■ 開けてはいけない














移動教室だった、とある日のとある3時限目。
初夏に近づきある日差しが照りつける廊下を、目的地である教室へ向かって歩いていた。
窓側を俺、その隣に一人マシンガントークの久坂、その隣に仲原。
後ろに三バカの一人、真館と蜂屋と黒田。相変わらず二人係りで蜂屋を遊んでいる。
そのまた後ろを残りの三バカの2人三嶋と大江だ。
賑やかな生徒が溢れる廊下をこれまた賑やかさに拍車をかける程の騒がしさで闊歩している。
はっきり言って悪目立ちどころの話しではなく、迷惑千万な感じだ。

「久坂殿っ!ここで会ったが百年目、切る!覚悟ーーーーー!」

いきなり三嶋が飛び掛る。それに便乗して大江も、

「父上の仇ーーーーーーーっ!!その首頂戴いたす!!」

ブリキ製のカンペンを刀に見立てて、
切りかかる二人に久坂は教科書を盾にしてその刀もどきカンペンを受けた。
目測を(わざと)誤った三嶋の布製の筆入れが仲原にあたっている。
俺は避けた。

「・・・・・・・・・三嶋・・・・覚悟は良いか・・・・??」
「な仲っち・・・・お遊びお遊び!」
「お遊び?・・・・そうか、なら俺のこの拳もお遊びお遊び。」
「待てっお前のは明らかに遊びの範疇を超えている!殺意がにじみ出てるぞ!!」
「気のせいだって三嶋・・・??」

ゴキゴキと指を鳴らして後ずさる三嶋に近づく仲原。
この優しげな風貌をしている仲原は誤解されがちだが、実は結構な武闘派だ。
昼休みは2.3日の間隔で呼び出しを受けて、時たま返り血を受けて帰ってくるくらいだ。
巷では【亜修羅の仲原】と意味不明な二つ名まで流れているらしい・・・・定かではないが。

「良い指鳴らしですね〜いかがでしょう指鳴らし連盟会長の久坂さん?」
「そうですね〜彼の凄いところは、アノ指鳴らしをしても指が太くならないところです。」
「ほほぅそれはまた珍しい!」
「しかも、あの音!聞きましたか?指を鳴らしているだけなのに、恐怖を煽るような素晴らしさ!」
「恐怖を煽るには持ってつけの音ですね〜!」

何やらいつの間にへんな実況中継を始めている久坂と大江だ。
刀もどきカンペンはマイクに早変わりしている。
って言うか【指鳴らし連盟】って何だ?
と、思っていると後ろで蜂屋の悲鳴が聞こえる。
こちらも黒田と真館が3階の窓から蜂屋の身体を担ぎ上げて落とそうとしている所だ。
慌てて駆けつけてそれを止めようとしている一条の焦った顔が新鮮でついついそちらに意識を持ってかれる。
したら・・・・

「よっ!キング・オブ・指鳴らし!!」
「キング・オブ・指ぱっちん!!」

って声が聞こえた。
指パチンは違うと思う。ポー●・牧の十八番のはずだ。
って言うか今時の高校生のどれだけに指パッチンもとい、
この十八番を持つ人を知っているのだろうか?
いないだろうな・・・・・俺だってつい最近知ったんだし。
で、何となく・・・ホントになんとな〜〜く、壁を見上げる。
そこには黒いプレートに金文字で厳かに【演劇部】と書かれていた。
ドアには字の見本になりそうな程のきれいな文字で【新部員大歓迎!】と張られて、
その下に【見学は自由!気が向いたらドアをノック!】【飛び込み歓迎!!】って書かれていた。
字がきれい過ぎるせいか、この煽り文句に微妙な違和感をもたらした。
で、ものすごく気になりドアに手をかけて開けようと回した瞬間・・・・

「「「「「開けるな!!」」」」」

と、そこにいた1年C組の殆んどに怒鳴られて止められた。
あまりの声の大きさに驚いて思わずガチャンと開けてしまったが、
久坂の腕が背後から伸びてバンと大きな音を立てて閉められ、その場から引っ張られて離れさせられた。

「なっ何!?!?!」
「久保ちゃん!命と確かな未来と正常な感情と綺麗な身体でいたかったらココを開けちゃ駄目!!」
「はっ!?」

凄い剣幕の久坂のどアップ。
珍しく真剣な表情プラス何だか久坂からそんな言葉聞けるとはなセリフ・・・・
ってーか綺麗な身体でいたかったらって何?何かされんのか??

