■ いじめる理由













「ひぎゃっ!!?」

授業中に変な悲鳴が聞こえた。
何だか子猫がちょっと高い所から落ちて泣いたような声。
しかし、ここは学校。猫なんていない。
いや、いないと思ってるだけで実は誰かが隠し持っている可能性はある。
なぜなら数日前、教室の端っこにねずみがいたのだから。
ねずみと言っても普通のねずみではなく、ハムスターと言われペットとして飼われている種のねずみ、ジャンガリアン・ハムスターだ。
何でハムスターがいたのかは未だに謎である。

「お〜〜い誰だ〜動物連れてきた奴〜!」

黒板に数学の公式を書いていた片瀬が振り返って、生徒を見渡す。
すると窓際後ろの数人が、肩を震わせて何かを堪えている様子だった。
そこに座っているのは確か、真館と黒田と蜂谷だ。

「マチコ・・・・・何やってんだ?また健康器具我慢大会か?」

マチコとは真館の愛称である。その真館が目に涙を浮かべて片手を上げた。

「違います〜って言うかツボ刺激器、片瀬っちが没収したまま返してくれてないじゃん!」
「ん?そうだったか?」
「そうです〜!!」
「んで、何やってんだ?答えによっちゃ〜前に来て問題解かすぞ?」

都合の悪い事らしいことは聞き流して、コンコンとチョークで黒板を叩く。
そこには面倒かつ長ったらしい問題が書かれていた。

「俺じゃねーもん!黒田くんに聞いてください!!」
「あ、友達売り飛ばす気?」
「やっぱ自分可愛いですから。」

メンドーそうに溜息をつく黒田に、真館はペンで突いて即している。
それを教科書(の角)で払って、一言。

「蜂屋で遊んでました。」
「・・・・・・・・・・・・」

いっそ簡潔なまでの答えである。
むしろソレしかりません的、答えでもあって何ものでもない。
黒田らしいものだった。
さすがの片瀬も一瞬だけ片眉をぴくりと跳ねさせたかと思うと、盛大に溜息を吐いた。

「黒田・・・・前に言ったかと思うが、授業中に蜂屋で遊ぶなって何度言えば分かる?」
「スイマセン、何度言っても分からないと思います。」
「うあ!黒田っはっきり言っちゃ駄目じゃん!」
「なぜに?」
「それはやっぱ・・・・蜂屋にも、それなりに〜悪いかと思うよ?」
「それなりに?」
「うん、それなりに。」
「そうか、それなりか。」

真館の言葉に繰り返す黒田。
お互い反省の色などまったくもってなかった。
その二人のやりとりを見て、もう一度溜息を吐く片瀬。
目線は、そのイジメの対象になっている蜂屋だ。
当の本人は、目に一杯涙をためている。

「蜂屋・・・・・お前も、嫌ならはっきり言え、な?」
「だって・・・・巳咲に何言っても無理ですよ!!」
「まぁ・・・そうなんだが、だけどお前が少しその体質どうにかしないと、どーにもならんのだから・・・な?」
「たっ体質って・・・・・!!」

教師の言葉にしてはあまりにも無責任な言葉に、蜂屋は涙を浮かべた目を見開く。

「そうそう、蜂屋ってさ〜何だかイジッてやんないと反対に気の毒って言うか?」
「可哀相と言うか?」
「むしろ、イジッてなんぼって言うの?」
「それに価値があり。」
「ソレ以外に価値はない?」
「「それが蜂屋の存在理由の定義である。」」

そう言って黒田と真館は締め括った。

「ひっ・・・・・ヒドイ!!」

ガーーーーン!!と、大きなタライが頭の上に落ちてきたかのような衝撃を受けたらしい蜂屋が、口をあんぐり開けて固まった。
その間、黒田と真館は笑いたくて笑いたくて仕方がないように奇妙に顔を歪めている。






そして次の瞬間・・・・・花の16歳が、恥も外聞もかなぐり捨てて大声で大泣きに泣いた。
やはり授業は潰れてしまった事は・・・・言わないでおこう。






蜂屋 和希。
全然まったくもってその気がなくても、イジらずにはいられない何かを持っていた・・・・・