていた。
名前の順番は同じなのだが、その名前の横にある番号が【3】なのである。

「・・・・・え、3?」

呆然とした頭で、目線を上に上げていくと、そこには見慣れぬ名前があった。

『 一学年 中間テスト結果1: 久保田 和泉
2: 黒田 巳咲
3: 仁科 七海
4: 久坂 壱春
     :
     :
     :               』


「・・・・・【久保田和泉】・・・・・・え、久保田??」

【1:久保田和泉  520点】と表示されていた。
久保田の名前は、10〜20位の辺りをさ迷っているのが常のはずである。
C組としては無難な位置で極めて良いとも悪いとも言えない位置。

何で久保田?
何で久保田が首席の位置に名前が?
何で?
どーして?

そんな疑問がグルグルと回っていると、本人が黒田と久坂と共にやってきた。

「はい、宣言どーり!!500満点中520点!!」
「・・・・・・・・」
「え〜・・・・マジで?」
「やれると言ったらやれる男なんですよ、久保田和泉と言う名の俺は!!」
「いや、つーかね・・・・言ってできるもんじゃないと思うのよ、普通はね?」

呆れ半分と驚きのあまり、うまい事返せない久坂。
言う言葉の見つからないまま掲示板を見つめる黒田。
言ったことが現実にさせられてご満悦な久保田。
意気揚々と自分の名前を指さして笑っている。

「ま〜俺も試験勉強を怠らなければこんなもんなのよ、うん。ってかさ〜実を言うと受験勉強すらしてないんだよねぇ俺。」
「「「はっ!?」」」

思わず久坂たちと声をハモらせてしまった。
今、久保田はなんと言いました??

「試験と名の付くもので試験勉強なんてしたことないんだよね〜」

いとも簡単に言ってのけてくれる久保田。

「別に、授業聞いてれば試験なんてそこの応用か記憶力の問題だろ?だったら、しなくても別にいいわけだし。」

「「「・・・・・・」」」

「ま、これでもう試験勉強は止めた〜やっぱ慣れない事するもんじゃないね〜睡眠不足で眠いったらない!」

くあ〜っと大きく欠伸をして背伸びをする横で、握り拳の黒田。

「・・・・・人を・・・人をこんなに殴りたいと思ったのは初めてだ・・・・・っ!!」
「黒っち、ブレイクっブレイク!!」
「今殴っても誰も俺は攻めたりはしないっ・・・・!むしろ褒められるに価する!!」

実に同感だ!!
初めて黒田と同じ意見をもてた気がする!!
横で大きく何度も頷いてると、『あれ?』っと言う久保田の声。

「あれ?アレは?あの〜・・・・あ、委員長の名前がなくない?」
「「っ!!!」」
「・・・・仁科のこと?」
「そ〜仁科!!仁科委員長は?」

どこだ〜と言いながら目線を下に移動させる。
言っちゃなんですがっ生まれてこの方5位以下になったことなどありません!
目線をそんなに下に移動しても俺の名前などあるわけないだろう!!
そう声を上げようとしたら、今の行動の失礼さを上回る言葉が発せられた。

「なぁ・・・ウチ男子校だけど女子もいるのか?」
「くっ久保ちゃ・・・・!!」
「・・・・・いないよ。全校生徒500人の中に女子なんてね。」

マズイこと言ってますよ!!と、慌て気味の久坂。
訳を知ってて意地悪そうな声の黒田。
そんな事気になるどころか気付いていないご様子の久保田はなおも失礼発言を続ける。

「にしな・・・ななみ?うわ〜可愛い名前だな〜」
「言っておくが、俺も久保田も人のこと言えた名前じゃないと思うぞ?」
「でも【ななみ】ちゃんだぞ?俺の【いずみ】も黒田の【みさき】も、そりゃー女の子向けの名前だけどさ〜【ななみ】ちゃんよりはマシな――――」
「くくくくくっく・・・久保ちゃんっもう、それ以上喋んないで!!」

