■ さらば朋友












ゴールデンウィークも一週間前に過ぎ去ったある日の授業
担任でもある片瀬が黒板に数式をズラズラ書き始めた頃、
何かを思いついたかのようにチョークを握る手が止まった。

「あ」

声が聞こえてノートに写すペンの動きを止めた数人が顔を上げて片瀬の背中を見る。
居眠りをこいていた仲原と三嶋がぼんやりと体を起こし、
本を読んでいた真館、
ゲームに勤しんでいた大江が顔を上げる。

「どうしたん、片瀬っち?」

フリーズしたっきり動かない片瀬に、
痺れを切らしたのか久坂が声をかける。
が、それでも動かない。
クラス全員が首を傾げた瞬間、くるりと振り返った。
顔には満面の笑顔。

「ワリー忘れてた!」
「「「??」」」

何を?
そう思った瞬間の爆弾発言。

「今日って【校内交換留学】の日だった!」
「「えぇっ!?」」

その言葉にクラスの全員が勢いよく反応する。
俺は首をかしげたまま隣のぼんやり気味の仲原に声をかけた。

「仲原、校内交換留学って何?」
「え?・・・・・・・・あぁそっか久保田って外部入学だっけね。」
「うん・・・・って、常識?」
「持ち上がり組みには常識な【校内交換留学】」
「ふ〜〜ん・・・・で、ソレ何?」

交換留学って普通は海外とかだよな?
でも、校内だし・・・・
校内?

「文字通り、校内での交換留学。他のクラスに、数人がもといたクラスから移動するの。」
「・・・・・・」
「しかも、交換留学で他のクラスに行ったらそのままそのクラスにいても良し、戻っても良しな感じ。」
「・・・・・・このクラスもあるの?」
「あるよ〜全クラスで実施。」

でも、このクラスって一応・・・・

「特別進学クラスでも?」
「そうだね〜取り敢えずは進学コース、普通コース、商業コース、体育コースからでも来てるわけだけど、そうなるとレベルが違くなるよね?」
「なるね」
「その場合は、テスト方式が変わるのだよ。」
「変わる?」
「変わるよ、だってこのクラスだけ他のクラスとテスト問題違うからさ。」
「・・・・・えっそうなの!?」
「・・・・知らなかったのか、久保田?」

前で聞いていた黒田が呆れて振り返る。
数日前に席替えして、今はこの位置なのだ。
ちなみに俺は一番後ろの廊下側端、左隣は仲原で前が黒田、
左斜め前が三嶋である。
久坂は遥か前の方。
うるさいのが遠く離れて清々していることは敢えて口にしていない。

「知らなかった・・・・・」
「久保田らしいなぁ」

ニヤニヤと三嶋が笑いながら言う。

「伊達に特別進学クラスとは言わないぞ〜」
「そうそう、外部入学の時だって普通科や商業科とは偏差値が20〜30違うんだぞ?」
「うっそ・・・・」
「嘘ついてどうするんだ?」

黒田の突っ込みは尤もである。

「そ、だからテスト時はこのクラスに来た人はこのクラスのテスト問題外を受けて、このクラスから出た奴もこのC組のテスト問題を受けるんだよ。」
「へ〜・・・・・」
「ま、商業科やら体育科からはあんまり来ないね、大体は普通科か進学科。」
「そうしないと、割に合わないしね?」
「ね?小学生に大学生の問題やらしてるのと同じなわけだしね。」
「えっ!」
「そこでも驚くのか〜?」
「久保田、何も知らなさすぎ!」

知るかよっそんな事!
って、驚いていたら片瀬がその交換留学する者の名前を上げていた。

「ちなみに〜交換留学してもらう奴は、三嶋潤也〜真館恵〜大江武の、三名!」

C組の名物3人組のお呼び出しのようである。
三嶋が驚いたように顔を上げた。

「えっ俺!?」
「マジでーーー!?」
「うっそ〜〜〜!!」

他の真館、大江も立ち上がっている。
が、そんな事で文句も嫌がりもするはずのない三人、
目を輝かせている。

「よっしゃーーーーー!!」
「俺たち3人で伝説つくっちゃるか!!」
「おっけーーー!!」

ぎゃーーーっと喜びの奇声を上げて教卓へ駆けて行く。
それをクラスメートが歓声を上げる。

「皆様っ今日をもちましてアタクシたち美人三姉妹は狼の潜む森へと旅立ちます!」
「このクラスでの卑猥な清き思い出を胸に!」
「このクラスの涙無くしては語れない思い出を胸に!」
「「「ごきげんようっ皆々様!!」」」
「「「「ごきげんようっ美人三姉妹!!」」」」


あほだ・・・・

「アホがいる・・・・」
「慣れなさいね?」
「・・・・・・・」

まだ続く歓送迎会。

「伝説を持ち帰ってくるぜぐるあ〜〜〜〜!!」
「「「おーーーー!!」」」
「俺に栄光アレーーーー!!」
「「「おおーーーーーーー!!」」」
「地位も名誉も俺様のもんじゃっぐるぁ〜〜〜〜!!」
「「「「うおーーーーーーーー!!」」」」