「ココはね!ある意味、悪の巣窟!いや変態の巣窟って言われてて1年C組より性質が悪い言って有名なんだよ!!」
「えぇ??」
「入ったが最後!生きて帰れてはできても綺麗な身体で出てこれない!!」
「えぇっ!!」
「久保ちゃんなって入ったら数分もしないうちに相馬先輩に弄ばれちゃうから!!」
「くっ久坂??」

真剣そのものの表情にたじろいで、
その後ろに立っていた黒田と仲原に助けを求めると二人は同時に苦笑いを浮かべて肩を浮かせた。
説明プリーーーッズ!!

「いや〜〜壱の言ってることはあながち嘘ではなく、むしろ本当のことなんだけどね。」
「悪の巣窟ってのはないにしても変態の巣窟ではあるわな。」
「そうだね〜特に相馬先輩はその代表格だね。」

そ、相馬先輩??
誰だソレ??

「相馬先輩ってのはこの演劇部の部長で2年生の相馬葵さんて言ってね、すこぶる絶好調なナルシストなんだ。」

すこぶる絶好調なナルシストって何?
どんな言葉??
つーか意味は??

「まぁ実際に絵に書いたような美形ではあるんだけどね〜」
「あのナルシスト具合でね〜美形に感じさせないよな?」
「そこがまた凄いって感じだよな?」

真館の感嘆の言葉に続くように三嶋と大江もうんうんと頷いた。

「半分外国の血混じってるって言ってたよね?」
「あぁ」

一条に引っ付いて蜂屋も会話に混じってくる。
その蜂屋の言葉に一条も頷いた。

「と言う感じだからさ、相馬先輩って変態も変態、超絶な変態。」
「自分が認めた完璧好みの奴は、地の果てまでも追いかけてって気が済むまで弄ぶんだよな。」
「そうそう。たしか3年の先輩で目付けられた人が獲って食われた話しつい最近だよね?」
「飯田先輩ね、アノ人弄ばれた挙句気が済んで捨てられてそのショックで転校してったんだよな。」
「したした〜!ってーかさ〜一時期、壱も狙われてたんだよね?」
「えっ!!?」

思わず振り返って久坂を見る。
やるせない表情ってーか思い出したくもない過去を話されて嫌な気分だわ!!的な表情を浮かべている。

「瞬ちゃんも黒ピーも今ソレ関係ない!」
「え〜その3年に目が行ったおかげで喰われずに済んだじゃん。」
「そうそう。」
「や〜〜〜め〜〜〜て〜〜〜キモイ!!」

ぎゃーーーっと叫びながら自分の身体を掻き毟る。
鳥肌と全身に走った虫唾に大暴れする久坂。
ココまで久坂が嫌がるのだから相当凄い人なのだろう・・・・

「久保田も知らないなら知らないままのが良いよ、その方がこの先安泰。」
「知らないことの方がどれだけ幸せなことか・・・・・」
「ね〜関わりにあいたくない人だよね、この先自分の身のため未来のため。」
「そうだよな。」

仲原と黒田の本音にも触発されたか、俺はもう興味本位で近づくのは控えようと決心した。
だって・・・・とって喰われるの嫌だし。
自分の身は可愛いわけだし。
そして、皆でぞろぞろと歩き出し本当の目的地(教室)である視聴覚室へと入っていった。
その際に目の端で悪の巣窟と言われた部屋のドアが開けられた気がしたが、
中に入ってしまってチャイムが鳴ったので確かめることはできなかった。










「言いたいこと好き勝手言ってくれちゃって、まぁ〜・・・・・けど、久坂壱春くん・・・・ここで会ったが百年目とはまさしく君と僕との間にあるような素晴らしき言葉だ。」