ぎゃーっと久保田の口を押さえ込む久坂・・・・
そんな事をしても遅い・・・・
しっかりと聞こえてしまった・・・・・

マシ・・・女の子向け・・・・・

「いいいいいい・・・・委員ちょ・・・??」

黙り込んで俯いてしまった隣の人物に恐る恐る声をかけると同時に・・・・
パタパタと廊下に水滴がいくつも落ちた。

「っ・・・・!!」
「えっ・・・え!?」
「あ〜ぁ・・・久保田、委員長泣かした〜」
「えぇっ!?」

その場にいたくなくて、目を袖で拭いながらその場を駆け出した。
その後ろで、黒田の声が説明をしてくれた。

「委員長だよ・・・この【3】番。苗字見れば解かるでしょ?」
「ぁ・・・・・」
「あ〜じゃないよぉ久保ちゃ〜〜ん!」
「・・・・・・・」
「ちなみにこの下の名前【七海(ななみ)】じゃなくて【なつみ】って読むんだよね。」
「・・・・・・・・・」

一同(黒田以外)気まずくなって黙り込んでいたら、何かが勢い良く久坂に覆いかぶさった。

どさっ
「うあっ!?」
「は〜い、そこの一年生諸君!ウチのなっちゃんドコ言ったか分かるかな〜〜??」
「っ!」

ウェーブのかかった少し長めの色素の薄い髪。長身になったはずの久坂の頭より上の位置にある目。
その目を人懐っこそうに笑みの形に歪めて、そう声をかけてきた。

「・・・・・・・仁科先輩。」
「せっセンパ・・・・イ〜苦しっ・・・!」
「よ〜黒田君に久坂っ相変わらずだな〜お前ら!」
「先輩ほどではありませんよ。」

嫌味交じりの黒田の言葉をものともせず、そう?とか言いながらニコニコと笑って掲示板を見上げる。
その見上げた先の結果に、笑みが深くなった。

「相変わらず、なっちゃんは黒田君の下か〜!ん?ん?あれ〜いつもと違うかな?なっちゃんが3番目だ!」

喜々としてそう言いながら、久坂の首を絞めるように腕を上げる。
顔色が悪くなるのもものともせずに、ぐぐっと締める。
それ以上力を入れたら確実に落ちるであろう境界線だ。

「って事は・・・・・って事は、もしかしなくても!?」
「・・・・・・ご想像通り、泣いておられましたよ(違う意味だけど)?」
「きゃっーーーーー!なっちゃーーーーーーん!!」

そう奇声を上げるなり、久坂を放り出して駆け出した。
だだだだっと、駆けて行く姿を見送ってから久保田が黒田に問いかける。

「今のって・・・・・??」
「見たことある筈だよ、入学式に・・・・この葉山学院の名物カリスマ生徒会長の仁科桃司先輩で。」
「・・・・・・・あっ!」
「で、委員長のお兄さん。」
「えっ!?」

葉山学院のカリスマ集団・生徒会。
その集団の頂点の生徒会長で、2年C組の仁科桃司。
人目を引く秀麗な容姿と、ずば抜けた運動神経と、在学中一度も首席意外になったことがないほどの秀才。
どれをとっても完璧という言葉が合う男で、天は二物も三物も与えた不公平な人物といわれて入るのだが・・・
やはり天は誰にでも公平ではあったとも言わしめた男でもある。

「で・・・究極のブラコン。弟狂いとも言っても過言ではないほど、委員長を溺愛しまくりで有名なんだよね。」

そう締めくくってくれた。










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校舎の裏手、木々に囲まれた壁の前に体育座りをして泣き続けるもの一名。
先ほど結果発表の掲示板の前から泣いて走り去った1年C組の委員長、仁科だ。
ボロボロと止まることを知らない涙を拭いもせずに泣き続けた。
昔から些細なことでも泣いてしまうので、落ちつくまでに時間がかかる。
我慢すればするほど嗚咽は酷くなる一方なので声に出さずとも気の済むまで泣くしかないのだ。

「っく・・・・・ひっ・・・・・」

ネクタイやジャケットに涙の染みがいくつも付く。
パタパタと軽い音を立てて、上履きや土の上にも涙は落ちた。
遠くで授業の始まるチャイムの音が聞こえるがこんな顔で出るわけにもいかないので、芝生の上に腰を落ち着けた。
膝を開いた前に手を着いて、項垂れる。
小さな出来事でも泣いてしまう自分が不甲斐なくて、溜息が零れた。

「ふ・・・・ぅ・・・・」
「なっちゃん見〜〜〜〜っけ!」

項垂れた肩に両腕を乗せて、上から無理な体勢で顔を覗き込んできた。
確かめることなく、声とその行動で誰か分かってしまう。
こんな躊躇いなく触れてくるのは兄以外いない。