さっきと趣が違う。
そして、3人はクラスメートに見送られてC組を後にした・・・・・・

「あの三人が一般市民の集う静かな所へ・・・・・」
「迷惑千万な話だよね?」
「ホントだね。」

俺の嘆きに黒田と仲原の言葉。

「・・・・ん?じゃ〜さ、このクラスにも来るって事だよな?」
「来る時もあれば来ない場合もある。」
「あ、でも来るんじゃない・・・・・ほら・・・・・」

仲原が指指す先に一緒に出て行った片瀬が誰かを連れてきた。

「そんじゃ〜〜ま、このクラスにも新しい仲間が誕生した!」
「「「「おおおっ!!」」」」

身を乗り出して入ってきた生徒を見る。
新しいモノ好きで楽しいこと好きで騒がしいこと好きで摩訶不思議なこのクラスに慣れること出来るのだろうか?

「進学科F組の真中南十だ、仲良く可愛がってやれよ!」

隣に立っている真中と言う名前の生徒の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜている。
あれは、どう見ても嫌がらせに近い感じだ。

「席はそうだな〜・・・・誰がいいかな?」

クラス全体を見回す片瀬。
見られる生徒はそれぞれ、セクシーポーズ。

「キモイ・・・・」
「キモイって言わないの!皆さん必死なんだから!」
「可愛いって言ってあげなさい、久保田!」

どう見たって可愛くはないだろうが・・・・っ!
どんな反応をするのか気になって真中を見ると・・・・・

「珍しき反応じゃの〜」
「そうですな〜」
「・・・・・・・・・」

白け切ったと言うか、
無反応である。
普通は引くか笑うかなのだが・・・・・

ふ〜〜ん・・・・・・

「そうだな・・・・お?」

片瀬がちょっとだけ驚いた顔をしたが、
次にはニヤリと笑う。
俺が手を上げたからだ。

「久保田か・・・・」
「取り敢えず、それゲット。」
「ピ●チューじゃないぞ〜アグ●ンだぞー?」
「ポ●モンでもデジ●ンでもないな・・・・・」

片瀬の言葉に、黒田が突っ込む。
俺はどっちかって言うとデジ●ン派だ。
シリーズ的には1が好き。

じゃなくて

「先生、三嶋の席空いてるし、ちょーだい。」
「ちょうだいって・・・・・・ま、お前でいいか〜・・・・真中、あいつの席に行け。」
「はい」

言われるがまま、真中がこっちへ来た。
その時、窓際一番前席の久坂が立ち上がって人差し指をこっちに向けて泣き出した。

「ぎゃっー!!久保ちゃ〜〜〜ん!!浮気っ!?アタイよりその子がイイって言うの!?」
「付き合ってないから浮気とか言われても煩い。」
「じゃっ今からアタイが久保ちゃんの雇われ専業主夫になる!!」
「間に合ってます。」
「新聞勧誘的断り方にショック!!」

って言うか雇われ専業主夫って何?

「久保ちゃ〜〜ん・・・・でもっ・・・・アタイ負けない!」
「あっそ」
「冷たい貴方も、す☆き☆」

無視。

席に着いた真中に声をかける。

「俺は久保田、よろしく真中。」
「・・・・・どーも」
「仲原だよ〜ヨロシクね〜」
「こちらこそ」
「黒田って言います。」
「ヨロシク。」

淡々とした喋り。
何だか、興味がそそられる。
顔はキレイとカッコイイのちょうど真ん中な感じ、
染められたカフェオレ色が色白に映えている。

「真中ってキレイとカッコイイの間な感じで良いね〜」
「・・・・え?」
「カフェオレ色っぽい髪もいいな〜染めてる感じがしないぐらい髪がキレイ。」
「あっと・・・・え?」
「俺と仲良くしようね?」
「・・・はぁ・・・??」

ニコニコと笑みを絶やさず話しかければ、
先ほどの無表情に戸惑いと照れが浮かぶ。
赤みが差した顔に、惹かれた。

「俺、真中のこと好きになりそ〜」
「えっ!」
「いいな〜何かいいな〜」
「えっあの・・・!?」
「好きだな〜仲良くなろうね?」
「は・・・・い・・・・・」

真っ赤になった真中にいつまでもそんな言葉をかけていれば、
黒田と仲原の呆れた溜息。

「出たよ、天然無自覚タラシ」
「怖いよね〜無自覚にタラシ込んでるよこの子」
「久保田もこのクラスに馴染んでるよな・・・・」
「むしろ、C組的要素ばっちりだし?」
「な?」



認めたくない言葉を言われるが、
意識は真中に一直線。



好きだな〜こういう人。

うん、良いね







そんな事を思っていたら、
遠く離れた久坂の嗚咽なんて聞こえなかった


「ひっひどい・・・・久保ちゃん・・・・・・」
「まーまー仕方ないよ、無自覚のタラシだし?」
「そーだな」
「きっーーーーー!!くやしっ!!!」


制服の袖を噛んで悔しがっていたとさ。