■ 沸点に届きにくいからと言ってキレないかと言ったら大間違いだ










































ぱしゃっ




頭上と左横と諫早の後ろから何かが飛んできた
頭と額と頬を打ちつける

何か?
何かだって?
馬鹿じゃねーの自分?

確かめなくたって、
分かるソレ
色は、透明と黄緑とオレンジ色
水と、お茶とオレンジジュース
ご丁寧にも氷入り

痛いと思ったら氷が当たったようだ

「・・・・・・・・・・・」
「七緒!!」

諫早が立ち上がって、慌てたように自分のシャツの袖で俺の顔を拭おうとする

優しいな〜

でも、汚れる
諫早の服が汚れるから、顔に付く前に止めた
そんな俺たちの行動の後ろで、誰かが溜息をついた

「アンタさー生意気なんだよね?」
「落合・・・・・・テメー」
「滝は黙っててくれる?僕はコイツに用があるんだから」
「だからってこんな事して良いと思ってんのか!?」
「別に、良いんじゃない?見た目からして『俺を苛めてください』って顔じゃん」

馬鹿にしたように鼻で笑う
たぶん、可愛い顔が台無し
総崩れって感じ?
になってんだろうねー

あーあ・・・・幻滅・・・・・・

もう一回溜息付いたら
無理矢理、肩を引かれてそちらに向かされた
予想通り総崩れ
先ほどの可愛いと思えた顔が消え去っている
睨む、
怒りと憎悪込めて

「何で黙ってるわけ?何か言ったらどう?」
「・・・・・・・・」
「言わないなら言わせて貰うけど、好い気になってんじゃねーよ転校生」

また言われたー
俺って転校生じゃないし、
しかも全然まったく好い気になってなってないし、

「そんなダサイ面して一条先輩や榛原先輩の横に立たないでくれる?」
「・・・・・・」
「お前みたいなダサくてキモイ感じの奴がいると、あの人たちが穢れるからさー邪魔なんだよ、分かる?」
「・・・・・・」
「ねー返事したら?それとも、怖くてできねーの?マジ、最悪なんだけど」

そう落合が怒りと馬鹿にしたような声で言うと、緒取り巻き連中のような奴らが同意するように囃し立てる

馬鹿ばかしー
付き合いたくもねー
けど、そろそろ言われ続けるのも限界かなー

ポタポタと雫が落ちていく
毛の先から足元へと
ソレを目で追ってどうにか気持ちを落ち着かせる

って言うか・・・・
寒い・・・・寒くなってきた!
帰るか・・・・・

無視して横を通り過ぎようとしたら、今度はさっきの比にならない勢いで水が飛んでくる

ばしゃんっ

勢いが良すぎて、一瞬身体がふらつく

「七緒!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「あははっは〜〜ダッセーーー!!」

けらけら上がる笑い声
全身ずぶぬれ
横に立っていた諫早までもが濡れている

諫早に水掛かった・・・・・・


ブチ


はい、
キレました、
睦月、楓、アンタらが言ったように俺我慢できなかったは

「・・・・・・あーーーーーマジで、最悪」
「!」
「な・・・・七緒・・・・??」

俺の何時もとは違う声音に諫早が驚いたように目を見開く
落合って奴は固まった

「どーしてくれんの?学校どーすればいい??」

眼鏡を外して、
水で顔や額に張り付いた前髪を書き上げる
露になる俺の顔
今までざわついていた学食が水を打ったように一瞬にして静かになった

誰も彼もが驚きの表情を浮かべて固まっている
諫早以外に、

「なぁ・・・・お前、誰に喧嘩売ってるわけ?あー俺か、俺しかいねーか?」
「・・・・・っ」
「調子こいてんじゃねーぞ、あ゛ぁ゛??!」

ガーーーンと、目の前にあった椅子を蹴り上げる
結構重いはずのソレが高く飛び上がって、2.3メートル先にけたたましい音を上げて落ちた

「・・・・・!」
「ダサい?キモイ?穢れる?・・・・・・って言うか邪魔?マジキレた、キレました・・・・・殺すぞテメー」
「ひっ!」

俺のドスの効いた声に、落合は青褪めて身体をガタガタ震わせて逃げるように後ずさって行く
でも、許さないようにズイッと大きく前に出て青褪めた顔を上から覗き込む
視線を落とそうと俯けた顔を、そうさせないように後ろ髪を掴んで無理矢理上げさせた

「いっ!」
「目逸らすんじゃねーよ、喧嘩売っといて逃げんな・・・・・きっちり、相手・・・・してやっからよ、な?」

絶対零度の笑みでもって笑ってやる
こんな雑魚、相手にもなんねーけど
今の俺の、このイラつきは納まる

それくらいは役に立ってもらおーじゃねーか・・・・・なぁ?