「兄ちゃん・・・・・」
「なっちゃんたら、また泣いて〜可愛いぞ!」

ぐいっと無理やり上向かせる。
逆さまに飛び込んできた桃司のキレイな顔。
いつもと変わらずニコニコと優しげに笑っている。

「・・・・・・・・」
「今回は3番になっちゃって泣いてるのかな?」
「っ・・・・・・見た・・・・・の?」
「うん、見ちゃったよ〜駄目だな〜なっちゃん3番だなんて!」
「ご・・・ごめんな、さい」

嗜める言葉にもっと涙が溢れて、両頬を包んでいる桃司の手が涙に濡れる。
何でも完璧の兄、
常に一番の兄、
人の上に立つために生まれたような兄、
追いつきたくても待っていてはくれなくて、
首だけで振り返って笑って『早く来い』と言う少し意地悪な兄。

「ごっ・・・・めんなっさ・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・」

ひくっと・・・止まらない嗚咽と涙。
そんな七海の様子に、笑みの形に弧を描いていた口元と目元が別の意味に変わってよりいっそう深くなる。

「謝ってもだ〜〜め・・・・お仕置きしなくちゃね。」
「っ・・・・・!」

言葉とともに、後ろから桃司の胡坐をかいた膝に足を大きく開かせられて乗せられる。
そんな羞恥を覚える自分の格好に咄嗟に足を閉じようとするが、

「駄目だよなっちゃん、閉じちゃ。」

優しくても有無を言わさぬ声。
その声にびくっと身体を慄かせて、閉じかけた足をゆっくりと開いた。

「いい子だね」

耳朶を軽く噛まれながらベルトを外される。
ズボンの上から自身をゆっくりと撫でられる行為に、止まらなかった筈の嗚咽が吐息と喘ぎに変わる。

「ん・・・・ぁっ・・・・兄ちゃっ・・・・!」
「ん〜?」
「いやぁ・・・・・」
「嫌って言ってもだ〜めよ?お仕置きなんだから、ね?」

酷く楽しそうで意地悪な桃司の声。
それに比例するように手の動きも、布の上からではなく直に触れてくる。
お仕置きと言うように、人の羞恥を煽るように厭らしい音をわざと聞こえるように動かす。

「やっ・・・あぁっ・・・・あっぁ・・・・」
「お仕置きなのに、なっちゃん感じちゃ駄目でしょ〜」
「ひっあ・・・・・!」
「それに、大きな声出すと誰かに聞こえちゃうかもよ?」
「!!」

はっと気付いて、咄嗟に手で口を押さえる。
言われたとおりココは学校で外。
しかも授業中だからと言って周りに誰もいないわけではない。
見回りの教師や移動中の生徒だっている。
けれど、桃司はバレてしまうと言いながらも手の動きは早く激しくしていく。

「っ・・・・ふっ・・・んんっ!」
「ん〜・・・・我慢するなっちゃんの声もいいんですが〜やっぱ声は聞きたいものね、なっちゃん手はなして。」
「っ・・・・!」

その言葉に目を見開いて、頭を振る。
ぱさぱさと七海の髪が桃司の顔に軽く触れて、
くすぐったさに目を細めながらも頭を屈めて赤く染まる耳に吐息と一緒に否定を許さぬ声で囁いた。

「離しなさい、七海。」
「・・・・!!」
「声が聞きたいんだよ、お兄ちゃんはね?」
「・・・・・・」

優しくて甘い声。
この声には逆らえない。
兄に逆らってはいけない。
優しくて意地悪で怖くて自分の総ての兄。
先ほどとは別の意味で涙がボロボロと零れ、言われるがままに口を塞いでいた手を外した。
ソレと同時に煽るだけ煽ってイクことを許されなかった行為が、今度はイケと即すように扱かれる。
自身から溢れる体液で響かされる水音。
霞がかる思考。
周りなど気にする余裕もなく、上がる嬌声。
快感のせいで零れる涙。
背後から感じる桃司の体温と、吐かれる息。

「好きだよ・・・・七海。」

愛しさを十分に含んだ声でそう囁かれて、身体中を走り抜ける快感の痺れ。
最後は声にならない悲鳴とともに、飛沫を上げた。
上り詰めて果てたせいで遠のく意識の中、何かが唇に触れる。

「大好きだよ、七海。」

優しく啄ばまれるキスの中、桃司は何度もそう囁く。

「大好きだ・・・・・・」






俺も・・・・・・・・・・好き・・・・・・



兄ちゃんが・・・・好き