■ 傍観者の主張












蜂屋 和希が主張させていただく。


言わせて貰えば、こんな傍迷惑な事ってないような気がする・・・・・
そう気付いた、ある日の昼休み。


いつものように教室で昼食のお弁当を広げている。
メンバーは変わりばえすることなく何時ものように、
僕と一条と巳咲と久保田に久坂。
机をくっ付け合いながら食べる・・・・コレも変わらないこと。
久保田と久坂の掛け合いも変わらないこと。
巳咲の行き過ぎた僕への悪戯も変わらないこと。
一条が相槌だけで余り話さないのも変わらないこと。
昨日との違いは僕のおにぎりの具が、鮭から昆布になっていることくらい。
そんな事をボンヤリと考えながら目の前の光景を眺める。

「あ〜久保ちゃんの卵焼き美味しそ〜〜」
「美味いよ。」
「俺のと交換しようよ〜!」
「やだ。だって久坂のトコの甘くないんだもん。」
「え、卵焼きは甘くないよ!」
「久保田家の卵焼きは砂糖入りで甘いの。」
「えっマジで!?」

驚いている久坂の顔は信じられない・・・・と言いたげだ。
ちなみに、

「巳咲の家も甘いよね?」
「甘いって言うか・・・・そうとう甘いよ。」
「僕ん家は出汁入り。一条は何?」
「塩コショウ・・・と、少量のマヨネーズ・・・」
「マジで!?」
「十人十色だよ、久坂。」
「黒田の卵焼き、味見させて?」
「いいよ・・・・久保田のも交換。」
「あぁ・・・・・・・・あ、ホントだウチのより甘いっ」
「甘さが足りないな、久保田。」

お互いのを食べあいながらそう感想を漏らす二人に、
久坂が大声を上げた。

「あーーーーーっ黒モンが久保ちゃんの卵焼き食べた!!」
「美味かったぞ、久坂!」
「ズルイッ!!」
「残念だったな〜もう食道を通りぬける寸前だ。」
「そんな表現いらないやい!!久保ちゃー」
「ご馳走様でした。」
「終わってるしーーーーー!!」

久坂が騒いでいる一瞬の隙に久保田は残りを平らげ、片付けていた。

「ヒドイ・・・・・ヒドイわっ・・・・!!」

卵焼きを食べ損なったくらいで泣き崩れる久坂に大きく溜息をつく久保田。

「はぁ・・・・・うるさいよ、久坂。」
「えぐっ・・・・うぅ・・・・・」
「・・・・・・・」
「えぇっく!!」
「あーーーもうっうるさ〜い!明日、卵焼き入ってたらあげるから泣き止め!」

しつこい嗚咽に切れたようにそう宣言した。
謀ったかのように久坂、泣き止む。

「ホント??」
「ホント。」
「ホントにホント?」
「ホントにホント。」
「ホントにホントにホント?」
「ブっ殺すぞ・・・・・・(マジキレ)」
「スっスイマセン・・・・・(怯)!!」

ドスの効いた声にふざけるのをやめて、満面の笑みを浮かべた。

「やった〜久保ちゃんの卵焼き〜vv」
「俺が作ってるわけじゃないんだぞ?」
「でも、久保ちゃん家の卵焼きだもん!」
「はぁ?」
「久保ちゃん家の卵焼き〜vv」
「・・・・・・」
「うへへへへ」
「・・・・・そんなに嬉しいもんかね〜?」
「嬉しいもんなんです!!」

力一杯そう言い切りながら残りを掻き込むように口に収めていくのを見て、
久保田が苦笑いを浮かべる。

「久坂・・・あんまりガッツくな、零してる。」
「んえ?」
「ネクタイに付いてる。」
「あ、ホントら〜」
「あ〜ほら・・・・口の端にご飯粒!」
「え、ドコ??」
「違う、反対!」
「え、え?」
「あ〜もう・・・・!」

言ってるのとは反対側を探る久坂の手をどけて、
ご飯粒を摘む。

「取れた。」
「や〜ん久保ちゃんありがとぅ〜〜vv」
「キショイ。」
「いや〜ん」

無意識なのか何なのか・・・・
久保田は摘んだご飯粒を自分の口に入れてしまった。


何だかな〜・・・・・コレでまだ、久坂の片思いってのが不思議なんだよな〜


「見ちゃいけません和希!」
「え〜だって見ちゃいけませんって・・・・目の前だし。」
「目瞑って食べなさい。」

バチンっと音がするほどの勢いで目隠しされた。
気遣ってと言うよりは、
巳咲の苛立ちが僕に向けられているだけだろう。

「痛っ・・・・巳咲、痛いよ!」
「教育上痛みなんて問題ありません!」
「意味わかんないよ〜・・・・って、ちょっと目押さないで!」
「いや、良く目を強く押すと銀河系が見えるって言うから。」
「見えないから!見えたとしても、たぶんソレ違うから!!」

必死に巳咲の手を剥がし取って、チカチカしている目を瞬きを繰り返しておさめる。
ようやく見えるようになった目の前では久坂の箸で久坂のお弁当の中身であるウィンナーを、
久保田の手から食べさせているようだった。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・もうちょっと粘って抑えといてくれれば良かったのに・・・・」
「この屈辱を一人だけ逃れようとは甘い考えだな和希。」

巳咲の苦虫を噛み潰したような声に、
僕も溜息をついた。

「・・・・・・」
「・・・・・・一条は平気そうだね?」
「あぁ・・・・・・」
「凄いね〜一条は。」
「そうでもない・・・・・・・・蜂屋。」
「何?」
「そのうち俺にもやってくれ。」
「え、何を?」
「・・・・約束してくれれば良い。」
「え〜?・・・・・まぁ何だか分かんないけど、良いよ。」

一条の言っている意味が分からなかったけど、言われたとおり一応頷いておいた。

「ありがとう・・・・」

疑問が一杯だったけど、
一条のその一言と珍しい笑みに考えるのを止めてしまった。


見たくないものを見せられてしまったけれど、
見れて良かったものもあったので今日の傍観者である僕、
蜂屋 和希でした。






「和希・・・・無闇に頷くもんじゃないから・・・・・・」







お前の近い将来は決まったな・・・・
そう、最後に心の中で続けた。