そう思って後ろ髪を握る手に力を込めようとしたその時、
眼が暗く閉ざされ、勢い良くテーブルに身体を打ち付けられた


ドォンっ!!


「いっ・・・・・・てーーーーなぁぁっオイ!!」
「そりゃ失礼」

にこりと笑みを浮かべて俺の視界を覆ったのは榛原杏滋
今のこのキレた状態でのこの仕打ち、
怒りは収まるどころか勢いを増していく

「退けっっ!!」
「駄目、落ちついたら退いてやる」
「ザケンなっ!!」
「だから、落ちつけって」
「るせーーー!!てめーにゃカンケーねぇだろうが!」
「そうなんだけどなぁ・・・・・しかし・・・・怒った顔もソソるな〜」
「はぁ!?」

今の状況に不似合いな榛原の言葉
一瞬だけ怒りを忘れて、素っ頓狂な声を上げてしまった
けど、言われた言葉を思い返して

ソソる?

・・・・・バッカじゃねーのコイツ!?
湧きすぎるにも程があると思うぞ!

「退け、変態」
「落ちついたらな」
「落ちついてる」
「嘘だね」
「嘘じゃねーよ」
「じゃ〜手離したらどうする?」
「決まってんだろ、飛び蹴りかます」
「落ちついてねーし」
「バッカ、落ちついてるから足技なんだっつーの」
「どんな理屈だよ」

榛原の呆れたような溜息
むしろ、疲れを含んだ溜息
でも動かせない自分の身体

どこまで怪力なんだよっ!!

「痛てーんだっよ!」

自由な手で、その顔めがけて拳を振り上げる
普通なら誰も避けきることなく当たるが、
榛原は違った

パシッ

「!」
「アブねーなー」

簡単に手のひらで受け止められて
俺がびっくりだ・・・・

「しかもー見せなくても良い顔曝け出してんじゃねーよ」
「は?」
「あ〜ぁ・・・・俺だけかと思ったんだけどな〜」
「何が?」
「お前のそのエロ可愛い顔、曝け出すなって言いてーんだよ」
「エロ・・・・・・その形容詞はウイ先輩に使う言葉だ」
「ソレはお前だけ、って言うかお前にも当てはまるから心配スンナ」
「心配なんてするはずねーし」

ぐだぐだと変な会話をしているうちに
自分の怒りが収まっていっているのに気が付いた

何だよ・・・・
コイツのお陰ってのが気にいらねー!

「あ〜ぁ・・・・じゃーマズは、知らしめておくか・・・・」
「あ?」

何を?
って聞く前に、フェロモン大王の顔が俺の首筋に落ちる
鎖骨に近い場所に唇が触れたかと思うと、ちくっとした痛みが走った

「っ・・・・!」

そのまま舌でゆっくりと舐められる

「な〜・・・落合、勘違いされちゃ困るが・・・・・これ俺のモノなんだよね?」
「!」
「好き勝手なことしないでくれるか?」

首筋に顔を埋めたまま、目線だけを落合たちに向けて
ひどく、優しく・・・・・壮絶な色気を含ませて笑った

それは全身に何かが走り抜けるほどの衝撃
向けられた落合はもちろんの事、
目にしてしまった、その場にいた全員が顔を真っ赤にしている

「分かったら誰も手、出すなよ・・・・・俺を敵に回したくなかったら、な?」

榛原は、
そこでもう一度笑って俺の首筋に目線を戻した

うーーーわーーーー
もう、すごいったらないよ・・・・・
何なの?
何なの、この感覚?
当事者だけど、別に俺に向けらたわけでもないのに
鳥肌立ってるんですけど?
ゾクゾクして
何だか得体の知れないこそばゆい感じがするんですけど!




って言うか・・・・・





一回、
意識飛ばしてもイイですか?